お試しにも程がある 15
「楽しかったね、たっくん。」
「そうだね、魔王様にまで会えると思ってなかったけど。」
「実験も成功して良かったんじゃない?」
「何となく出来るかなとは思ってたからね。まぁ、迷子がでなくて良かった。」
既に家の車庫・なんだかすごく久しぶりな感じの我が家。
「お風呂入れてくるね!」
そう言って動き始めたみさと。
俺は、家の中で変わったことないか見て回る。結界も張ってあるし、荒らされた形跡はなし。良かった良かった。
こっそりお茶でも入れとこうかなとキッチンに行くと、シビックがテーブルの上でうつ伏せになっている。
「どうした、シビック。風邪でもひいたか?」
ジト目で見返され、静かに喋りだした。
「僕も飛びたいなぁ…大きくなって。」
「うーん、気持ちはわかるけど見つかったら大事だぞ?」
「車みたいに不可視化出来ないの?」
「なるほど!やってみるか。試しに今かけてみていいかい?」
「やってやって!」
やっと起き上がっていつもの元気なシビックになった。
シビックにかける前に、自分には不可視化しても見られるように念じておく。
これで済むなら、魔法って言えなくない?
『以前からかかっていますので、更に強化版にしました。』
そーだっけ?まぁナビがお墨付きをくれたので、大丈夫かな。
「じゃあいくよ!」
不可視化をかけて、見えなくなったシビック。生物にもかけられるんだ、凄いな。
「僕見えなくなった?どぉ?」
「みんなには見えないけど俺は見えてるからな。まだ外に行くなよ。折角だから俺も乗りたいけどどうかな?」
「良いよ!みさとはどうする?」
「もうすぐ来るから聞いてみよう。」
「呼んだ?」
いいタイミングで戻ってきたみさと。
シビックと空中散歩しに行く話をすると、大喜び。
「前回は一人で乗ったから、たっくんと一緒は初めてだね!」
「そうだね。落ちないようにもしないと。」
「シビックくんは何処行ったの?」
キョロキョロするみさと。ちゃんと見えなくなっているな。
見えないのを良いことに、シビックはみさとの周りを飛び始めた。
それを察知してみさとが手を伸ばすと、あっさりシビックは捕まった。
「ねぇ、ほんとに見えてないの?大丈夫?」
「うわぁ、シビックいた!びっくりした。」
「あ、見えてないのに捕まえたんだ。凄いねみさと。」
「風が動いたし、何だろうと思ってね。このいたずらっ子め!」
「みさと、待って!不可視化かけたのは拓海だよ!僕が出来る訳ないじゃん。」
「ん?たっくん共犯?」
「人聞き悪いなぁ。シビックが大きくなって空飛びたいって言うから、騒ぎにならない様に不可視化かけてみたんだよ。
だから一緒に乗りたいなって話。」
「そっか!じゃあ行こうよ。」
皆で裏庭に行き、人がいないこと確認。
シビックが大きくなって、二人で乗って落ちないように魔法をかける。もちろん不可視化もかけて、大空に飛び立った。
「シビック凄〜い!気持ちいい〜!」
「車とは違っていいね。街が小さく見えるよ。」
「やっぱ自由に飛べるのいいなぁ~。私も飛べないかなぁ。」
「みさとは遠くに行き過ぎて帰り道わからなくなるから駄目だよ。
帰って来るの1週間後とか嫌だからね。」
「見える範囲ならいいじゃん!」
「何処かで落ちたらどうするの?魔法覚える?」
「ねぇ、折角気持ちよく飛んでるんだから背中で喧嘩しないでよ。」
「喧嘩じゃないし…」
「ごめんごめん、シビックは自由に飛んでていいんだぞ。
運転しないとこんなに自由なんだな。
これはこれでいいなぁ。」
「そろそろさぁ、僕ひとりで飛んでもいいかな?楽しめた?」
「楽しかった!また乗せてね。」
「ありがとうシビック、じゃあ転移で帰るからゆっくりしておいで。」
「ご飯作って待ってるよ。」
「わ〜い!お腹空かせて帰ろう!」
シビックは宙返りやスクリュー回転し始めた。
慌てて俺は転移魔法で家に帰った。
「楽しかったね!」
「たまにはいいかな。」
「お風呂できてると思うよ。」
「じゃあ入ってからご飯にしよう。」
「シビックくん、大きくなった途端大はしゃぎだったね。」
「最近ずっと小さかったしな。
文字通り羽を伸ばすのもいいんじゃないか?」
「家の中じゃ狭いしね。」
「好きな時に大きくなられたら、たまったもんじゃない。
帰ってくるまではゆっくりしようか。」
そんなタイミングを見計らったように、ドアノックの音が来客を知らせる。
「こんにちは!いるかい?」
お隣のカムリさんだ。チーズとバターが売れて大忙しと言ってたな。
「こんにちは、カムリさん。ご無沙汰してます。どうしたんですか?」
「いやなに、新商品考えているんだかアイデアがなくてね。
みさとちゃんならどうかなと思って頼りに来たのさ。」
「カムリさんこんにちは。
牛乳を使った新商品ですか。いちごミルクとかコーヒー牛乳とかどうかな?
