お試しにも程がある 22
「ねぇたっくん、ラーメン食べたくない?」
唐突なみさとの質問に、すぐさま反応。
「食べたい!
この間も言ってたけど、できるの?」
「考えてたんだけど、鶏ガラとか豚骨とか近くで手に入るんだよ?
やってみても良くない?
他の料理も美味しくなりそうだし。」
言われてみれば、確かに手に入る環境ではある。
ターセルは鶏・ラッシュは豚を肉として出荷しているから、骨はあるのではなかろうか…
「声かけて売って貰えるか聞いてみるか。」
「レジアスさんから連絡まだないかな?
善は急げだよね!」
行く気満々のみさとは、家に着くなり出掛けようとしている。
「容れ物持っていかないとかな。」
「みさと、その前にどれくらいの量でどれくらい出来るか確認した方が良いんじゃない?」
「それはさ、やってみないとわからないじゃん?
作り方は調べるけど。」
みさとは、試さないと気が済まないタイプだった。
言い出したら止まらない。
「わかったよ、声掛けてみようか。」
家で1番大きな鍋をリュックに入れて、早速出掛けた。
先ずはターセルの所へ。
「こんにちは、ターセルさん。お邪魔してもいいですか?」
「いらっしゃい、みさとさん、拓海さん。
今日はどうしたの?」
「実は、お願いがありまして。
鶏の骨を売っていただきたいのですが、如何でしょう?」
「骨!?あんなもの何するの?」
「いい出汁が取れると聞きまして、作ってみたいんです。」
「いつも捨てるのに困ってたから、あげるよ。
好きなだけ持っていってくれる?」
「え、それは悪いですよ。」
「骨の処理で人手取られてホントに困ってるのよ。
引き取ってくれるなら、有難いくらいだよ。」
「むむむ。
じゃあお言葉に甘えて、今回は頂きます。
美味しくできたら、持ってきますから味見してくださいね!」
「えぇ、楽しみにしてるわ。
沢山あるから、こっちに来て。」
促されるまま着いていき、骨置き場に辿り着く。
解体直後の骨が、山盛り。
「繁盛してますね、ターセルさん。」
「あらありがとう、拓海さん。
売れるのはありがたいけど、朝から忙しくてねぇ。」
「カムリさんとこみたいに、冷蔵庫置けば捌いたの貯めて置けるんじゃない?」
「冷蔵庫?そんなの使ってるの?」
「えぇ。
バターやチーズ溶けないように、この間部屋全体を冷蔵庫にしてましたよ。
作り置き出来るようにって。」
「ふぅん、早速話聞きに行かないと!
でも、お高いんでしょうねぇ。」
「そこは要相談で。」
「おや、拓海さんが作ってるの?」
「出来ますよ。
カムリさんとこで使い勝手聞いてからでも良いんじゃないですか?
前日捌いたものを翌日購入者に渡すのも出来るなら、もう少し時間を自由に使えると思いますよ。」
「それは便利だねぇ。
沢山入るように、部屋ごと出来るならそうして欲しいねぇ。」
「カムリさんもそう言ってましたよ。
だから、1部屋丸々冷蔵庫にしました。」
「そうなんだ。
良いこと聞いたよ。
早速だけど、お願いしようかしら。
どれくらいまで冷やせるの?」
「凍らせるのもできますよ。」
「凍らせる?
いやいやそこまでは要らないけど、凍る手前の温度にできるかしら。
扉の開け閉めで温度下がるといけないし。」
「出来ますよ。」
「あらそう?
