お試しにも程がある 262
「決めつけはよくないが、定番だな。」
俺もお茶を飲みつつ、応える。
「でも先ずは、王妃様の回復が優先だ。
何とかなると良いんだけど。」
「たっくんなら大丈夫だよ。」
みさとは、満面の笑みで返してくれる。
期待には応えたいものだ。
シビックは一通りお菓子を楽しみ、もぐもぐしながらみさとの膝に戻る。
「どのお菓子も美味しいよ!」
どんな時でも和ませてくれるのは、コイツの才能だろう。
やるな、シビック。
みさとは、笑顔でシビックの頭を撫でる。
「会えないと何もできないから、今は待つだけだな。」
俺は1つお菓子を口に入れた。
お茶のお代わりをして待っていると、やっとレジアスが帰ってきた。
「ふぅ、待たせたな。
今から行くぞぃ。」
「わかった、行こうか。」
俺とみさとは立ち上がり、シビックは俺の肩に乗る。
「礼儀とか分からないけど、大丈夫?」
「緊急時じゃ、私からも言ってあるし大丈夫じゃろう。
では行くぞ。」
レジアスの転移で一緒に移動。
一瞬で景色が変わった。
豪華な廊下・窓・壁沿いの装飾等々。
物語やアニメで出てくる、貴族の屋敷か城のような感じがする。
リアルで見られるとは。
周りを堪能する間もなく、レジアスは扉を開く。
「戻ったぞ。
件の者を連れてきた。
危険な物は持っとらんから、確認して欲しい。」
中にいたのは、これまた高級そうな服の人々。
「レジアス殿、その方が王妃様にお会いなさると?
正気ですか?」
「無論じゃ。
魔法は私と同等、それ以上じゃ。
さ、一刻も早く会わせて頂きたい。」
レジアスも真剣だが、相手も真剣だ。
「こんな礼儀も知らなさそうだ一般人に王妃様を診てもらうと。
何かあったらどう責任を取っていただけるんですか?」
「私の命をくれてやろう。
そちらには、その覚悟があるのか?」
レジアスの剣幕に、怯む相手。
「わかりました。
身体検査からさせていただきます。
両者とも、こちらへ。」
何とも言い難い顔をして、俺達を誘導する。
別々に部屋に入り、服を脱いで確認。
その間シビックは、レジアスと一緒にいた。
チェックも終わり、ぞろぞろと王妃の元に向かう。
扉の前に立っている衛兵に開けてもらい、中に入る。
ベッドに横たわる王妃と、侍女が1人。
「王妃様、失礼いたします、レジアスでございます。
先程お話させていただきました者が参りました。」
レジアスは丁寧に、静かに挨拶する。
「レジアス、私のためにありがとう。
どうぞこちらへ。」
弱々しい声ではあるが、気品漂う物腰。
俺はレジアスと一緒に、ベッドの王妃の近くに向かう。
「お初にお目にかかります、王妃様。
星野拓海と申します。
こちらは妻のみさとです。
本日は、無茶なお願いを聞いていただき、ありがとうございます。
早速ですが、拝見してもよろしいでしょうか。」
「宜しく頼みます。」
「では、お手を失礼いたします。」
見るだけでいいのだが、何もしないと怪しまれるので、静かに手を取る。
ナビ、どうかな。
『確認しました。
病気ではなく、呪がかかっています。』
解除可能かな。
『可能です。
解除しますか?』
いや、まだ待ってくれ。
「レジアス、王妃様は病気ではなく呪がかかっているようだ。
解除していいだろうか。」
「何と!」
そう話している間に、宮廷医師が入ってきた。
「失礼いたします。
知らない者が診察に来たと聞き、参りました。
王妃様は無事ですか、何もされてませんか。」
ツカツカと近寄る宮廷医師。
レジアスから簡潔に現状を伝える。
「王妃様は病気ではなく、呪がかかっているそうだぞ。
どういうことだ、宮廷医師殿。」
「な、何を言っているのですか。
呪ですって?馬鹿馬鹿しい。」
「では、直してもらってよろしいですな?」
「…勿論だ、お願いしよう。」
「許可は出た。
拓海、宜しく頼む。」
「了解。」
呪解除っと。
「終わりました。
ご気分は如何でしょうか、王妃様。」
声を掛けると、王妃は横たわっていたベッドから起き上がった。
「体が軽いわ、どこも痛くない。
何が起きたのかしら。」
「呪がかかっていたので、解除しました。
無事できたようで何よりです。」
王妃と会話している後ろで、うめき声が聞こえていた。
宮廷医師が苦しんでいる。
「どうした、宮廷医師殿。
具合でも悪いのか?」
レジアスが声を掛けるが、返事が返ってこない。
余程痛そうだ。
『呪返しに遭っている模様です。
これでかけた者が判明しました。』
成程ね、マッチポンプか。
「呪返しに遭ってるんだろうよ。
かけた本人じゃないかな?」
皆一斉に、宮廷医師に注目する。
「あれ、宮廷医師さんてエルフなんだ。」
みさとの呑気な声が聞こえてきた。
何だって?
改めてみると、確かに耳長さん。
でも、周囲の人達は、憤慨して反論する。
「何を言っておる、宮廷医師は人間だ。
エルフなど王族の近くに置くものか!」




