お試しにも程がある 258
「一人暮らしするなら、仕事が気になるから一旦戻ろうかな。」
「仕事人間だな、聡太は。」
「いやね、やりかけのプロジェクトがあるわけさ。
リフレッシュできたから、違う側面から考えられるかもって思ったんよ。」
成程、気掛かりがあった訳だ。
「それなら引き留めるわけにはいかないよな。
戻るなら送るよ?」
「そうだね、だらだら居たくなっちゃうからお願いしようかな。
俺でもできたら良いんだけど。」
「試してみれば良い。
何処に戻るんだったかな。」
俺が悩んでいると、みさとが教えてくれた。
「確か、聡ちゃん家の玄関から、車なしで戻ってきたはず。」
「そうそう、この指輪渡しに来てくれたんだよね。」
聡太は自分の手にはめた指輪を見る。
「渡したのは王冠で、指輪にしたのはお前だけどな。」
「向こうに行ったら、念話試すんだよね?
転移もできないかな。」
「やってみりゃいいじゃん。
あ、シビックは置いてってな。」
聡太は抱えていたシビックをはたと見て、みさとに渡す。
その上でソファに座り直す。
「んー、やっぱ無理!
できなかったよ、父さん。」
「そうか、じゃあ送ってくよ。
みさとも行くだろ?」
「行く行く!」
「僕も行くよ!」
結局、全員で戻ることにした。
聡太の家の玄関に辿り着く。
「我が家だ、私は帰ってきた!」
気持ちはわかるよ、うん。
「じゃあ、仕事頑張れよ、聡太。」
「偶に見に来るから、こっちが嫌になったら向こうで遊ぼうね、聡ちゃん。」
「聡太、また遊んでくれる?」
シビックが1番寂しそうだ。
聡太は、みさとが抱えているシビックの頭を撫で、優しく応える。
「勿論だよ、シビック。
俺の方こそ、また一緒に遊んで欲しいな。
何か面白いことあったら、教えてよね。」
「うん!」
シビックが元気になったところで、帰ることにした。
「またな聡太、帰ったら念話を試すから宜しくな。」
「おぅ、待ってるよ、父さん。
母さんも、シビック宜しくね。」
「そこは任せて。
ご飯もいっぱいあげとくよ。」
一旦自宅マンションに戻っては来たが、何かやることはあるだろうか。
「みさと、何かやりたいことある?」
俺に聞かれて、首を傾げるみさと。
「そうだなぁ。
向こうで出してないご飯とかおやつとかあれば、食べに行きたいな。」
「何が良いかな。」
「全然関係ないかもだけど、中華が食べたい!」
「良いんじゃない?行こうか。」
「うん!
帰りにケーキ屋さんも寄ってね。」
「了解。
いつもの中華屋でいいの?」
「うん。
単品料理幾つも頼みたいけど、お腹入るかなぁ。」
勉強熱心なみさと。
「みさと、食べるのは僕に任せて!」
そうだ、強い味方がいた。
「個室にしてもらって、沢山頼もうか。
食べたことないのも試せば良い。」




