お試しにも程がある 277
「ドーナツに付けてもいいよね、みさと?」
ベゼルお気に入りのドーナツに付けたいらしい。
「勿論。
ただし、食べかけをチョコに付けるのは厳禁だよ。
一口大に食材切ってあるのはその為だから。」
「ふぅん、そうなんだ。
じゃあ、丸ごと付けて楽しめば良いね。」
ベゼルは、ドーナツの穴にフォークを入れ、ドーナツ全体にチョコをかける。
皿に載せて、改めてドーナツにフォークを刺して、口に運ぶ。
「んまーい!」
それを見ていたシビックは、俺を見上げる。
「拓海、僕もあれ食べたい!」
「了解、ちょっと待ってな。」
俺はベゼルと同じように、ドーナツをチョココーティングする。
皿に載せてシビックへ渡すと、器用に自分のフォークで食べ始める。
「美味しい!
偶にはベゼルも良いことするね。」
「僕が何時もしてないみたいじゃん?その言い方。」
反論するベゼルだが、アスコットもジェイドもうんうんと頷く。
「何もしないよね。」
「寧ろ余計な事するんじゃないか?」
「酷いね君達。
だからこそいいことしたら際立つんじゃん。」
ベゼル、自分でもわかってるじゃん。
楽しそうな3人に比べ、壁際で大人しくし佇むエリシオン。
(あの3人はベゼル側、エルフだけがジェイド側ですね。
あの2人は、オデッセイ様の加護があります。
そこまで大事にされてるから、使い魔が来て守っているのでしょうか?
ということは、オデッセイ様の関係者ですかね。
どう対応したものでしょう。
アスコットも仲良く接しているようだし、その方が良いのでしょうか。)
なかなか参加しに来ないエリシオンに、みさとは声をかけに行く。
「あの、エリシオンさん、良かったら一緒におやつ食べませんか?
きっと皆で食べた方が美味しいですよ。」
笑顔で話しかけ、動くのを待っている。
「甘い物お好きですか?
お口に合うといいんですけど。」
動かないエリシオンに、再度声をかける。
「エリシオン、早く来ないとなくなっちゃうよ。」
「1回食べてみ、美味いから。」
「みさとのおやつに文句言うなら、それ以上のものを用意してみなさいよ。」
ベゼル・ジェイド・アスコットが、追い打ちをかける。
「わかりました、私もいただきましょう。」
(3人にここまで言わせる、この人間の料理とやらを試すのも一興ですね。)
そんな腹の中を微塵も現さない、綺麗な笑顔で参加する。
座ったエリシオンに、お皿とフォークを渡すみさと。
食べ方はベゼルがレクチャー。
「好きなの取って、流れてるチョコをかけてから食べるんだ。
僕のおすすめは、ドーナツだよ!」
「私のおすすめは、バナナね。」
「俺は苺、桃、パンケーキ、どれも美味いから選べないな。」
アスコット・ジェイドもお気に入りを勧める。
エリシオンは一番近いバナナを選び、フォークに刺してチョコを絡める。
皿に受けた上で、口に運ぶ。
目を閉じて、味を確かめる。
目を開き、やっと言葉を発する。
「これは…オデッセイ様に献上した方が良いのではないでしょうか。
何と美味なのでしょう。」
次に近くにあった、チーズケーキで2口目を試す。
「甘さと酸味、少しの塩味も丁度よい感じですね。」
お気に召したようだ。
みさともホッとした顔をしている。
思い出したように、シビックの方を向く。
「そう言えば、アイス食べたいって言ってたよね?」
みさとは、リュックの中から棒アイスを出す。
「ミルクだし、チョコ付けても美味しいと思うよ。」
「みさと、俺も欲しい。
苺入りね。」
「はいはい、そう来ると思ってたよ。
どーぞ!」
2本受け取った俺は、両方チョコにくぐらせ、片方をシビックに渡す。
「これも美味しいね、みさと!」
「チョコもパリってなって美味しい。」
それを見ていた全員が、みさとに殺到する。
「ね、あれ何、僕にも頂戴!」
「私も欲しいわ、みさと。」
「興味あるね、チョコがパリってなるの?」
「わ、私も試させて頂きたいですね。」
ベゼル・アスコット・ジェイド・エリシオン、食い付き過ぎだ…ディグニティとレジアスが、声をかけたそうにしているが、みさとが見えない状態。
「皆さん、落ち着いて、数はあります。
まず、溶けやすいのでなるべく早めに食べてください。
さっきまでの食材より、冷たくて硬いものです。
あんな感じで齧って食べてください。」
みさとが俺を指した瞬間、一斉に視線が来た。
「刺してある棒は食べないでね。」
俺は、アイスを堪能しつつ、ひと言添える。
「ではここに入ってますので、お好きなのどーぞ!」