じゃあお願いするわ。
どの部屋にしようかしら。」
「捌く部屋の近くが良いですかね?」
「そうねぇ、あの部屋にしたいわ。
こっちよ。」
ターセルは、骨の部屋の隣の部屋に入る。
作業部屋の横に、解体した肉を置いている部屋があり、そちらに向かう。
そこそこ大き目の部屋で、幾つもの棚が並んでいる。
「扉もあるし、この部屋にしたいわ。」
「わかりました。
魔法使える人居れば温度調節も出来ますが、どうです?」
「流石に居ないわね。
なるべく低めの温度で、一定にお願いね。」
「では早速。」
ウエストポーチから水晶を出し、部屋に設置。
多めに魔力を入れて、動きを見る。
直ぐ様ヒンヤリしてきて、あっという間に寒くなった。
「どうでしょうか。」
「凄い威力ね。
これなら、捌いて置いておいても大丈夫そう。
ありがとう、拓海さん。
お支払いはあちらの部屋でしますね。」
そう言うと、ターセルは更に隣の部屋に進んだ。
金額は、カムリと同じ値段で伝えた。
「何かあれば調子見に来ますから、言ってくださいね。」
「ありがとう、安心だわ。」
そうして、みさとの居る骨置き場まで2人で戻った。
みさとは、用意していた大きな鍋に、骨を山盛りにしているところだった。
「みさとさん、そんなに頑張らなくても、また持っていってよ。」
「ターセルさん、美味しくできれば骨も売れるかもしれませんよ!」
「それは嬉しいねぇ。
細かくして捨てるだけだし。」
「細かくするなら、畑やってる人には肥料になるんじゃないかな。」
「そうなの拓海さん?
じゃあ鶏の餌持ってきてくれる人に試してもらおうかしら。」
「そういう伝手良いですね。」
「そうねぇ、長い付き合いだしね。
それなら、卵の殻も栄養になるのかしら。」
「そうみたいですよ。鶏は優秀ですね。」
「うちの子を最後まで使ってもらえるなら、その方が良いわ。
捨てるの、嫌だったのよね。」
「そうですよね。」
その後も少しおしゃべりをしてから、鍋いっぱいの骨を抱えて、ターセルの家を出た。
「ねぇたっくん、早速作ろうよ。」
「豚骨はまた今度で良いのかな?」
「うん、欲張るのは良くないしね。
1つずついこうか!」
鍋をリュックにしまい、家路につく。
いつもより少し早歩きになっているみさと。
今にもスキップしそうなくらいだ。
家につくと、早速リュックから骨入りの鍋を出す。
PCも取出し、作り方も検索。
「何々…洗って湯引きして強火で茹でてから灰汁取って弱火でコトコト。
成程、やってみよう!」
何事も無さげに取り掛かるみさと。
PC開いたままなので俺も覗き込むと、確かに簡単そうには書いてある。
ただ、手間と時間は掛かりそうだ。
みさとが骨を水洗いしてる間に、俺は鍋に張った水をお湯にする。
細かい作業を丁寧にするみさと。
洗った骨がどんどん積み上がっていく。
ひと鍋分の作業が終わったのか、ふぅと一息ついている。
「お疲れ様みさと。
これにお湯かければいいのかな?」
「うん。かけるのはやるから大丈夫だよ。
お湯の準備ありがとね。」
大きめのザルに骨を重ならないように器用に並べ、鍋を手に取る。
骨とは違いお湯が入っているので、結構重いはず。
みさとは簡単そうに持ち上げ、少しずつお湯をかけ回す。
最後は全体的にかかるようにして、終了。
その鍋にもう一度水を入れる。
「たっくん、もう一度お湯にしてもらえる?」
「いいよ。」
瞬時にお湯にして、湯気が立つのも確認。
みさとは、骨を裏返してもう一度かけたいみたいだ。
手を洗って鍋掴みで再度鍋を持ち上げる。
同じようにかけて、汚れてた部分を取り除く。
「ふぅ。
後は水張って葱とか入れて取敢えず煮立たせて灰汁を取るっと。」
空いた鍋にきれいになった骨を入れて、たっぷりの水を入れる。
葱・生姜・大蒜等入れて、火に掛ける。
「お鍋持てて良かったぁ。
以前は重くて持てなかったよ、きっと。」
「そっか、こっち来てから強化されてるもんな。
料理にも役立つとは思ってなかったよ。」
「ベゼル君様々かなぁ。
胡麻油の時も思ってた。」
「確かにね。
今思うと、凄いタワー作ったなと思ってたよ。
シビックじゃあそこまできれいに積めないでしょ。」
「どうなんだろうね?
頼もうと思ってなかったから、考えもしなかったよ。」
呼ばれたと思ってこっちに来るシビック。
「呼んだ?」
「いや呼んでないよ。
話題に出ただけ。
そういえば、胡麻油の時は見張り番頑張ったって言ってたよな。」
「そうだよ!
