お試しにも程がある 151
「依頼はまた後で受けに来ますよ。
用が出来たので、今日はこの辺で。」
「え、待って下さいよ、拓海さーん!」
冒険者ギルドを出た後、クレスタに通話で相談。
(クレスタ、拓海だけど、ちょっといいかな。)
(どうしたの拓海さん、何か忘れ物?)
(さっき冒険者ギルド行ったらさ、来週には武道大会だって聞いたんだよ。
しかも、今年は地方からの人も多く来てるみたいだし、実演販売するには丁度いいんじゃないかって思ってさ。
どうかな?)
(凄く良いんだけど、販売できるものがないと、どうにもならないよ。)
(そこはさ、デックス達がその時点で用意出来た数だけの限定にするのさ。)
(成程ね、ありかも。
その相談をデックスさんにするのと、販売担当をうちで用意して仕込まないとか。
拓海さん、帰ったばかりで悪いけど相談乗ってよ。
またうちに来てくれない?)
(わかった、向かうね。)
あっという間に話がつき、クレスタの家に向かう俺達。
先ずは、デックスに1週間で用意できるかを確認。
折角だから、クレスタからしてもらう。
(デックスさん、クレスタです。
少しお話良いですか?)
(おぅクレスタ、どうした?)
(実はですね、来週武道大会というお祭りがありまして、人がわんさか来るんですよ。
その時に包丁のお披露目販売したいのですが、普通サイズをいくつくらいなら用意できますか。
無理を言ってるのは承知で伺ってます。)
(成程な。
でも、1週間貰えるなら、俺とルクラだけでも20本は出来るぞ。)
(流石ですね。
じゃあそれを見込んで、販売計画立てますね。)
(おぅ、来週取りに来てくれよ。)
(はい、宜しくお願いします。)
「商品の数は分からないけど、確約は取れた。
これで、人の多い時に出来るね。」
「後は、担当者だな。
誰か居そう?」
「信頼が置けて、話も盛り上げ方も上手で、やってくれそうな人。
今から募集は難しいかも。」
「そっか。
チェイサーとか適任じゃない?」
「え、チェイサー?」
「どうかな、クレスタ。」
俺の話に、真剣に悩むクレスタ。
「チェイサーか…駄目じゃないですよ。
あいつにも仕事があるし、こんなこと頼んでいいやら。」
「取り纏めはマークツーかな?
1人じゃ大変そうだし。」
「そこは外せないな、2人で1人みたいなもんだし。」
「チェイサーなら、人を引き込むの上手そうだし、後任育てるのも向いてそう。」
「あいつは、目立ちたがり屋なんだよ。
これで上手く行ったら、他の仕事やらなくなりそうで。」
「そっか。
じゃあ、クレスタやってみる?」
「チェイサーに声かけます!」
急いで魔道士を探しに行こうとするので、その役は俺が引き受けた。
チェイサーの元に向かったつもりだが、見当たらない。
「チェイサー、居る?」
「クレスタ、どうした?
チェイサーなら事務所に居るはずだよ。」
本人ではなく、マークツーが応える。
そのマークツーは、事務所ではないところで事務仕事をしていた。
「マークツー、何で向こうじゃなくここで仕事してるの?」
「ふぅ。
その扉開ければわかるよ。」
言われた通り、クレスタが扉を開ける。
事務所と言っていたので、チェイサーの机と他の職員が仕事出来る机もある。
端に応接セットもあり、長い方のソファでチェイサーは昼寝中。
扉開ける前から察しては居たが、いびきが大きくて、静かに仕事をしたいマークツーには向かない場所だということがわかった。
「起きてよチェイサー。
仕事を頼みに来たんだ。」
「んあ、何だクレスタか。
あと5分…」
「いや起きてよ。
君にお願いしたいんだ、聞いてくれよ。」
「何だよ騒がしいな。」
「お前のいびきほどじゃ無いぞ。」
チェイサーの意見を、マークツーが訂正する。
「目が覚めた?仕事の話していいかな?」
「おぅ、聞かせてくれ。」
「実はね、包丁の実演販売したいんだ。
武道大会に合わせて、人が多い中でやってほしい。
商品はドワーフ作の包丁で、切れ味抜群。
巨人族にも販売予定の品だ。
本数はまだまとめてできないから、あっても20本くらいのはず。
完売したら終了。
後日売れる本数増えたら、突発的にまた実演販売する。
僕の店では正規の値段で置くけど、実演販売は割引しての値段だから少しお安め。
拓海さんの方法は売れると思うんだけど、興味出た?」
「その包丁はいくらなんだよ。」
「銀貨30枚。」
「30枚?高過ぎないか?」
「そこから2割引で販売予定だよ。」
「それでも24枚じゃないか。
そんな高いの売れないよ。
普通の包丁は銀貨5枚前後だぞ。」
クレスタとチェイサーのやり取りは、喧嘩をしてるのではないかと思うほど熱が入っていた。
「まずさ、実物確認と売り方の確認必要じゃない?
クレスタ、見本はあるんだろう?」
冷静なマークツーの言葉に、2人ははたと止まった。
「確かに確認必要だな。
クレスタ、見せてみろよ。」
「あっ、包丁持ってこなかった。」
「おいおい、商売に見本は必要だろう!」
「俺が持ってるよ、これどうぞ。」
チェイサーが怒るのも無理はないので、クレスタに助け舟を出す。
ウエストポーチから普通サイズの包丁を取出す。
先ずは、手にとって見てもらう。
綺麗な刃には、ルーン文字の刻印がされていて、装飾品とも見えなくはない。
「売り方は…拓海さん、もう一回実演お願いできますか?」
「良いけど、他の道具はあるの?」
「うちならあるけど、ここはどうかな。
面倒なので、皆でうちに行きましょうか。」
「2人共、この後の予定は大丈夫なの?
移動して良い?」
「俺は構わないよ。」
「言伝だけしてきます。
いきなり居なくなったら、皆困惑するでしょうから。」
クレスタの言い分は最もなので、2人の都合確認。
マークツーの方が、しっかりしてるな。
戻ってきてから、皆でまたクレスタの家に移動。
チェイサー・マークツーは、転移装置で慣れているのか、デックスのように驚きは無さそう。
「うわ、拓海さんて魔道士なんだ、すげぇ!」
「今更なの?チェイサー。
何でも出来る凄い人だよ。」




