お試しにも程がある 164
「じゃあやってみるね。」
ボウルで卵白を泡立て、別ボウルで黄身・牛乳・砂糖を入れて、よく混ぜる。
更に小麦粉・マヨネーズを少し。
「みさと、そのどろっとしたのは何だい?」
「マヨネーズですよ。
ふわふわになるって書いてあった。」
「何に?」
「それは…ずっと前に見た本かな、あはは。」
レシピのアプリとかネットの先生とかは言えないし。
「出店でやるなら鉄板が良いと思うけど、今はないからフライパンね。」
火にかけ温め、バター一欠片。
程よいところで全部混ぜた生地で、チーズが巻ける位の大きさでパンケーキを焼く。
固まりきらないうちに、チーズを載せフライ返しで巻いていく。
巻終わりをくっつく様に丁寧に焼く。
あとはコロコロ転がし、中まで火が入るようにする。
「出来上がりっと。」
お皿に載せて、次に取り掛かる。
「鉄板だったらさ、いくつか生地広げて次々に巻いていったら、お客さん香りにつられて寄ってくるんじゃない?」
「成程ね、興味持ってもらわないと売れないからね。」
またもや呼び鈴が鳴った。
「どうもこんにちは、ターセルとカムリ居るかい?」
「ラッシュさん、いらっしゃい。
居るのでこちらへどうぞ。」
「済まないね、拓海。
お茶会のはずが2人共こっちに居るって言われてさ。
場所変わったなら言って欲しかったよね。」
「あはは…」
変えたのか変わったのかは知らんが、結果家で開催だね。
「皆さん、ラッシュさん来たよ。」
「あらあら、ラッシュまで来たの。
せっかちねぇ。」
「集合時間に集合場所に居ないから見に来たんだよ。
何があったの?」
「それがね、みさとに出店用の料理教わってるところさ。」
「それはずるいな、俺も教えて欲しいと思ってたんだ。
みさと、何かあるかな。
豚肉だと難しいかな。」
腕組みして考えるみさと。
ポンと手を叩き、アイデアが出たようだ。
「肉巻きおにぎりはどうですかね。
長い棒にご飯巻いて、更に上から豚バラ肉の薄切り巻いて、大蒜効かせた甘辛いタレで焼くんですよ。
食べ歩きしやすいですよ。
お皿に載せると両手塞がるので、片手で食べられる感じです。」
「美味そうだけど、難しくないかい?」
「大丈夫ですよ、ラッシュさん。
やってみますか。」
みさとは、竹串の様なものをまとめて取出し、ご飯も用意する。
「これなら街中でも売ってますよね。
2本を少し間を空けて、ご飯を平らになるようにまとめて、豚バラ肉巻きます。」
割り箸なら1本で済んだだろうが、こっちには無いのでみさとの苦肉の策。
落ちにくく食べやすいように2本にした感じ。
片栗粉混ぜたご飯を纏った串が次々と作られ、豚バラ肉も巻いていく。
「肉って、そんなに薄く切れるのかい?」
「はい、切れますよ。
この包丁で試してみてください、ラッシュさん。」
俎板の上のドワーフ包丁を手に取り、試してみるラッシュ。
今まで切れなかった薄さにできて、かなりびっくりしている。
「何だいこの包丁、物凄く切れるね。」
「クレスタんとこで売ってるんだって。」
「私も買う予定よ。」
「俺も買うよ、今日にでも。」
「あはは、武道大会に初お披露目って言ってたから、事前に買えるかは交渉してみてね。」
宣伝するまでもなく、勝手に広まっていく。
気を取り直し、料理再開。
フライパンを火にかける。
「これも鉄板がいいですけど、今はフライパンね。
鉄板なら、焼けてく傍からお客さんに熱々を提供できるし。」
焼き始めてから、目は離さないようにタレを作り始める。
大蒜・唐辛子・砂糖・胡麻・醤油・酒等で混ぜ混ぜ。
タレの味見をしつつ、串を裏返し両面に焼き目をつける。
焼けたところでタレを付けて更に焼く。
「これは良い香りだ、腹が減ってくる。」
「鉄板で焼けば、チーズ巻と同じように香りで客寄せだね。」
ラッシュ・カムリの意見を、みさとは満面の笑みで肯定。
「こんな感じでどうでしょうかね。
食べる時に、そのままでもいいしマヨネーズかけても良いかな。」
「出揃った感じだし、折角だから皆で味見しましょうよ。」
ターセルの一声で、皆で試すことになった。
食卓に移動、みさとは取り皿とお茶も用意。
1つずつ食べられる量を盛り付けた大皿が並べられた。
「どれも美味しそうねぇ。
見た目は、うちのサンドイッチが一番かしら。」
「何言ってんだい、うちのチーズ巻もコロンとして可愛いじゃないか。
香りもいいしね。」
「香りはうちの肉巻きおにぎりだろう。
これは売れるね。」
皆自分のとこの材料でできた料理を気に入ってくれたのか、自慢気である。
「卵サンドは2個組にして、片方ずつか両方同じでも良いとかならリピートしてもらえそうだよね。
好みで胡椒追加もいいかも。
チーズ巻は、ケチャップかはちみつ付けても美味しいかも。
チーズが溶けてるのでも固まってるのでもどっちもイケると思う。
肉巻きおにぎりは、座って食べられるなら卵の黄身を付けると美味しいよ。
白身はご飯に混ぜれば無駄無いし。」
それぞれに追加でコメントするみさと。
「そうなのね。
みさとちゃん、助かるわ。」
「流石みさとだねぇ、後で試してみるよ。」
「そんな方法もあるのか。
農場見学の人も増えてるから、出してみようかな。」
「まずは皆さん、味見始めましょうか。」
食べたくてうずうずしているシビックの視線に負けた俺は、声をかけた。
「「いただきまーす。」」