おやつ食べてから、見張り番頑張った!」
胸を張って頑張ったアピールするシビック。
「うん、頑張ったな。
お陰で料理美味しかったもんな。」
「美味しかった!また食べたい!」
聞こえてきたシビックの声に応えるみさと。
「またそのうち作ろうか。
同じものばかりじゃ飽きちゃうし、今試してる鶏ガラスープ取れれば、もっと美味しくできるかもよ?」
「凄いねみさと、頑張って!」
「上手く出来ると良いね。
シビックは味見してくれるでしょ?」
「勿論!」
「おいおい、シビックは何時も美味しいしか言わないじゃないか。」
「美味しいものは美味しいから仕方ない!」
「あはは、ふたりは仲良しだね。
まだ時間かかるからゆっくりしててね。」
そう言うとみさとは、鍋の方に向き直す。
グツグツしだした鍋から、丁寧に灰汁を取っていく。
魔法での瞬時の加熱は、断られた。
「たっくん、手間が必要な時もあるんだよ。
別の工程でお願いするかもしれないから、その時は宜しくね。」
「わかったよ。
食べられるとわかると、待ち遠しいな。」
「上手く出来ると良いね。
最初は醤油ラーメンかな?
鶏ガラスープ活かして塩ラーメンかな?」
「迷うねぇ。」
そんな会話を楽しんでいると、レジアスから念話が来た。
(拓海、いいかの。)
(どうぞ、レジアス。)
(研修の日程だが、明日からになった。)
(明日?
随分早いね、対象者は準備大丈夫なの?)
(アイシス曰く、皆喜んで準備するとの事だ。
どんな手を使ったのやら。)
(あはは、聞いたら駄目なやつなのか皆を労ったほうが良いやつか迷うね。)
(うむ。
その辺りはこちらで何とかするので、研修は付き合ってもらえるかの。)
(わかったよ。
何処に向かえばいいの?)
(どうせ転移で来るんじゃろうから、長官室に居る時に連絡するから私の所に来てくれ。)
(ありがとう、助かるよ。)
(ではまた連絡するの。)
「みさと、急で悪いけど研修明日だって。」
「そーなの?
スープ今日中に出来るかなぁ。」
「弱火でコトコトが時間かかるんだよね?
魔法で時短してみる?」
「お願いしようかな。」
「わかった。
いいタイミングで声掛けてね。」
「はーい!」
更に出てきた灰汁を、みさとは取り続ける。
暫くして、弱火にしてから時短の魔法をかける。
一旦火を止めて、様子を見る。
「ねぇたっくん、この状態でリュックに鍋入れるの危ないかなぁ?」
「いいんじゃない?
鍋掴みも一緒に入れるとかで。」
「成程ね!そうしよう。」
みさとはリュックを開け、鍋掴みで鍋を持ち上げ、慎重に入れる。
吸い込まれるように入り、ほっとひと息つく。
中を覗き込み、鍋掴みで再度鍋を持ち上げる。
出てきた時には、元の大きな鍋になっている。
蓋を開けると、まだ湯気が立ち昇る。
味見のため掬い取り、口に含む。
とても良い香りと、滋味が広がる。
小皿に取り分け、拓海にも渡す。
「先味見してごめんね。
お試しあれ!」
「作ったのはみさとなんだから、当然だよ。
ではでは…」
なんともいえない旨味が口に広がる。
「ラーメン早く食べたい!
俺は醤油が良いなぁ。」
「美味しく出来ると良いね。
麺も作ってみないとねぇ。
餃子出来たから、雲呑も出来るよね。
叉焼も頑張ろ!」
「みさとさん、ラーメン屋開くのかい?」
「そんな面倒いことしないよ。
美味しく食べられればいいのだ!」
「クレスタに言ったら、ターセルさんとこの骨、売れるんじゃない?」
「それなら、ラッシュさんとこの豚骨も試してからが良いのでは?」
「どっちにしろ、レジアスの用事済ませてからだな。」
「ラッシュさんとこにも行っておけばよかったなぁ。
豚骨スープも試せたのに。」
「欲張らず、ひとつずつでしょ?
焦っても駄目だよ。
先ずは美味しいラーメンを試そう!」
「たっくん、味見宜しくね。」
「お任せあれ!」




