お試しにも程がある 255
「えっと、一度リュックにしまって増やそうか。
ちょっとだけ待ってね、シビック。」
みさとは、魔石をリュックにしまってから、再度取り出す。
受け取ったシビックは、そのまま口に入れた。
「うん、やっぱり美味しい!」
嬉しそうなシビックを見た聡太は、俺達と同じ考えに行き着いた。
「ねぇ、俺も食べてみたいな。」
「おぅ、増やしてやるから、待ってろ。」
俺とみさとは美味しくないのは体験済みだが、聡太もやらないとわからないだろう。
「ほい、無理に齧るなよ。」
「ありがとう!」
聡太は魔石を受け取ると、取り敢えず舐めてみる。
大きいので、流石にシビックのようにひと口は無理そうだ。
首を傾げつつ、もう一度舐める。
やはり味がしなかったのか、齧ろうと試す。
「無理すんな、聡太。
シビックだから楽しめるだけで、俺もみさとも食べられなかったぞ。」
「それは残念。
シビックが美味しそうに食べてるから、美味しいのかと思ったよ。」
しょんぼりした聡太。
歯が欠ける前にやめてくれて良かった。
「これ、俺が貰っても良い?」
手に持った魔石を眺めつつ、聡太が問う。
「良いけど、向こうの世界では出すなよ。
どう鑑定されるかはわからんし。」
「本当に綺麗だよね。
記念に取っとこ。」
俺の応えを聞いた上で、ショルダーバッグにしまう。
「その中じゃ増えるけどな。」
「思い出が増えるのは良いんじゃない?父さん。」
「思い出が増えるかは、疑問の余地があるぞ。」
そんな俺と聡太のやり取りを聞いて、にこにこするみさと。
「仲いいなぁ、変わってないね。」
みさとの側でもぐもぐしていたシビックは、満足そうだ。
「オデッセイ様に貰ってたお菓子に近くなってきた。
もっと出てこないかな、ドラゴン。」
ちびっ子が、とんでもないことを言う。
「この先出てくるかもしれないよ?」
みさとの楽観的な観測を、否定するかのように宝箱が出現。
箱を開ける前に、俺達は転移させられた。
「いやーやられたよ、流石だなお前達。」
例の部屋で、ロデオが出迎えた。
「やっぱりロデオさんだ!」
「おぅ、ロデオさんだぞ。
俺んとこは、強い魔物出すから階層は浅めなんだ。
普通の奴なら、下に降りられるかも怪しいぞ。
攻略されるとは、参った参った。」
頭を掻きつつ、ロデオは感想を述べる。
「最後のドラゴン、美味しかったよ!」
シビックはあっけらかんと伝えたが、ロデオには困ったことのようだった。
「ドラゴンより強い奴、思いつかないんだよな。
個体数増やすか。
若しくは、お前がダンジョンボスやるか?シビックよぅ。」
「僕はやらないよ。
また来るね。」
「連れないやつだな。
ま、しょうがないか。
拓海達は楽しめたか?」
「「楽しかった!」」
みさとと聡太は素直に答える。
「俺達は良いけどさ、絶対攻略させる気ないだろ?ロデオ。」
「おいおい拓海、人間たちの好きな、試練てやつだろ?
簡単に攻略できたら、練習にならないしな。」
「大食いも試練なの?」
みさとが疑問を口にする。
「あれはさ、疲れたときには食べて回復しろっていう俺の優しさだよ。
大事だろ、食事って。」




