お試しにも程がある 17
「先ずはここからじゃな。」
首都の検問所に転移した俺達。
レジアスが思った通りのところに着いたらしい。
門番の前に突然現れた俺達に対して、門番は丁寧に対応してくれる。
「これはレジアス様、どちかにお出掛けですか?」
「いや何、検問所に設置したいものがあって来ただけじゃ。
邪魔にならないところに設置するので、そのまま仕事を続けてくれんかの。」
「かしこまりました。
何かあれば、お声がけください。」
設置したい場所に移動。周辺の広さも確認。
「レジアス、有名人だね。」
「長く仕事しとるからのぅ、暫く長官も代替わりしておらんから分かりやすいんじゃろ。」
「ずっと出来るって凄いよね。」
「代わる者がおらんだけじゃよ。
ほれ拓海、これ持ってくれ。」
袖から出した水晶を投げてよこすレジアス。
落としたらどーすんの!?
「危ないから!」
「大丈夫じゃろ。それを埋めてくれんか。」
「わかった。少し深めにしとくね。」
魔法で先に穴を掘ってから、水晶を入れる。傷がつかないように保護と、乗せた金属板と連動できるようにする。
「こんな感じかな。」
「ふむ。上乗せるぞぃ。」
レジアスは袖から出した金属板を、浮遊の魔法で水晶が中心になる位置で下ろす。
「後は頼めるかの。」
「はいはい、やってみますよー。」
先ずは、金属板と広範囲の地面に対し硬化の魔法。水晶も含めて、掘り返すのも大変なくらいの質量になる。
後は、万が一移動させられた場合に通知が来るようにした。
それと、金属板に乗ったあとの動作も確認。何処まで出来るかは、乗った人の腕次第って事で。
…こういう内容の確認は、アイシス得意そうだな。
そんなこと思いつつ、終わった事をレジアスに報告。
「やってみたけど、どうかな?足りない所ある?」
「どれどれ…いいんじゃないか?
この通知の魔法は、私にも来るようにできるかの?」
「流石レジアス、抜け目ない。
レジアスにはナビないからなぁ。持ってくれてる水晶に飛ぶようにするけど、それでいい?」
「もちろんじゃ。」
「今思ったんだけど、各エリア毎に通知受け取る水晶置く?」
「その方が良いじゃろな。
私とお前で全部管理はしんどい。」
「だよね。
魔法庁より魔法協会かな?ほぼほぼあるんでしょ?」
「そうじゃな、そうするか。
何かあれば魔法庁に問い合わせるじゃろて。」
「これで設置は終わり?」
「そうじゃの。
ここは検問所3箇所あるから、あと2つやってから地方に飛ぶかの。」
「うへぇ。りょーかい。」
2人で次の場所に移動した。
みさととシビックは、あっという間に家に着いた。
「飛ぶとこんなに早いんだ。ありがとね、シビック。」
「どんなもんだい!
透明化の解除もしたし、おやつにしようよ。」
「いいよ~。頑張ったもんね。冷えてるプリンでどぉ?」
「良いねぇ。さっき見つけた甘い香りのも美味しかったから欲しいな。」
「これかな?チュロスみたいなやつ。
美味しいよね。」
みさとはリュックからおやつを出し、冷蔵庫のプリンと温かいお茶を淹れる準備をしている。
「おやつ終わったら、ご飯作るの手伝ってね。
下準備が大変そうだから。」
「いいよ~!美味しいもの作るの手伝う!」
テーブルにおやつを広げ、ふたりで食べ始める。
みさとは、おやつ片手にPCで胡麻油の作り方を調べ始めた。
「ふむふむ。
煎って、潰して、蒸して、油を出すのか。
あの量でどれくらいできるかなぁ。」
「みさと、大量に買ってたもんね。
買い過ぎじゃん?て思ってた。」
「アレから油を搾るんだよ。どれくらいになるかわからないから、取敢えず失敗しても次できるように大量購入!」
「美味しいのが出来るなら大歓迎だよ。
おやつ美味しかった!手伝うよ。」
「ありがとね。お片付けして準備するよ。」
テキパキ動き始めるみさと。
まだ口はチュロスでもぐもぐしている。
何事もないかのように、リュックから胡麻一袋を出す。
下には一面紙を広げてある。
「先ずは、胡麻を煎るね。」
フライパンでゆっくり火を入れていく。
香ばしい香りが漂ってくる。
シビックが香りにつられてやってきたので、少し口に入れてあげる。
「食べづらいけどいい香りするねぇ。」
「これが美味しい油になるよの。」
そう言いながらも、みさとの手は止まらない。
煎っては空けて、煎っては空けての繰返し。
