お試しにも程がある 176
「クレスター!こっちこっち。
遅いよ。」
声のする方に目を向けると、マークツーが居た。
「最終確認だと思うけど、予定時間よりずいぶん早いよ。
マークツーはいつも早めの行動なんだ。」
こっそりと俺に教えてくれるクレスタ。
マークツーは駆け寄ってきた。
「あ、拓海さん・みさとさん、おはようございます。
クレスタ借りてっていいですか?」
「おはよう、マークツー。
俺達もついて行っていいかい?」
「勿論ですよ、早速行きましょう。」
5分前どころでなく早い行動をしたいようで、マークツーに先導され歩き出す。
向かった先は、クレスタの事務所。
そこでは、赤い衣装を着たチェイサーがのんびり寛いでいた。
「チェイサー、準備終わったの?」
マークツーは声を掛けた。
「おぅ、バッチリだぜ。
後は本番待つのみってね。」
「じゃあ確認だけど、今日明日でそれぞれ20本ずつ、売り切ったらその日は終了・売れなくても10分で店じまい。
覚えてる?」
「大丈夫大丈夫、しっかり覚えてるよ。
在庫できたら通常価格でクレスタの店で販売も伝えるんだろ。」
「よし、覚えているな。
試し用の包丁は売るなよ。
試し切り用の食材もあるな?」
「それは昨日から確認してるだろ。
それによぅ、試しすぎて俺には新鮮じゃなくなってきてんだよ。」
「お前が当たり前にやるから、信憑性が出るんだろうが。
お客様に驚きを届けるんだ。」
「はいはいわかってますよーだ。
てかさ、お前来んの早過ぎじゃね?
もう少しゆっくりしたかったのに。」
やり取りを聞いていたクレスタが、やっと仲裁に入った。
「そこまでだよ、2人共。
今回成功させないと、次がないんだからね。」
「クレスタも早いのか。
大丈夫だって、任せとけよ。」
クレスタが声をかけても、まだゴロゴロしているチェイサー。
「そういえばさ、金額も大きいしイチャモン付けてくるようなゴロツキ来たらどうするの?
誰か雇ってる?クレスタ。」
ふと思い立った質問を、俺はクレスタに投げる。
「うちの用心棒は待機してますが…」
まじまじと俺とみさとを見るクレスタ。
「拓海さん達は何か予定ありますか?
無ければ短時間で良いので雇われませんか?」
何か算段していそうな、クレスタの顔。
「実演販売の前後ってこと?」
「はい。
お2人には、護衛とゴロツキ対応をお願いしたいです。」
「良いけど、その時間以外は自由に見て回っていいの?」
「勿論ですよ。
実演販売立案者の拓海さんの名前も貸して欲しいんです。」
「名前ね。」
やれやれ、クレスタは前回優勝者の俺達の「名前」で、牽制したいらしい。
ポスターには名前しか無いから、名乗らないと分からないよな。
前回優勝者の顔なんて覚えてないだろうし。
やっとこちらを向いたチェイサー。
「あ、拓海さん・みさとさん、ちーっす。
え、一緒に居てくれるの?嬉しいなぁ。
俺はやりますよ、見てて下さい!
完売させます!」
「うん、頑張ってね。
そういえば、包丁よくそんな数用意できたね。
デックス達頑張ったんだな。」
「なんか、効率上げられたからって言ってたよ。
実は、通常価格で出せるように更に20本あるんだけどね。」
クレスタは、デックスに聞いたことをそのまま伝えてくれた。
下請け確保が早かったんだな。
「全部で60本用意できたってこと?
凄いなぁ。」
「大きい包丁にも取り掛かってるって話なので、一段落したらボンゴさんのとこにも行かないと。」
「順調そうで何よりだ。
後は、今日明日で売れるかだね。」




