お試しにも程がある 21
「今回も美味しかった!販売決定です。
早速ですが、材料と作り方教えてもらえますか?」
ほぼほぼ試食でお腹いっぱいになったクレスタは、目を爛々とさせて前のめりで聞いてくる。
売れること間違いなしの顔だ。
「気に入ってもらえてよかったです。
材料と作り方はざっくり書いてきました。
また作る担当の人来たら、実際にやってみますよ。」
「みさとさん、準備良いですね。
有難うございます。」
紙を受取ると、クレスタは食い入るように読み始める。
「ふむふむ、ちょっと手間はかかりますが、前日から仕込んでおけばなんとかなるかな。
この胡麻油と辣油も、仕込みが必要ですね。」
「さっき言ってた調味料を売る店の方で、胡麻油も辣油も売れると効率いいんじゃないかなと思ってるよ。」
「そうだね、新メニューと一緒に出したら売れるね。
具入りの方は僕も気に入ってるから、常備したいよ。
更にこれらを使ったメニュー出てくるんでしょ、きっと。」
「みさとはその予定みたいだよ。」
「私も食べたいから、美味しくできたら持ってきますね。」
「期待してます、みさとさん。
じゃあ、調理担当連れてきますね。」
担当者とみさとがキッチンに消えると、クレスタは身を乗り出して俺に聞いてきた。
「拓海さん、先ずは胡麻油の作る装置の相談だ。
まとめて作れるのかな?」
「みさとがやってたのは、胡麻を煎って潰して蒸して圧縮して濾してたかな。
出来上がりはこんな感じ。」
ウエストポーチから、みさとが作った胡麻油の瓶を取出す。
透明度が高い、少し茶色がかった色。
クレスタが蓋を開けると、胡麻の良い香りが漂う。
「これはなんとも良い香り。
料理に使っても香りが負けてなかったし。
仕上げにひとかけでも良さそう。」
「よくご存知で。
そうなんだよ、ちょっとかけるだけでも食欲をそそる感じになる。」
「辣油にも胡麻油使ってるんでしたっけ?」
「そうらしいよ。
因みに、この一袋で5〜6本かな。」
みさとが仕入れていた胡麻の袋を、取出してみせる。
「ほぅほぅ、結構使いますね。
仕入先は知合いいるので大丈夫。
後は、流れ作業で効率化させて…」
ひとりで考え込むクレスタ。
作業場の選定・機材・人数・材料その他、スラスラと書き出していく。
俺は丸投げするだけだからな、頑張ってくれ。
テーブルの上には、紙が散乱しだした。
よくよく見ると、冷蔵庫も一緒に考えているらしい。
凄いなこの人。
お茶を飲みながら暫く様子を見ていると、キッチンから良い香りが漂って来た。
調理担当とみさとが戻ってきて、出来上がったものを持ってきた。
「揚げ餃子も作っちゃった。
とんかつとか揚げてるし、良いかなと思って。」
「成程、その手もありますね。
これはこれで美味しそう。」
お腹いっぱいと言いつつ、試食するクレスタ。
「また違った食感で良いですね。
これも出します。」
クレスタと調理担当で擦り合わせ、更にメモが増えていく。
その間にみさとは、プリンとチーズケーキを皿に出して生クリームも添えて配る。
「チーズケーキはフルーツソース添えても美味しいかも。
アイスクリームにも合いますよ。」
「それじゃパフェになるね、みさと。」
「それだたっくん!
ちょっと物色してくる。」
直ぐ様キッチンに消えるみさと。
止める間もなかった。
行動が早いのは、良いことだと思うよ、うん。
暫くして戻ってきたみさとは、両手にそれぞれ器を持っていた。
「じゃーん!
パフェとプリンアラモードでーす。」
テーブルに置かれた2つを見て、クレスタも調理担当もびっくり。
「パフェグラスは流石になかったから、大き目のグラスに盛ってみた。
どうかな、たっくん?」
パフェは下から、アイスクリーム・フルーツソース・小さくしたチーズケーキ・生クリーム・プリン・生クリームとフルーツでデコレーション・最後にクッキーも乗せてある。
プリンアラモードは平らな皿に、プリン・生クリーム・フルーツ・アイスクリーム・アーモンドフロランタンも乗っている。
「溶けないうちにどーぞ!」
「なんですかみさとさん、凄いの来ましたね。
これがデザートですね。」
「そ、そうね。
ほんとはね、プリン・アイスクリーム・チーズケーキを単体で出して生クリーム添えるだけを考えてたんだけど。
パフェって聞いたら作りたくなっちゃった。」
「このボリュームなら、デザートだけ食べに来るお客さんも居るかも。
そうなると、甘い物だけ食べられる店の方がいいかな。
食事は食事で繁盛してるし。」
「食事処と甘味処で分ける感じだね。
それはありじゃないかな。
甘い物だけ楽しめる店はいくつもあるけど、流石にパフェないだろうしね。」
「また出店準備しないと。
みさとさん、この作り方も改めて教えてもらえますか。
甘い物の新作も宜しくお願いします!」
「パンケーキにアイスクリームも美味しいよね。
シュークリームも出しましょうか。」
甘いものの話が止まらない。
みさとは食べたいものいっぱいあるだろうけど、こっちで材料あるか・作れるかは別問題。
そこに思い至ってくれるといいけど、ネットで優秀な先生に聞いちゃうんだろうな。
「ミルフィーユも作れるかな。
バターあるし、パイ生地作れるしナポレオンパイもいいなぁ。
アップルパイも美味しいよね。」
「みさと、いくつくらいのメニュー必要か聞いて、残りは順番に新メニューにすれば良いんじゃない?
全部いっぺんには多分難しいよ。」
「拓海さん、ありがとう。
みさとさん、先ずは5〜6個とアイスクリーム、お茶等で始めてみようかと。
応用が効くメニューであれば、追加も簡単ですしね。
如何でしょう?」
「そうですね、私も試してから作り方お渡ししますね。
ちょっと気が急いてしまいましたね、ごめんなさい。」
「いえいえ、いつもメニューの提供は本当に助かってます。
これからもどんどん教えて下さいね。」
一段落ついたところで、今日はお開きになった。
帰りはのんびり、車で空中ドライブ。
下に見える景色を楽しみながら、みさとは呟いた。
「クレスタさん、またお店開くんだ。
凄いね。」
「メニュー提供した人が何言ってんの?
喜んでもらえたんじゃないかな?
まぁ、他にも手広くやってるだろうし、店舗増えたくらいじゃ大丈夫だよ。」
「そうだといいなぁ。」
「レシピいくつか作って渡さないとね。」
「うん!
試しに作るから味見よろしくね。」
「楽しみだな。
再現難しいんじゃない?」
「ほら、ネットで先生に聞けばなんとかなるよ。」
「あはは、やっぱそうか。
上手くいくと良いね。
俺も食べたいものあったらみさとに言うよ。
すぐに思いつくのはたこ焼きかな。」
「良いね!
丸いの焼ける鉄板必要だね。」
「そうだよな…作ってみるか。」
「ホットプレートみたいに、皆でテーブルでワイワイは難しそうじゃない?」
「それも楽しみたいね、商売じゃないからさ。
レジアス呼んだらびっくりするよ。」
「皆で楽しくしないとね!」




