お試しにも程がある 243
「鞘に名前入るの、喜ばれるぞ。
ホントに皆同じ物持ってくるから、最終的に数が合えばいいくらいになってる。
名前ついてれば、誰のが無いか分かるからな。」
ボンゴは、腕組みしながら鷹揚に頷く。
多くの人に使ってもらっているようで喜ばしいことだ。
「需要があるならさ、既に買った人の名入れも受け付ければ?
値段は同じ銀貨1枚で。」
思いつきを口にした俺に、反応したのはクレスタ。
「それは良いね。
ただ、預かるのは難しいよね、いつも使ってくれてるんでしょう?
だからさ、デックスさんとルクラさんには偶に修理名目で来てもらって、希望あれば名入れしますってどうかな?
これなら、どれが誰のか分からなくならないし、その日に持って帰れるんじゃない?」
聞いていたデックスとルクラは、2人して腕組みして考える。
「それは良い案だな。
利用者の様子も分かるし、希望も聞けるし、職人としてはありがたい話だ。」
「俺は、名前彫るだけならそんなに時間かからないからな。
その日に終わるのはありがたい。
だが、移動は俺達じゃできないぞ?」
ルクラは、問題点を指摘した。
「それは僕と一緒に行きましょうよ。
ちゃんと窓口になりますから。
勿論、日当も出しますよ。
ボンゴさんは、どう思います?」
「おぅ、皆喜ぶぞ。
まだ刃が欠けたって話も聞かんが、いずれ出てくるだろう。
切れ味も変わらないが、よく使う奴らばかりだからな。」
ボンゴのところは、ボンゴの仕事用とミレーニアの台所用の2本ある。
他の人達も、仕事で使っている包丁の切れ味を見て、家庭でも利用したいとせがまれているそう。
まだまだ売れそうなので、アフターケアも考えないとね。
「クレスタ、向こうで包丁売る際にも、同じサービスしたら喜ばれるんじゃないかな?」
序でにとばかり提案した俺の言葉に、クレスタはいい顔をしない。
「あっちはさ、買った人確認するのが大変なんだよね。
うちの店舗で買った人限定なら良いかな。
ちょっと割高だしさ。」
しっかり商人の顔になってる。
「色んなところで売ってるから、各地方に行かないといけないし。
デックスさんとルクラさんを連れ回すと、生産効率も悪くなるしね。」
「作る量少なくなってきたら、そっちも回ってみたいがな。」
「まだまだ先になりそうだな、それ。」
デックスの希望に、ルクラが水を差す。
ガッハッハと笑い合う2人。
更にクレスタは、希望を口にする。
「まだ造りたいものもあるしね。
そっちではやっても良いかな。
でも店舗限定だよなぁ。」
まだまだ悩むクレスタに、みさとが思いついたことを言う。
「名前入れて人にあげるなら、贈り物に丁度いいかもね。
あなただけのものですよって感じ出るし。」
みさとの意見に、俺も同意。
「成程、それはありかも。
名前入ってるのって嬉しいよね。」