煎った胡麻を移した鍋が3つになり、一袋が終わった。
広げた紙の上に石臼を出し、穴に煎った胡麻を入れる。
「私ぐるぐる回すから、シビックはこの穴に胡麻を入れてくれる?」
「わかったよ!」
最初はゆっくりだった石臼を回すみさとの手は、いつの間にか速くなってきた。
胡麻を注ぎ足すタイミングが計れないシビックは、困ってしまった。
「ねぇみさと、足せないんだけど。」
「ごめんごめん、楽しくなっちゃった。
足してくれる?」
カップで胡麻を穴に足すシビック。
あっという間に擂り潰すみさと。
更にシビックが胡麻を足す。
「なんか更にいい香りしてきたねぇ。」
「ホントだね。楽しみだなぁ。」
周りが胡麻だらけになってきたので一先ず袋に入れる。また擂り潰し始め、周りが胡麻だらけになるまで続ける。
何回か繰返し、鍋の胡麻も無くなり袋も3つパンパンになった。
「これを蒸すのに、お鍋で足りるかなぁ。」
「やってみようよ!もっと大きいのはないんでしょ?」
「流石に家庭用だからね。地道に行きますか。」
みさとは蒸器でひと袋ずつ蒸していく。
出来上がったら搾るのだが、力加減が難しい。
「熱いから触れないし、石を載せただけじゃ搾れないし。もっと沢山大きな石乗せて圧力かけるか。」
「ねぇみさと、それじゃ胡麻ぺしゃんこにならない?」
「そうならない加減で、搾れてくるのよ。
きっとね…」
「ふーん。」
前にやり方見たときは、簡単そう!って思えたのに。
手仕事って大変。だからこそ出来た時の喜びは大きいのかな。
試さないと進まないので、取敢えず大きな石を載せていく。
この形だとだるま落としに見えてくる。
「みさと、倒れない?」
「多分ね。」
楽しそうに乗せてるのは良いけど、でてくる油は少しずつ。
「この瓶大きくない?」
「大は小を兼ねるって言うじゃん。
小さくて溢れるよりはいいかなーと。」
「そっかぁ。そういうのも大事だよね。」
「そうそう!」
石積みは終了、後は待つだけらしい。
「まだかなぁ~。」
みさとは、次の袋を蒸器に入れつつ、待ち遠しく思った。
「まぁ石も瓶も増やしてあるから、次々ほったらかせばいいかな。」
「適当だね、みさと。」
「待つしかないならしょうがないじゃん?
その間に他のご飯の準備できるしね。」
「そっかぁ、味見は手伝うよ!」
「頼りにしてるよ。
出番までは、瓶から油が溢れないか見ててね。」
リュックから小麦粉を出し、次の準備に取り掛かる。餃子作ったらびっくりするかな、たっくん。
皮から作るため、レシピを見ながら分量通りにボウルに入れていく。
軽く混ぜて、ボウルを壊さないように注意する。
「ボウル増えてて良かったよね。
あの時はびっくりしたし。」
こちらに来て最初に料理したとき、いつも通りにやっているつもりがボウルやヘラも壊してしまい、一緒に見ていたたっくんもびっくりしてたっけ。
実感はないけど、強化されてるんだなーと思い至った。
それ以来、道具は必ず増やして予備を作り、困らないようにして来た。
お陰で道具に困ることはないし、丁度よい力加減も練習できた。
卵割るのは本当に苦労した。今まであんなに簡単にできてたのにと何度思ったことか。
そんなこんなでお料理も普通にこなせるようにはなった。
他所様のお家で道具を壊すこともなく、安心している。
鼻歌交じりで皮づくりは順調に進む。こね終わり、蓋して冷蔵庫に入れる。
そろそろと思い蒸器をチェック、2つ目の袋を搾る準備。
石と瓶を出し、先程のように積んでいく。
「こっちの瓶は、結構溜まってきたよ。」
「良い感じだね、シビック。
こっちもセットするから見ててね。」
「はーい!」
バランス良く石を乗せ終わり、3つ目の袋を蒸器に入れる。
辣油作るのを忘れないように、唐辛子の袋をリュックから出す。
「ちゃんと辛いのにしたいから、種が出るように半分に折って…と。」
フライパンに次々唐辛子を投入。それを見ていたシビックが、怪訝な顔で聞いてきた。
「ねぇみさと、それ食べるの?すんごく辛いんじゃない?」
「これだけを食べるんじゃないよ。
油で辛い成分出して、お料理に辛味を足す調味料にするんだよ。
辛いけどこれが無いと餃子が物足りないからね。」
「僕はあんまり辛くなくて良いんだけど。」
「そっかぁ。あんまり辛くない、具入りの辣油も作ろうかな。」
「辛いのに辛くないの?」
「辛さの調整すれば美味しく食べられるでしょ?
