お試しにも程がある 175
「意外に臭みなくて、柔らかいね。」
俺は早速口に入れた感想を、みさとに伝える。
「そうだね。
調理してる時も、豚さんとしか思えなかったもん。
生姜焼きとか豚丼?ボア丼?でも美味しそうだよね。」
「別の魔物も取れたら試してみようか。
なぁシビック、食べて美味しかった魔物とかある?」
「んー、もうみさとの料理の方が美味しいから覚えてないや。」
「それはありがとう、嬉しいな。」
口いっぱいにしてもぐもぐしているシビックは、調理されてない生肉はもう興味ないらしい。
シビックの皿には山盛りあった筈だが、既に空になっていた。
「おかわり頂戴!」
「はいはい、揚げるところからだからちょっと待っててね。」
多めに揚げてあったものも無くなったようだ。
「出したお肉全部揚げといて、後でカツ丼にもしようね。」
事前に衣を付けたものは用意してあったらしく、温度が上がった油鍋に投入していく。
「みさと、明日?朝ご飯?」
シビックは楽しみのようで、もう食べたそう。
「朝でもまぁ、いいかな。
明日には何処かで出しましょう。」
みさとは揚げたて熱々を食べやすくカットして、シビックの皿に積んでいく。
おかわりの量じゃないな。
小さな体によく入ると思ってしまうが、元に戻ったら魔物数体単位でも足りないかも。
そんなシビックを横目に、俺はソースとマヨネーズもつけて味わう。
「明日はカツ丼か、それも楽しみだ。」
とうとう武道大会本番がやってきた。
近くなってから街中がソワソワした感じになっていたが、前日は出店の準備等で皆忙しそうにしていた。
当日は、朝から人がわんさか街中に繰り出している。
出店は開店準備をしているところもあれば、朝ご飯を誘うようにいい香りがするところもある。
朝なら人が少ないだろうと踏んで繰り出した俺達は、人の多さに戸惑っていた。
「こんな凄いことになるんだね、びっくり。」
「そうだな、去年は出る方でさっさと会場入りしたから、意識してなかったな。
みさと、逸れないでね。」
手をつなぎ、人波の中を進む。
シビックは、いつも通り変な人近づいたら尻尾で撃退。
そんな中、カムリの出店を発見。
まだ人は少なさそうだったので、近づいて挨拶する。
「おはようカムリさん。
朝から凄い人出だね。」
「あら、おはよう拓海、みさと。
去年はこんなにいなかったんだけどねぇ。
でも、お客さん大勢来るのはありがたい話さね。
みさとに教わってから、準備万端だよ。」
「あんな短期間ですごいね、カムリさん。
朝ご飯に買ってもいいかな?」
「勿論だよ。
3つで良いのかい。」
「色々食べまわりたいから、先ずは3つでお願いします。」
みさとは先にお代を払い、出来立てを貰う事にした。
「ケチャップとはちみつは、一緒に巻くことにしたのさ。
どっちが良い?」
みさとははちみつ・シビックはケチャップ・俺は無しで注文。
鉄板に広げたパンケーキの生地に、長細いチーズを乗せ、はちみつ・ケチャップ・何もなしでくるくる丸める。
「中身間違えないようにね、熱いから気を付けて食べなよ。」
受取って熱々をひと口。
伸びるチーズも頑張って食べるみさと。
「すっごく美味しい、流石鉄板!
ありがとうカムリさん、またねぇ。」
焼いている香りとどんな物を売っているのかを見たことで、人集りが出来始めた。
挨拶もそこそこに、来客対応に追われるカムリ。
忙しくなりそうで良かった。
食べながら歩いていると、クレスタに出会った。
「おはよう、クレスタ。
今日は忙しいんだろ?」
「おはよう、拓海さん、みさとさん。
そうなんだよ、自分の店は任せてきたからいいんだけど、チェイサーが上手くやるか心配で。
マークツーも付き合ってもらってるよ。」
「そうか。
実演販売、いつ頃やるの?」
「武道大会の午前と午後の部の間の時間さ。
休憩で一斉に人が増えるからね。」
「今年は人の出が多いんだって?
さっきカムリさんにも聞いたよ。」
「そうなんだ。
おそらく、転移装置のおかげじゃないかと思うよ。
どの地方でも、転移装置周りで商売してる人見かけるしね。」
俺はここまでを想定してなかったが、大丈夫なのか?レジアス。
「地方でも転移自体が商売になるのか。
考えることは同じかな。」
「ほら、やり方は各地方の魔法協会支部で教えてるからさ。
新しい魔法は、活用しないとね。」




