お試しにも程がある 247
「おや拓海、いらっしゃい。
どうしたんだい?お茶でもいるかい?」
「ミレーニアさん、お邪魔するね。」
キッチンは、できあがった料理の良い香りで空きっ腹を刺激する。
「みさとがね、俺達サイズの食器等を置いていきたいって話したと思うんだけど、邪魔にならないようにしたいっていう要望に応えられるか確認に来たんだ。」
俺は、ウエストポーチから程良いサイズの箱を出す。
「これね、中に沢山入るようにしてあるものなんだ。
後、壊れたり曲がったりしたら捨てても良いように、一定数は常にあるようになってるよ。
数多く取り出したいときは、欲しい個数思い浮かべると出てくるからね。
この箱だけなくさなければ、いつでも使えるよ。」
俺の説明で理解してもらえたようで、ミレーニアは驚いた顔をしている。
「そんな便利な箱なのかい?
なくさないし、外にも出さないよ。
父ちゃんにだけは、言っておくけどね。」
「あはは、良いんじゃないかな。
他の人には言わないでもらえると、助かります。」
「勿論さ。
父ちゃんにも、食器が入っているから動かさないようにとだけ伝えるよ。
場所取らないのは有難いね。」
ミレーニアは箱を持ち上げ、色んな角度から見る。
その間に、みさとが俺に耳打ちする。
「なくなった時に、何処にあるか探せるようにしたらどうかな。
盗まれるはないかもだけど、このお家の中じゃ、この箱小さい部類みたいだし。」
その意見には、俺も同意。
こっそりその機能も追加した。
俺は希望通りにできたことを、みさとに合図する。
みさとはわかってくれたようで、ニコニコしている。
「ミレーニアさん、お料理冷めないうちに運ぶね。」
「俺も運ぶよ。
端からで良いかな?」
「うん、ありがとう。
溢さないように気をつけてね。」
確かに、山盛りの料理である。
俺はこっそり、動かなくして軽くする魔法もかけた。
落として食べられないなんて、勿体ない事はできない。
みさとも、重くはなさそうだが、慎重に運ぶ。
リビングのテーブルの端に置くと、ボンゴが程よいところに置き直してくれた。
何回か往復し、ご飯と味噌汁も運ぶ。
鰤しゃぶ用の鍋は、最後にミレーニアが運んできた。
「母ちゃん、この鍋何だい?」
ボンゴが聞くと、ミレーニアは先に持ってきてあった鰤の薄切りを指して言った。
「この鰤の薄切りに、さっと火を通すんだってさ。
やり方はみさとが教えてくれるよ。」
そう言いつつ、鍋の蓋を開ける。
流石にコンロはないので、魔法でずっと沸々するくらいに保つようにした。
「おいおい、火をかけてないのに湯が沸いてるぞ。」
「ボンゴ、魔法だよ。
本当は、こんなことができる道具あればいいのにね。」
道具と言われて、考え込むデックス。
「鉄の板に刻印して、魔石嵌めるか何かすれば、どうにかなるんじゃねぇか?」
独り言のように呟いたつもりだろうが、何しろ声が大きい。
普通に聞こえていたクレスタは、商品にできるかもと聞いて乗り出してきた。
「良いですね、それができれば家でもこんな形で鍋ができますよ。
魔石は高いから長持ちしますが、少し安価にするなら水晶に魔力込めるようにすれば、冷蔵庫みたいに長持ちするかも。」
「使う時しか発動しないから、大きさにもよるが魔石なら交換も要らないかもな。」
クレスタとデックスで、話が進んでいく。
「刻印で調整するとしたら、加熱の程度かな。
今みたいに沸々させる保温のようなものと、調理のための加熱くらいか。」
ルクラもできることを考え出した。
「携帯用コンロかホットプレートみたいだね。」
話を聞いていた聡太が、俺に耳打ちする。
「確かにそうだな。
それなら、店で鍋も出せそうだ。
すき焼きとかしゃぶしゃぶも良いな。」
「焼肉もできるし、お好み焼きも良いんじゃない?」
「なんか商売の話ししてますよね、聞かせてもらいましょうか?」
俺と聡太の会話に、クレスタが入ってきた。
そこに、静かなみさとの声がかかる。
「皆さん、食べながらお話でも良いんじゃない?」




