お試しにも程がある 272
「よぅディグニティ、久し振り!
ダンジョン欲しいんだって?」
いきなり現れたジェイドに驚く、ディグニティ。
さっきまで滅多に会わないと話していた本人が来るとは。
「ジェイド?
どうしたんだいいきなり!」
「いやなに、人伝にディグニティがダンジョン欲しいって言ってたよって聞いて、何か困ってんのかなーって思ってね。
久し振りだし、直接顔見ながら話そうかと。
ところで、拓海とやらはどれかな?」
レジアス・俺・みさとを眺め、質問するジェイド。
「彼が拓海だよ。
隣の彼はレジアス、こちらの彼女はみさと。」
「みさと、お土産のお菓子美味しかったよ。
ありがとね。」
ディグニティの紹介もそこそこに、アスコットはみさとに近寄る。
「喜んでいただけて良かったです。
良かったら、今日は違うケーキ渡せますよ。
私が作ったものではないけど、研究用に買ったもので、美味しかったですよ。」
「そうなの?嬉しい。
フッフッフ、あいつ悔しがるよ。
ベゼルにはあーげない!」
美人は企んでいる顔も美しい。
「え、この間アスコットがくれたおやつって、この子が作ったの?
凄いね君、ほんと美味しかったよ。
俺も欲しいかも。」
ジェイドも一緒に食い付いてきた。
「大丈夫ですよ、リュックで増えてるはずだし。
箱毎お渡ししますね。」
「やった!楽しみ。」
嬉しそうなジェイドを見て、ディグニティは溜息つく。
「で、話進めていいの?
ダンジョン、欲しいんだよ。
私のところも人が増えたし、まだまだ弱い子もいるからね。
魔石も取れると、なお嬉しい。」
「成程。
そんな感じだって、アスコット。
作って良いんじゃないか?」
ジェイドはお気楽に応える。
「何かさ、ベゼルいないのにベゼルいる感じしてきた。
似てきたんじゃない?ジェイド。」
「いやいや、あれと一緒にすんな!
俺は俺、あいつはあいつ、全く別だし。」
「そうだぞアスコット、僕は僕だ。
ジェイドとは一緒にならないぞ。」
いつの間にかそこにいるベゼル。
「おいおい、エリシオンとの仕事は終わったのか?ベゼル。」
「え、ちょっと小休憩というか、そんな感じ。
で、どうなの?面白くなりそうなの?」
こいつ絶対逃げてきたな。
質問したジェイドも聞いていたアスコットも、そんな顔をしている。
ついていけてない俺達は、まだ様子見。
「その様子だと、ベゼルは遊びに来たの?
仕事に戻ったほうがいいんじゃないの?
エリシオン怒らせると、面倒くさい…じゃなかった、大変よ。」
親切そうに言っているが、追い返したい感じもビンビンする。
アスコットは、笑顔でベゼルに声を掛ける。
「私は、面倒くさくないですよ、アスコット。
ベゼルが逃げ出したから追いかけてきただけです。」
ベゼルが応える前に、もう1人出現。
「げっ、もう来たの?エリシオン。
早くない?」
「仕事が進まないうちに逃げ出したあなたを連れ戻しに来たんです。
そりゃわかりやすく逃げたんですから、早いですよ。」
皆さん、ベゼルのお守りも大変ですね。
俺は心から同情する。
友達としては楽しく付き合えるかもしれないけど、同僚にしたら質が悪いやつだよね、このノリ。
「あー、エリシオン、ベゼルはまだ仕事終わってないのかな?
連れて帰らないとだよね。
お迎えご苦労さま。」
ジェイドの苦笑いでの一言に、エリシオンは溜息をつきながら応える。
「全く、その通りですよ。
あなたの仕事が気になって、私も次の仕事に手が付かないんです、ベゼル。
きちんと終わらせるのを見届けるまでは、離しませんよ。」
「そんなぁ。
あ、ねぇエリシオン、誰かに手伝ってもらうのは有りだよね?」
「仕事が進むのであれば問題ないですが、アスコットやジェイドに泣きつくのは無しですよ。」
「そんなことしないよ。
ね、拓海、手伝ってくれるでしょ?」
いきなり振られて驚く俺。
「え、俺?何するのさ。」
「ベゼル、人間に手伝わせるなんて無謀なことはやめなさい。
できないことを求めてはいけません。」