冷やしながら撹拌は難しいからアイス系はなしかな。
あ、キャラメルはどうかな?甘くて美味しいよ!」
「キャラメル?何だいそれ。」
「柔らかい飴みたいな…分かりづらいから食べてみて!」
そう言うとキッチンに向かうみさと。カムリも一緒に連れて行く。
「材料は牛乳・砂糖・バター。
焦がし過ぎないように根気よく混ぜる。
ある程度したら火から下ろして、広げて冷まし固める。
冷えたら一口大にして包めば終わり。」
事もなげにやって見せるみさと。
冷やしている間には、いちごミルク・バナナミルク・コーヒー牛乳も作ってお試し。ミキサーないから、細かく刻んだものを牛乳に入れて瓶でシェイク。
キッチンは甘い香りに包まれていった。
「この飲み物は美味しいねぇ、流石みさとちゃん!
瓶と果物と牛乳で出来るから、入れて渡して自分で振って完成させてね~って感じかねぇ。」
「それ有りですね!自分好みに出来るし小さい子でもできるかも。」
「コーヒーは半々くらいかな。
あんまり苦いと嫌厭されるけど、これくらいならいい感じだよ。
砂糖はお好みで決めてもらえばいいし、甘くないのも選べるしね。
「食事やお菓子と一緒に飲めそうだねぇ。」
「瓶だと持ち運びもできていいね!まぁ、材料用意すれば自分でもできちゃうけど。
切ったり潰したりが手間くらいかな。
どう?カムリさん。」
「もちろん採用!
そのキャラメルとやらも早く試したいねぇ。」
「たっくん、冷やせる?」
「いいけど、急速冷凍になるよ。」
「凍らない程度でお願い!」
「はいはい、やってみるね。
カムリさんとこは冷蔵庫あるよね?」
「拓海君に作ってもらったからあるよ。
実はさ、部屋ひとつ分くらいの大きいのが欲しいと思ってるのさ。
どうだい、できそうかい?売ってくれると嬉しいんだけど。」
「じゃあこのあとそっちに行こうか。
見てみないとわからないしね。」
「そうかい、ありがとね。
いや今日は来てよかったよ。最近留守がちだろう?」
「何回か来てくれたんですか?すみません。」
「いやいや、こっちは相談事だからね。」
監視カメラ的な物を作れば、来訪者がわかるか。知り合いに何回も足を運んでもらうの悪いしね。
向こうは向こうで便利だったんだな。魔法はないから判断難しいけど。スマホとか全然触ってないし。あー、ゲーム途中だったなぁ…
そんなこと考えているうちに、キャラメルは冷えてきた。みさとが包丁持ってきて切り分ける。
一口サイズのものを皆で口にいれる。
「なにこれ、美味しいねぇ!」
「なかなか上手く出来たみたい。良かった。」
「流石みさと、上手だね。」
「早速だけどさぁ、これ売り出していいかい?」
「その前に、これを包む紙を用意しないとね。温度高いと溶けやすいし、くっつかない紙があるといいんだけど。」
「チーズ包む紙じゃだめかね。」
「どんなのですか?」
「これさ。つるつるしてて、油も付かないんだよ。」
「これはいいですね!試しに包んでもいいですか?」
「もちろん!帰れば沢山用意あるから、使ってみて頂戴。」
みさとは手頃なサイズに切って、いくつか包んでみる。
少ししてから開けてみると、きれいに取れる。
「これなら問題ないんじゃない?どう、たっくん。」
「大丈夫そうだね。カムリさん、どうですか?」
「いい感じだね。包むのに手間がかかりそうだけど、やってみようかね。」
「これで売れるなら、パンケーキ・生クリームにかけてもいいし、チーズケーキに入れてもいいよね!美味しそう。」
「そんなことにも使えるのかい?」
「硬さを調整すれば、ソースとかジャムみたいに使えるよ!プリンのカラメルの従兄弟かな。
もちろん、カラメルの濃いバージョンで混ぜたりかけたりでもいいし。」
従兄弟か再従兄弟か知らないけど、作る工程は少し似てる。成る程ね。
「チーズケーキの新味出せるのはいいねぇ。また売れて忙しくなるよ!
