お試しにも程がある 167
「へ、壁壊すの?わざわざ?」
さっきまでどちらに行くかを考えていたはずなのに、第三の選択肢が出て来た。
「取り漏らしあったらくやしくない?
だから、両方。」
「成程、そういう考え方もあるのか。
そもそも壊せるのかな?」
俺の質問に、みさとは剣を拾い上げながら応える。
「そこはやってみるしかないでしょ。」
分かれ道の前に立ち、剣を水平に振ってみる。
見事に切れ目が入り、ボロボロと壁が崩れていく。
こんなあっさり壊れるものか?
「もう少し繰り返したら両方繋がるかな。」
もう少し繰り返したら、天井も崩れるのではなかろうか。
そんな事を考えていた時、第三者の声がしてきた。
「何してくれちゃってんの!
頭おかしいでしょ。
普通壊れないようになってるんだよ!」
声はすれど姿は見えず。
俺もみさとも周りをキョロキョロし、声の主を探している。
下の方から、再度声がした。
「この剣、ヤバいじゃん。
あんた達何者?こんなの持ってるなんて、一般人じゃないでしょ。」
やっと下を向き、発言者を確認。
仁王立ちしている幼女が、俺達を睨んでいる。
「えっと、普通の冒険者です。
この剣は、貰い物です。」
みさとがポツポツと話し出すと、大きなため息をついた。
「授かりものか。
いや、凄い剣なのは知ってるけど、それなら尚更使わないよね?
宝剣だよ、わかってる?」
「え、そうなの?
貰ったから使ってみたかっただけなんだけど。
駄目だった?」
「いやいや、あんたさ、神様から貰ったもの使わないでしょ。
大事に取っとくでしょ。
しかも、壁なんか切らないでしょ!」
「よく誰から貰ったかわかりますね。」
2人のやり取りを聞いていた俺だが、思わず口を挟んでしまった。
幼女はこれまた大きなため息をつき、俺を睨む。
「当たり前でしょ。
こんな凄い剣、地上には存在しないのよ。」
「そんな凄い剣だったんだ、知らなかった。」
幼女の発言を受けて、手にした剣を改めてまじまじとみさとは眺める。
「オデッセイ様そんなのくれたんだ、太っ腹だなぁ。」
「お、オデッセイ様?
何であんた達そんな繋がりあるのよ!
やっぱり一般人じゃないじゃない。」
「煩いなぁ。
僕の主人だけど、文句あるの?」
幼女の癇癪とも取れる発言だが、オデッセイが関わったところでシビックが黙っていられなくなった。
その瞬間、威圧の様な重さが発生。
幼女もそれに気付いたようで、シビックに注目する。
「あなた、天界の住人なの?」
「元ね。
で、何か問題でも?」
「じ、じゃあ言わせてもらいますけど、このダンジョンの管理を私は任されてるの。
それを勝手に壊されては困るんです。
しかも、普通は壊せない筈なのに、宝剣なんて持ち出されたらこっちはお手上げなの。
こんな深い階層でされたら、命の保証も出来ないし、折角作り直した私の身にもなって欲しいわけ。」
「あ、壁壊しちゃいけなかったんだ。
作ってくれてたのに、壊してごめんなさい。」
幼女の意見を聞き、素直に謝るみさと。
「ここって、踏破されると作り直すのか。
だから前回とは少し違うなって感じたんだ。」
俺の疑問も、すんなり解けた。
「壁を壊さないならこのまま進んでもいいわよ。
その剣も、無茶な使い方しなければ使っていいわよ。
これでいい?」
俺とみさとではなく、シビックを見つめて話す幼女。
「ありがとう。
じゃあ、この先も楽しませてもらうよ。
行こう、拓海・みさと。」
幼女の前を通り、左に進路をとる。
進んでいるうちに、後ろから壁修復の音とぶつくさ文句を言う声が聞こえてきた。
本当にあの子が作ってるんだ、それはそれで凄いな。
音が聞こえなくなったくらい進んでから、シビックに質問する。
「なぁ、さっきの子は普通の人間ではないよな?」
「ん?そうだね。
管理任されてるんだから、それなりの力は持ってるよね。
何処の管轄の奴かは知らないけど。」
あれ、まだちょっと怒ってるのかな?
「ダンジョンてさ、あんな感じで管理者居るの?」
「大概居るはず。
さっきみたいに補修とか魔物の管理とかもあるし。」
「踏破されると作り直すのはありがたいね。
地図作るの難しいけど。」
「普通は無理しないで帰るみたいだしね。
少し仕事させた方が良いんじゃないかな、ああいう奴は。」




