お試しにも程がある 197
「面倒なことになったぁ。」
アスコットは、憂鬱な気分だ。
頬杖をつき、溜息まで出てくる。
フローリアンからの報告に、どう対応すべきか。
そもそも私は、オデッセイ様からダンジョンなるものを作るようには言われた。
面倒が無いように、管理者も付けた。
管理者で管理しきれないなど、今まで無かったではないか。
ひ弱な人間種の練習場として造り、倒したらご褒美も出るようにした。
管理者の精霊は人間より余程強い。
問題が出るとは思えない。
あの大人しい精霊が文句をつけてくるとは、余程のことに違いまい。
オデッセイ様に報告して方向性を仰ぐ?
そんな馬鹿なことは出来ない。
見に行く?
面倒だよな。
封鎖する?
作ったものを自分で壊すのもなぁ。
オデッセイ様から託された仕事もできない無能にはなりたくない。
自問自答して悶々としていたアスコットの近くを、ジェイドが通った。
「ようアスコット、どうした?
珍しい顔してんな。」
「ジェイドかぁ、ちょっと困っててさ。
大したことではないんだけど、話聞いてくれる?」
「良いぞ、どんとこい。」
ジェイドは満面の笑みで応える。
「実はさ、昔作ったダンジョンてやつの管理者から問題が起こったって報告来てさ。」
「ふんふん。」
「長年クリアすら出来なかったのが、同じ人間達が次々クリアしてきたんだって。」
「へー。」
「しかもさ、試しに壁壊したりもしたんだって。」
「凄いね。」
「どうやら宝剣持ってたらしいんだよ。
試し斬りって言ってたらしい。」
「ダンジョンで試し斬りか、成程ね。」
「管理者の1人がそれを怒ったら、壊さなくなったそうなんだよ。」
「聞分けいいじゃん。」
「その後から、別のダンジョン攻略をどんどん進めて、何処も最後まで行けそうなんだって。」
「ふーん、やるじゃん。」
「最初に怒った管理者がさ、そいつら締め出せないかって言うんだよ。」
「無理じゃん?人間なんでしょ?」
アスコットの話を聞きつつ、ジェイドは自分の意見を言う。
「寧ろ、何で入れたくないのさ。
何か大変なの?」
溜息を付いたアスコットは、言われたことをそのまま話す。
「魔物倒しまくって魔石回収されて、次に入るまでにダンジョンの通路変更しているのに、直ぐ様入ってきて迷惑だそうだ。
しかも宝剣はオデッセイ様から貰ったものらしい。」
「…へ、へー、そんな人間いるんだ。
いつ頃から?」
「つい最近らしい。
ところでジェイド、何か知ってそうな顔してないかい?」
嘘を付くのが苦手なジェイドは、あらぬ方向を向いて誤魔化そうとしたが、結果無理だった。
「俺が知ってるやつと同じかはわからないんだけどさ。
ついこの間、ベゼルが人間を招き入れてしまった話しててさ。
人間種として不自由無い程度に、魔法とか剣とか使えるようにしたとは言ってたぞ。」
「ベゼルか、あの問題児め。
因みに、オデッセイ様とは関係あるのか?
人間にすれば、宝剣なんて国の宝くらいになるやつだろう。
一個人が持っているとも思えない。」
「あーそれね、うんうん。
これはどこぞから噂で聞いた話だけど、オデッセイ様の可愛がってたペットに懐かれたとか。
お礼をしたとも聞いたな、うん。」
「は?何それ、ペットが懐いた?
オデッセイ様のペットだと、人間なんて対応できないんじゃないか?」
「どうやったかは知らないよ。
あくまで噂ね、う・わ・さ!」
「ジェイドくん、その噂の出処ってさ、ベゼルって言わない?」




