お試しにも程がある 179
「たっくんそれ、フラグじゃない?」
「いやいや、やめてよみさと。
そんなつもりないから。」
あははと2人で笑い合う。
「皆、今日はお疲れ様でした。
明日もあるので、気を抜かずに行きましょう。」
クレスタがその場を閉めて、今日は終了。
チェイサーは衣装を脱ぎ、マークツーは明日の準備に取り掛かる。
クレスタは、俺達のところに来た。
「明日も同じくらいの時間に集合で宜しくね。」
「勿論だ。
因みに、カムリさん達は仕込み?」
「ん?買うなら実演販売の方が安いよって言っただけだよ。
仕込みなんて、人聞きの悪い。」
笑顔で言うから、たちが悪い。
「全く、流石クレスタだ。
通常の値段で売る店舗の方は、警備厳重にしないとね。
高値のものがあるって宣伝しちゃったし。」
「そこは、用心棒も増やすけど街の警備隊にも声掛けてあるよ。」
後でこっそり、家にかけたみたいに泥棒よけの結界かけとこう。
「じゃあ俺達はこれで。
また明日来るよ。」
そう言って、出店いっぱいの街に繰り出した。
中休みが終わった後でも、それなりに人出がある。
装飾品や武器・生活用品を売っているところもあれば、地方名産と謳った野菜や特産品も並んでいる。
もちろん美味しそうな食べ物の出店も数多く並んでいる。
「みさと、全部は無理だから、お腹と相談してね。」
「むむむ、それは難しいね。
みんな誘ってくれてるのに、差別イクナイ。」
「いいの?お腹いっぱいになってから食べたいもの見つかっても。」
「そうだ、明日もあるから、今日は半分ならいいよね?」
「はいはい、お腹壊さないでね。」
「僕は余裕だよ。」
ちょっと自慢そうに、シビックが呟く。
みさとの嗅覚が正確なのもあるが、どれを選んでも美味しい気がしてしまう。
俺とみさとで半分こ、シビックに1つ渡す。
勿論、一度リュックに入れてから。
存分に楽しんでから、家路についた。
翌日、朝ご飯にはターセルの出店に向かう。
「おはようございますターセルさん、卵サンド下さいな。」
「あらおはよう、みさとちゃん。
組合せはどうする?」
「卵サラダと出汁巻きで1個ずつを、3セット下さい。」
「はいはい、ちょっと待っててね。」
お代を先に支払い、わくわくして待つみさと。
「はい、出来立てどうぞ。」
「ありがとう、いただきます!」
1人1セットを渡し、早速口に入れる。
みさとは出汁巻きから。
「ターセルさん、とっても美味しい!」
「みさとちゃんにそう言ってもらえると嬉しいわね。」
俺は卵サラダの方を食べた。
「卵サラダも凄くいいです、美味しい。」
「拓海君もありがとう。
ちびっこさんも気に入ってもらえたみたいね。」
シビックは既に両方完食。
「どっちも美味しい!」
ターセルには鳴いてるようにしか聞こえないが、理解してもらえたようだ。
「他も回ってきますね、またねぇ。」
そうして、出店回り午前の部が始まった。
近場を5軒回ったところで、そろそろ時間になりクレスタのところに向かう。
「こんにちは、来たよ。」
「いらっしゃい、拓海さん・みさとさん。
今日もよろしくお願いします。」
昨日と同様の光景が広がっていた。
そうこうするうちに時間になり、実演販売のステージに向かう。
今日はセッティング開始時から、人が多かった。
昨日買えなかった人達が、今日こそはと意気込んでいるようだった。
実演販売は何事もなく終了、今日も完売だった。
フラグ回収も何も無く終わったと気を抜くはずだったが、周囲が解散して人が疎らになったところに、大柄な男がやってきた。
「おいお前、前回のテイマー優勝者なんだってな。
今回は俺が優勝なんだが、周りから前回優勝者が出ていないからと何度も言われたんだよ。
なんでお前は出ないんだ。
今から俺と勝負しろ。」
「え?勝負って、ここで?」
呆気にとられた俺は、間抜けにも聞き返してしまった。
「あぁそうだ、俺の相棒に勝てると思うなよ。」
そう言うと、名乗りもせずに大きなモンスター召喚。
俺にと言うか、シビックに向かって行った。
シビックは相手のモンスターを少し上に蹴り上げると、そのまま武道大会の会場に向けて蹴り飛ばした。
少し手加減をしたらしく届かなかったので、俺も追加で魔法で飛ばし、会場に放り込んだ。
「相手を殺さなかったな、偉いぞシビック。」
「そりゃあね。
あんな格下相手じゃ、加減が難しかったけどさ。」
2人で笑い合っていると、大柄な男が怒りに任せて今度は俺の方に拳を振り上げてきた。
俺が気付いた時には、みさとが男の拳を片手で受け止めていた。
「うちの旦那さんに何してるんですかね。」
物静かな笑顔で言うと、足払いをかけて転がした。
仰向けになった男の胸の辺に膝を乗せたみさと。
それだけで、男は動けなくなってしまった。
「続けますか、帰りますか、警備隊呼びますか。
どれでも良いですよ。」
「か、帰ります、帰らせて下さい。」
「ではお気をつけて。
あぁ、宜しければいつでも相手になりますよ。」
「すみませんでしたぁー!」
言いながら走り去っていく大柄な男。
最後まで名前は分からなかった。
帰った途端、みさとは俺の方に走ってきた。
「たっくんもシビックも大丈夫だった?
びっくりしちゃったよ。
大人しく帰ってくれて良かったぁ。」
先程の面影は全くなく、いつものみさとだった。
周りからは大きな拍手が上がり、俺とみさとは「お騒がせしました」と頭を下げる。
タイミングを見計らったように、クレスタが声をかけ撤収。
クレスタの事務所までは、無言で早歩きで進んでいった。
中に入って、やっと一息つけた。
俺は胸を撫で下ろした。
「無事に終わって良かった。」




