お試しにも程がある 154
「さて、出掛けるか。」
一晩ゆっくり休んで、朝御飯も食べたところで声を掛ける。
「帰ってきたら、向こうに帰る感じ?」
「そうだね、その予定。
忘れ物ないようにね。」
「ゴミ出しもしとかなきゃ。」
そうして、前回と同じコースを辿りに行く。
駐車場で車を透明化し、大きめの商業施設の屋上まで行く。
銀行のATMと貴金属店を廻り、車に戻る。
「ねぇたっくん、今更だけどさ、これって税務署に目を付けられない?
連日百万単位で入金繰り返すことになるんだよね。」
「あー、どうなんだろう。
こっちに来て日が経たないと、毎日してることになるね。」
「だって怪しいでしょ。
どこからきたのこのお金ってなるじゃん。」
「そこまで調べるかなぁ。
じゃあ、箪笥貯金…よりは、株で投資でもする?」
「むむむ、そういう手もあるか。」
「まぁ結果調べられるのは変わらないかもね。
こんな金額で調べに来るとも思えないけど。」
「そういうもんなの?
小心者過ぎた?」
「気になるのはわかるよ。
向こうに居たから、俺が全然気にしなくなってたかもな。」
「聡ちゃんに渡しておいて、口座に入れてから別のところで同じ金額引出せば、紙幣の番号は変わって安心?」
「なんか、犯罪まがいのことさせようとしてる?」
「駄目かぁ。」
「現金でそのまま渡すならまだいいかもね。
贈与税は心配だけど。」
「ちょいちょい渡しに行こうか。」
「よし、久々顔を見に行くか。」
一応メッセージで状況確認してからね。
反応はあったので、今から向かう事を返信。
行き先を、聡太が一人暮らししているマンションに変更。
隣の県ではあるが、ナビにお任せ尚且つ空中なので直線上に速度制限無視で向かう。
空気抵抗は相変わらずあったが、それなりの早さでついた。
車は透明なままウエストポーチにしまい、マンションのインターホンを鳴らす。
「聡ちゃん、来たよ!」
「え、早くない?
どこから連絡したのさ。
取り敢えず上がってきて。」
オートロックの扉が開き、目的の部屋に向かう。
「よ、久し振り。
元気そうだな、聡太。」
「一応ね。
何、どしたの、めっちゃいい顔してんじゃん。」
「いやぁ、最近楽しくてね。
お裾分けに来たんだ。」
「何を?」
「先ずは現金かな。
枚数は知らん。」
「は?宝くじでも当たったの?」
「似たようなもんかな。
まぁ、見てみて。」
俺と聡太で話している間に、みさとがリュックから財布をいくつか出す。
「お財布毎でも良いけど、現金だけの方が良いなら出すよ。」
「どんだけあるのさ。
ん?全部同じ財布?」
「お財布だけじゃなくて、紙幣の番号も一緒だよ。」
「それ、ヤバい奴じゃないの?」
「一応自販機もATMも使える事は確認した。
大量にあるから、口座に入れて跡が残ると税務署から来るんじゃないかとみさとが心配したから、聡太にお裾分け?」
「税務署なの?警察じゃなくて?」
「だって、増えたんだから仕方ないじゃん。
見てみてよ。」
みさとが聡太に紙幣だけ出して、渡す。
紙幣番号も、皺の付き方も一緒なことにも気付く。
「やっぱ複製じゃん。
不味いでしょこれ、何処で手に入れたの。」
聡太の質問に、俺とみさとはそれぞれウエストポーチとリュックを指す。
「魔法で増えた。」
「んな理由あるか!ふざけてんの?」
「ホントなのに、ねぇたっくん。」
「疑い深い奴だな、実演するか。」
俺は、ウエストポーチを聡太に渡す。
「中見てみて、仕掛けは何もないよな?」
「そうだね、無いね。」
「じゃあ、財布に紙幣戻して、入れてみ。」
「おぅ。」
「取出して。」
「はい。」
「もう1個取出して。」
「あるわけないじゃん。
え、何で?もう1個ある!」
「自分の財布で試しても良いよ。」
聡太は無言で財布を取りに行き、同じ事を試す。
「やば…何これ。」
「だから、魔法。」
「何、魔法使いになったの?父さんも母さんも。」
「俺だけだな。
何か試しにして欲しいことあれば、言ってみ。」
「じゃあ、俺を浮かせて。」
「ほい。」
即座に浮いたので、聡太本人も何が起きたかわからなかったようだ。
自分の足元を見て、ワタワタしてる。
「こ、このまま進んで大丈夫?」
「おぅ、壁に気を付けてな。」
「あはは、ホントに浮いてる、飛んでる!
凄いよ父さん!」
さっきまで疑っていたのが嘘のように、無邪気に笑っている。
自由自在に飛べるのは楽しいよね。
「信じてもらえたか?」
「うん、信じるよ。」
俺達のやり取りをみさとに抱えられたまま見ていたシビックは、つまらなさそうに欠伸をした。
目敏い聡太は、見逃さなかった。
「ねぇ母さん、それぬいぐるみじゃないの?
欠伸した?」
「ぬいぐるみじゃないよ、生きてるよ。
触ってみる?」
浮いたままの聡太は、みさとに近寄りシビックに触ろうとする。
目だけを聡太の方に向け、シビックは大人しくしている。
先ずは尻尾を触り、頭を撫で、最後には抱き上げた。
「可愛いね、この子。
蜥蜴、イグアナ、いや違うな。
何だろう?」
「ドラゴンだよ。
シビックっていうの、可愛いでしょ。」
「へぇ、ドラゴンか。
え、ドラゴン?本物?」
「見事なリアクション芸だな、聡太。」
面白い反応に、つい茶化してしまう。
「いやいや、ドラゴン…まぁ、魔法が使えるならドラゴンもありなのか?
何処から連れてきたの?
まさか異世界とかいう?」
「流石聡ちゃん、御名答。
帰る前に、顔見に来たの。」
「異世界ってさ、普通行き来出来なくない?」
「出来るようにしてもらったんだ。
聡太も行くか?」
「行ってみたいけど、明日仕事だしな。」
「行って帰ってくると、今の時点に帰ってくるんだ。
前回も今回もそうだったから、そういうもんなんじゃないかな。」
「それなら行く!
俺も魔法使えるかな?」
「じゃあ、やってみるか。
色々耐性も付けとくぞ。」
「ファンタジーっぽいね、それ。」