カリカリするところも美味しいんだよね〜。」
「それなら楽しみかな。」
「時間あるし、作り方見とくね。」
みさとはPCでレシピをチェック。
「ふむふむ、成程。材料あるし作れそう。」
みさとは、籠を持って食材を取りに行った。
食糧庫は常温だけど、拓海の魔法で低温・除湿に常になっている。
ひんやりするその部屋は、食糧が傷まない魔法もかかってるらしい。
食材が無駄にならないのは良いことだ。
大蒜・生姜・長葱・韮・キャベツ・玉葱・人参・青梗菜…こんなもんかな。
籠に山盛りになった食材を抱え、みさとはキッチンに戻る。
それぞれ料理に合わせた切り方で下拵え、ボウルに分けて冷蔵庫へ。
まだまだ胡麻油は時間かかりそうなので、食べる辣油の準備にかかる。
「みさと、瓶いっぱいになりそうだよ!」
「ありがと、シビック。」
1つ目の胡麻油セットを見に行く。
大き目の瓶にしたつもりだが、八分目まで溜まっている。
もう1つ瓶を出し、交換。
「結構出るねぇ。」
「胡麻の半分位は油らしいよ。
書いてあった。そこまで胡麻油として溜まるかはわからないけど。」
大分胡麻の袋が平らになってきてるので、石を下ろし、袋を4つ折りにしてまた石を乗せる。
少しずつまた油が出てきた。
蒸器の方も充分らしく、3つ目も石でセット。
シビックの周りに3つの塔ができた感じ。
1つ目の瓶の胡麻油は、濾過して綺麗にする。油なので直ぐには終わらず、これも時間がかかりそうだ。
滴が落ちてくるのを眺めるのも好きだが、できる事は進めないと。
食べる辣油の下拵え再開。
細かく切った具材を、焦げないように炒めつつ味付け。
カリカリでふりかけのように美味しくなり、これだけでも食べたくなる。
こっそりこの状態で、一度リュックにしまい取り出す。
後でご飯にかけよう。
炒めるのに時間がかかったようで、胡麻油の濾過も大分進んでいた。
出来た分だけで先に辣油を作ろう。
下の瓶を取り替え、蓋してこれまたリュックにしまう。
改めて取り出すと、きれいな胡麻油だ。
「みさと、こっちも見て!」
2つ目の塔の瓶も溜まってきていたので、交換。
胡麻の袋をたたみ直し、更に搾る。
溜まった瓶の中身は、濾過に回す。
何だか忙しいなと思いつつ、出来上がりを楽しみにするみさと。
辣油作りますか!と、唐辛子を入れたフライパンの元に行く。
一瓶丸々入れて、火をかける。
じっくり弱火で、焦げないように慎重に。
これで辣油になるのかーと、他人事のように見ていた。
掬い上げてみると、赤くなっている。
舐めてみると、確かに辛い。
もう染み出てるのかと感心し、火を止める。瓶に唐辛子毎入れて、更に染み出るように置いておく。
やっと1つ、希望のものが完成した。
次の胡麻油の濾過も進んできたので、また瓶を交換。
リュックに入れてから取出し、やっと料理に使える。
餃子の具を作りにかかるみさと。
切ってあった野菜のボウルを冷蔵庫から取出し、豚肉の塊も出す。
後の料理で使う用のスライスを切出してから、残りを微塵切り。
野菜のボウルに入れて、塩コショウ・胡麻油も入れて、かき混ぜる。
豚肉の脂身の部分も少し微塵切りで入れたので、ジューシーになる筈。
まとまりになったのを確認、一度冷蔵庫へ。
交換で皮の元を取出す。
棒状に丸め、包丁で切っていき、麺棒で拡げる。
面倒なので、全部拡げてから具を包もう。
