お試しにも程がある 231
「チョコはチョコレートって言って、カカオ豆から出来る甘いものなの。
こっちでは見かけなかったから、ないのかなと思ってたんです。
心当たりありますか?」
みさとからの回答に、また疑問を持つクレスタ。
「カカオ豆?」
「カカオの実から取出して乾燥・焙煎・細かくしてって、凄く手間がかかるものなんですよ。
色は黒とか茶色が近いかな。」
クレスタはみさとから聞いた内容を自分の中で反芻する。
「もしかして、薬のこと?あの苦いやつ。」
「知ってるの?クレスタさん。」
「知ってるというか、合ってるかは分からないけど、気付薬とか元気の無い人に処方されるのがそんな名前だった筈。
黒くて苦くて、あんなの飲んだらそりゃびっくりしちゃうよね。」
俺はみさとと顔を見合わせ、頷く。
「クレスタ、それって手に入る?」
「できるけど。
ちょっと待ってて。」
席を外したクレスタは、職員に言付けて在庫を持ってくるよう指示。
薬か、市場では気にもしなかったな。
確かに、昔は薬として使われてたってネットで見た気がする。
用意してもらった薬は、ほぼ黒。
匂いは、チョコに近い。
ナビ、どうかな?
『マスターの認識通りのカカオに該当します。
混ぜ物なし、100%です。』
マジか。
美味しくするには、砂糖とか生クリーム混ぜれば大丈夫かな?
『その通りです。』
キタコレ。
「みさと、カカオだね。
クレスタ、味見しても良いかな?」
「良いけど、本当に苦いよ。」
許可を得て、俺とみさとは指につけて味見。
言われた通り苦いし、酸味もある。
「クレスタさん、これ使ってみたいんだけど、沢山ありますか?」
みさとの質問に、真面目な顔したクレスタが応えた。
「あるけど、高いよ?
作る工程が大変だから、値が張るんだ。」
「わかりました。
取り敢えず金貨1枚で買える分だけください。」
即決したみさとに、笑顔で応えるクレスタ。
「毎度ありっ!」
直ぐに対応できる在庫はあるようだ。
流石クレスタ、抜かりはない。
用意された量は5kgないくらいだろうか。
金貨1枚でこの量は、確かに高いようである。
チョコにはできるかもしれないが、食べ物として出すには高くなるのではなかろうか。
「クレスタさん、効率よく大量生産できれば、安くなりそうですか?」
同じことを考えていたのか、みさとから質問が飛ぶ。
「そうですねぇ。
あまり使用頻度が高くないので作られないのもありますが、粒が硬くて作業自体が大変みたいですよ。
効率よくできるかなぁ。」
「どうやって粉にしてるんですか?」
「すり鉢で頑張ってくれてますよ。」
クレスタは、身振りを交えみさとに応える。
「そりゃ大変だ。」
俺は想像しただけで、感じたことを思わず呟いてしまった。
「細かく砕いてから、石臼で挽くとかどうかな?」
「石臼?
そんなものでもてきるの?
結構硬いよ。」
ポンと手を叩き、みさとが提案。
「じゃあやってみますか?
カカオ豆あれば、焙煎から始めますけど。
時間はかかりますよ?」




