お試しにも程がある 290
「じゃあさ、早いうちに冷暖房の装置考えてもらわないとじゃない?
忙しくなりそうだね、デックスさん達。」
みさとは少し申し訳なさそうな顔をする。
「装置だけに頼らなくても、暖房なら暖炉作るって手もあるじゃん?
それなら…何屋になるのかな、レジアス。」
「そもそも、暖炉とは何じゃ?」
そっか、ないものを作るんだから、知らないよね。
ノートPCで画像を出す。
「こんな感じでさ、中で薪を燃やすことで、部屋を暖めるんだよ。
吊るしておけるなら鉄鍋で調理もできるんじゃないかな。」
「上の長いのは何じゃ?」
「これは煙突。
薪を燃やした時の煙を、家の外に出すんだ。」
二酸化炭素が増えると、生態系壊すかな?
森林多いから、光合成でどうにかなるかな。
魔力なら煙とか出ないし、その点はクリーンかも。
全部が全部魔導具じゃ、行き渡らないところで生活してる人が大変になるよな。
俺がそんなことを考えている間にも、レジアスからの質問が飛ぶ。
「これは、壁にくっついとるんかのぅ。
今から建てる家ならいざ知らず、既にある家には難しいんじゃなかろうか。」
確かに!
あとから付けても、煙突用の穴も開けて、煙突も作らないとか。
「確かね、壁にくっつけないタイプもあったはず。
これこれ、上に鍋乗せて加熱もできるって。」
みさとはノートPCで検索した画像を、俺とレジアスに見せる。
「成程、これなら家に煙突用の穴開けるだけで済むな。」
「家の中で火を焚くとは、暑くなりそうじゃのぅ。」
「それくらい寒くなるんだよ。
雪降ったら、外の温度は零度以下だよ。」
「雪とは何じゃ?温度というのも知りたいのぅ。」
うーむ、そこかぁ。
「雪はね、氷の欠片が雨みたいに降ってくるんだよ。
雨が氷になると思えば分かりやすいかな?」
「氷じゃと?痛そうじゃな。」
「実際には塊じゃないから、ふわふわ落ちてくる感じ。
向こうでは氷の塊が落ちてきて怪我することも稀にあったけど、こっちはそれは要らないでしょ?」
ここはベゼルに降るが、首を横に振っている。
「そんな恐ろしいものいらないよ。
雪ってやつは、絵で見た時綺麗だったからありだけど。」
「よく降るところだと、2メートルとか積もるよ。
俺達じゃすっぽり埋まるね。」
想像できたようで、ベゼルは大はしゃぎ。
「そんなに降らせていいの?
いっぱい遊べそうだね!」
スキー・スノボ・かまくら・雪合戦。
色々あるけど、それをするには…
「寒くない格好しないと、遊べないよ。
ベゼル達は気にしないかもしれないけど、レジアス達は上に羽織るもの用意しないと。
手も冷たくなるから、手袋もいるかな。」
手袋と聞いて、みさとは思わず口にした。
「素手だと、霜焼になっちゃうかもね。」
「みさともそうだしな。」
「そんなことないもん!」
「いやいや、真っ赤になって痒いって言うじゃん。」
あのぷくぷくになった真っ赤な指を思い出す。
手も足もなるからな、みさとは。
「何じゃ、寒いと大変なことになるのか?」
レジアスは訝しげに質問する。
「それはね、手足の先で血の巡りが良くないと起こる現象だよ。
ちゃんと血管が発達していればならない、子供向けの症状かな。」
「たっくん、私が子供だって言ってる?」
「あれ、そう聞こえなかった?
あのぷくぷくは可愛いよ。」
みさとは無言で、俺の腕をぺしぺししてくる。
力の加減してくれて良かった。
今のみさとが力任せに叩いたら、骨が折れるか何処かに飛んでいくか。
一応物理攻撃無効にはなっているが、攻撃に入るのかな?
「酷くなると凍傷って言って、手足を切らないといけなくなるけどね。
壊死…血液と栄養が届かなくなって、その部分だけ死んでしまうんだ。」
「寒いだけで、随分なことになるのぅ。
やはり、国を挙げての対策が必要かのぅ。」
「暑さ寒さを凌ぐための対策は、何かしら必要だね。
だから暖炉だったり上着だったり、暑い時には冷やすためのものも必要だ。」
俺は、暑いのは苦手だ。寒さは着込めばいいが、暑さは脱いでも防げない。
扇風機・クーラー・プール・かき氷、必需品は沢山ある。
俺の考えを読んだかのように、みさとは提案する。
「ダンジョンは地下だから、避暑にはもってこいかもね。」
「森の中も涼しいかもな。
そうなると、今まで殆ど人が立ち入らなかった場所も人気になるかもな。」