拡げた皮が山のようになった皿に、乾かないように蓋をする。
冷蔵庫から餃子の具を取出し、包んでいく。
「お皿じゃ足りないなぁ。作りすぎたかなぁ。」
「みさと、こっちも見て。瓶いっぱいだよ!」
「ごめんごめん、忘れてた。
ありがとね、シビック。」
慌てて交換に行くと、9分目を超えていた。
危ない危ない。
1つ目はもう出ていないのを確認し、半分より少ない状態の瓶を3つ目のものと交換。
2つ目はまだポタポタしていたが、1つ目の袋と重ねて更に出てくるか折り目を変えて試す。
3つ目は四つ折りにして石を乗せ直す。
一段落して、濾過しているものも思い出したみさと。
瓶は一杯になっていたので交換・3つ目の瓶の中身も濾過に回す。
順調にきれいな胡麻油が出来上がっていく様を、みさとは満足そうに眺める。
一杯になった瓶は、リュックに入れる。
胡麻油が一段落したので、餃子作りに戻る。
念の為乗せる用の大きな皿をもう1枚用意して、作業開始。包み始めると、無心になり次々に餃子が出来上がる。
乗せる用の大きなを更に追加し、包み終わった。
「ふぇー疲れたぁ!」
大きく伸びをしたみさとは立ち上がって胡麻油の様子を見に来た。
シビックは座ったまま眠そうにこっくりこっくりしている。周りの瓶は、溢れているものはなくゆっくり滴り落ちているだけ。
濾過の方はまた一杯になっていた。瓶を交換・リュックに入れる。
2つ目の石からはほぼ落ちなくなったので、一度外して3つ纏めてから石を乗せ直す。
下に置く瓶は、中身が少ない方を設置。多い方は、濾過に回す。
お茶でも飲もうかとテーブルに近づくと、拓海が帰ってきた。
「ただいまみさと。」
「お帰りたっくん。早かったね。」
「いや結構時間かかったよ?
もう夕方だし。」
「そーなの?気づかなかった。」
「そんなに忙しかったの?」
「胡麻油作ってた。」
「えっ、作ったの?良い香りすると思ったらそれかぁ。
凄いねみさとさん。」
「シビックも手伝ってくれたよ。」
「シビックも偉かった…疲れちゃったのか。
寝てると人形みたい。」
「あはは、後半見張りを頑張ってたからね。」
「と言うことは、夕飯は中華だったりする?」
「餃子と、おこげであんかけ作ろうかと思ってまーす!」
「ご馳走だぁ~!涎出てきた。」
「ホントに久し振りだよね。」
「食事に文句は無いけど、まさか食べられるとは思ってなかったよ。」
「今作っててまだ途中だから、もう少し待ってくれる?」
「もちろん。
この石のタワーが胡麻油?」
「そうそう、絞ってからこっちで濾過してる。」
「へぇ~、こんな感じなんだ。
胡麻どれくらい使ったの?」
「まだリュックに残ってる袋あるけど、1袋だよ。」
「どれどれ…でかっ!どれくらい出来たの?胡麻油。」
「ん~5、6本かなぁ。
ちゃんとリュックに入れたよ!」
「そんなもんなの?大変だったね。
ちゃんとリュックに入れたのは偉いよみさとさん!
次作るときは手伝うからね。」
「帰ってくるまでに全部終わらせたかったのに。びっくりさせられないじゃん。」
「充分びっくりだよ!
そして、すごく嬉しい。餃子ー!」
「いっぱい作ったから、焼き・水・揚げで楽しむ?」
「賛成!餃子パーティーだね。
何か手伝えることないの?」
「シビックをクッションに移動させてから、瓶の見守り引継いで欲しいかな。」
「了解!」