やっぱり大きい冷蔵庫必要だねぇ…」
俺を見てくるカムリさん、わかってるよ行きますよ。
「じゃあ、早速カムリさんとこ行く?」
「そーだね、行こう!」
「助かるよ、値段も言っとくれね。」
「大きさ見てからね。」
シビックにおやつと共に置き手紙をして、出掛けた。
以前見たときより格段に大きくなってる建物。中を見ると、最早工場。その中の大きめの一室を希望された。
「魔法使える人居るなら、温度調節出来るようにもできるよ?」
「残念ながら居ないんだよ。ずっと同じ温度でいいから、少し低い温度で頼むよ。」
「わかった。チーズケーキや生クリーム・バターの保存かな?」
「そうそう、作り置き難しくて。」
「今度は販売する店の方にも冷蔵庫必要になるね。」
「おや、そっちも販売するのかい?宣伝は任せてよ。」
「直接はやらないけど、考えとくよ。」
そう言いつつ、大きめの水晶を天井に付けて、永続的に動くよう魔法を組込む。
直ぐ様部屋はヒンヤリして、寒いと思える程になった。
「助かるよ。今まで通り商品置いとけるし、冷蔵庫よりたくさん置けるよ。
お茶用意するからゆっくりしてって!」
お茶とお茶菓子を持って、カムリが入ってきた。俺達の前とカムリの前と、それぞれ置いていく。
「いやー助かったよ!ありがとね。お代はちゃんと言っとくれ。」
「どれくらいが妥当なんだろうね。よくわからないから決めてくれていいんだけど。」
「じゃあ大奮発して金貨5枚でどうだい?何かあったら調子見に来てくれるだろ?」
「毎度あり。それでお願いします。
カムリさん商売繁盛してるんですね。」
「おかげさまでね!これでもっと稼げるよ。
冷蔵庫普及したら、もっと売れるかもね。」
カムリはそう言いながら奥へ戻り、金貨を持ってきた。
「支払いはこれでいいかい?」
「確かに頂きました。」
「カムリさん、このクッキーバターきいてて美味しいね!」
「そうだろう?こっちはチーズ入れてみたよ。仕事に来てくれてる人たちにおやつで出してるのさ。」
「これ売ってるの?」
「いやいや、おやつだしね。その日食べるくらいで湿気ないうちにしないとだし。」
「そっか。美味しいのに。」
「カムリさん、バターやチーズの取引先の人に試してもらえば?
小分けにしたら店先にも置きやすいし。
数量限定にして売り切るくらいしか出さないとか。」
「数量限定にすれば、買えなかった人は次こそってなるかもね。私ならそうするな。」
「なるほどねぇ。少し多めに作って、やってみようかねぇ。」
「さっきのキャラメル入れたクッキーも美味しいよ!」
「何でも使えるねぇ。試してみるか。ありがとね!」
「こっちのチーズ入ってる方は、香ばしいね。甘過ぎないのもいい。」
「そうだろう?チーズは細かくしたのが入ってるんだよ。」
「カムリさん、チーズだけで焼いてカリカリにして食べたことある?」
「チーズはとろけるからカリカリにはならないだろ?」
「それがね、なるのよ。試しに作ってみる?」
和気あいあいとキッチンに消える二人。
それも商品になるのかな。俺は味見係なのでお茶飲みながらゆっくり待つことにした。
そんな中、レジアスから念話が来た。
(拓海よ、今いいかのぅ?)
(どうしたのレジアス?)
(先日話してた例の転移魔法陣じゃが、検問の外に設置でまとまったわい。
試しに設置したいのじゃが、手伝ってもらえんかの。)
(わかったよ。今から?)
(便利なモノは早い方がいいじゃろ?早速行かんか。)
(みさとの用事終わってからで良ければ、向かうよ。)
(もちろんじゃ。連絡待ってるぞ。)
やれやれ、相変わらずせっかちだ。
試すのは俺も吝かではないので、みさとに声をかけに行く。
キッチンはチーズのいい香りでいっぱい。
みさとが切り分けているところだった。
「いい香りだね、進捗はどう?」
「いいトコに来たねたっくん、味見してよ。」
先に試していたカムリからはサクサク良い音がする。
「これは美味しいねぇ、お菓子みたいだ。」
「甘くないお菓子があってもいいよねぇ。」
「俺、これ大好き!
みさと、家でも作ってよ。」
「いいよ。」
「相変わらず仲いいねぇお二人さん。
じゃあ、これも売れるかやってみるよ。
ありがとね、みさとちゃん!」
一区切りついたようなので、みさとにレジアスの件を伝える。
みさとがカムリに念の為確認。
「カムリさん、他は大丈夫かな?」
「あぁ、助かったよ。
みさと・拓海、ありがとね。さらに儲かるようになるからね!」