お試しにも程がある 282
「こんなところがあるんだ。」
トライトンが囚われている部屋に、全員で向かう。
ディグニティを先頭に、迷路のような地下通路を進む。
脳内地図で見てるから誰かさんみたいに迷ってないことはわかるけど、凄く入り組んでいる。
分かれ道もあるから、かなり広いんだろうなぁと思う。
迷子属性のみさとには、ひとりで出歩かないで欲しいところだ。
暫く歩くうちに、目的地に着いたみたい。
普通の部屋のように、ドアをノックする。
「トライトン、少しお邪魔するよ。」
「…」
ディグニティの問いかけに、無言で応えるトライトン。
そのままドアを開け、全員で入る。
中に入ると、窓はないが見た目は普通の部屋。
机も椅子もベッドもある。
拘束されている様子もなく、囚われの身には見えない。
慎重に見ると、ディグニティの魔法がかかっていて、何某かの制限があるようだ。
「この子が例の子?
触っていい?」
「どうぞご自由に。」
ベゼルとディグニティの会話で、何をされるかわからないと身構えるトライトン。
「寝かしときましょうかね。」
ディグニティがそう言うと、トライトンはその場で倒れ横になる。
「ふむ、ベッドの上で横にしてあげればよかったか。
失敗失敗。」
呑気に感想を言うディグニティだが、そこから移動させるつもりはなさそうだ。
静かになったトライトンのそばに、俺とベゼルで近寄る。
「拓海、記憶を遡るのを一緒にやろう。」
「ちょっと待って、人物でてきたとしても俺じゃわからないぞ。」
ベゼルにストップをかけ、真面目に話す。
「え、駄目じゃん。
誰かに視てもらわないと?」
「そうだね。
レジアス・ディグニティ、一緒に視てもらうけどいい?
わかったことあったら教えて。」
どういう方法かは伝えてないけど、快く応えてくれる。
「了解じゃ。」
「面白そうだね、視せてもらおうか。」
了解は取ったから、脳内で映像共有。
勿論みさとにも視てもらう。
「お待たせベゼル、お願いします。」
俺がベゼルに声をかけると、ベゼルは俺の手の上にベゼルの手を重ねた状態で、横たわっているトライトンに当てる。
「1回やれば状況わかるだろうから、そんな感じで覚えて。」
ベゼルは言い終わると、直ぐに魔法発動。
勿論、呪文を唱えるわけではなく、魔力が動いたのを感じたからわかっただけなんだけど。
どうやら、大きな魔力使ったポイントを遡ってる感じ。
変化したり、させたり、呪術をかけたり。
どんどん遡り、エルフの国を抜けたところまで来た。
「ベゼル、一旦止まって。」
俺の声に、ベゼルは手を離す。
「どう、何かわかった?」
ベゼルは軽く聞いてくるが、その問いかけはレジアスとディグニティに俺も向けたい。
「変化させてた相手は、王弟派の腰巾着じゃな。
声と身体が合わんのも納得じゃ。」
「国を抜けた時の手引きは、シグマがやってたんだ。
暫く前に居なくなったと思ったら、そういうことか。」
「目が回った…」
レジアスもディグニティも思い当たる人物がいたようだ。
みさとには、ちょっと映像の流れが速かったかな?
「この映像だけじゃと、腰巾着ひとりの考えなのか大物の黒幕がいるのかがわからんぞぃ。」
「変化した本人を探ってみれば良いかな?」
「それしかないじゃろ。
術を使った此奴の前には現れていないようじゃからな。」
レジアスと俺で、話が纏まる。
「手引きしたエルフの方は、私が対応しよう。
ところで、そちらの国内に私が入っても問題ないかな?」
「そこは私の方で何とかしよう。
そうか、これを持っていくといいぞぃ。」
袖の袋から何かを取り出し、ディグニティに渡す。
「魔法省の職員の証じゃ。
知らん者は赤ん坊くらいじゃろ。」
そんなものあるんだ、知らなかったよ。
そんなことはおくびにも出さず、レジアスとディグニティのやり取りを見守る俺。
ベゼルはもう飽きたようで、次の行動に移ろうとする。
「で、どの時点まで戻りたいのかな?」




