お試しにも程がある 192
「ただいま。
これが例のやつです。」
プラッツの工房に戻ってきた俺達は、デックスに作ってもらった物を見せた。
使い方はみさとから説明。
四角パンを台に載せ、板から立ち上がっている四角い枠に通す。
下にあるメモリは、何枚切りにしたいかで刻まれている。
そして、大きめ包丁も取出した。
「これ、凄く切れる包丁なので取扱い気を付けてね。」
「うちで販売してて、町おこしでも売る予定だよ。
ほんとに切れるから、試してみて。」
焼き上がって程良く冷めてきた四角パンで試してもらう。
4枚・5枚・6枚切りが出来るようになっているので、それぞれの目盛りに合わせて切ってみる。
「何だこりゃ、凄くきれいに切れる。
嘘みたい。
ルーミー、試しに切ってみて。」
「え、私ですか?
不器用なの知ってますよね、良いんですか?」
「君でも切れたら、大概の人使えるってことじゃん。
やってみて。」
「なんか複雑な気分だけど?」
文句を言いつつ、ルーミーも試してみる。
新しいパンを6枚の目盛りに合わせて切ってみると、切れたパンがきれいに倒れた。
「何これやばっ、ちょー切れる!
おもしろーい!」
ルーミーはどんどん6枚に合わせて切っていく。最後まで切って、残ったパンの厚さも6枚切りの状態だった。
うんうんと頷くクレスタ。
事前発注は間違いじゃなかったようだ。
「さて、ここからが本番。
この切れたパンでサンドイッチ作ったら売れるんじゃないかと思うんだ。
ねぇみさとさん。」
「そうですね。
柔らかい四角パンだからこその美味しさがあると思います。」
薄く切れたパンを手に取り確認していたプラッツは、クレスタとみさとを交互に見た。
「サンドイッチねぇ。
バター塗ったパンも凄く美味いよ?」
「じゃあ試しに食べてみる?
みさとさん、お願いします!」
「あはは、了解。
何からしようかなぁ。」
リュックをガサゴソして、みさとはいくつかのものを取出した。
とんかつ・唐揚げ・卵サラダ・トマト・レタス・きゅうり・チーズ・マヨネーズ・ソース・フルーツ色々・生クリーム。
「さっきから思ってたけど、よくそんな小さな入れ物に沢山のもの入れてるよね。
準備良いな。」
「えっと、そうなんですよ!
色々見越して持ってきましたぁ。」
プラッツが感心したように言ってくれたので、みさとは誤魔化した。
「あの、2枚一組で使いたいんですが、もう少しスライスしても良いですか?」
「勿論、使って下さい。」
「私切る!」
みさとの申告にプラッツが了承し、ルーミーが張り切って切りにかかる。
3斤分の四角パンを、ルーミーがどんどん切り始めた。
その間に、先程中身を入れて成形し直したパンが焼き上がった。
プラッツがそれぞれ型から外し、バターも塗っていく。
店に出す用の四角パンにも、半分塗って店に並べる。
奮闘したルーミーが切り終わった頃に、待っていたかのように来客があり対応に向かう。
今回もバター塗った方が先に売れてしまった。
塗ってない方はまだ残っているので、そのまま店番となった。
みさとは、スライスされたパンで中身を変えて幾つものサンドイッチを作っていく。
かつサンド・唐揚げサンド・卵サンド・野菜とチーズのサンド・フルーツサンド・ジャムバターサンド。
出来上がりはそれぞれ紙で包み、同じ種類のもので山にしていく。
やはり端っこが気になるみさとは、俺の方を向いた。
「ねぇたっくん、端だけ切るの難しいかな。」
「最初に両端だけ薄く切り落とすのはどう?」
「そっか。
他のスライスする方に影響出ない程度にしないとね。」
「そこは失念してたな。
どれくらい薄く切れるかやってみるか。」
折角パンを押さえる台があるので、大きめ包丁で切ってみる。
「やばいねこれ、思ったより薄く切れた。」
「耳を切り落とすなら、ラスクでも作ろうかな。」
「耳?」
「ラスク?」
俺とみさとの会話に、クレスタとプラッツが反応した。
「耳と言ったのは、四角パンの外側のことだよ。
今切り落とした端もそうだけど、柔らかい真ん中だけのサンドイッチ作るなら焼けた外側切り落とすんだ。」
「その切り落とされたのを油で揚げて砂糖まぶすと、ラスクの出来上がり。
砂糖つけて釜で焦げない程度に焼くでも良いよ。」
俺とみさとの解説に、2人は聞きながら頷く。
「焼けたところ、他のパンより充分柔らかいと思うけどな。」
「年配の方には好評だろうな。
切り落としたものの使い道あるなら、試しても良いかも。」
クレスタもプラッツも、それぞれ思うところはあるようだ。
「じゃあ、サンドイッチの耳無しも作って、序にラスクも作ってみましょうか。」




