お試しにも程がある 149
「数が揃いそうなら、早く値段決めてもらわないと。」
俺はデックスを突っつく。
「そうだなぁ。材料費・工賃・利益を乗せて、銀貨20枚ってとこかな。
普通サイズでその値段で、大きめサイズは35枚、鋸包丁は手がかかるから60枚だな。」
「ほぅほぅ。」
「武器になると、下手すりゃ金貨での支払いになる。
小さいし使ってもらってなんぼだからな、こんなもんだろう。」
「クレスタ、どうかな?」
「良いと思う。
品質に見合った値段でしょ。
寧ろお値打価格かな。
じゃあうちでの売値は、銀貨10枚乗せた金額だな。」
「おいおい、その利益でやってけるのか?
実際はそこから割引するって言ってたよな。」
「何せ数が出る予定なので、薄利多売ですよ。
しかも、まだまだこれから商品増やす予定だから、看板商品には頑張ってもらわないとね。」
「そこも計算づくか。
俺達も頑張らねぇとな。
仕事があるのは、良いことだ。」
「デックスさん、乗り物も忘れてませんからね。
販売の軌道に乗せてくださいね。」
「おぅ、任せろ。」
請け負ったデックスは、目線が遠くで固定してる。
「なぁ、あれ何だ?かなりでかいようだが。」
視線の先を見ると、シビックが自由に飛んでいる。
しかも、元の大きさで。
「あぁ、うちのシビックだよ。
ここ広いから、飛びたくなったんじゃないかな。」
相変わらず元気だ。
「おいおい、どんだけでかいんだよ、あいつ。」
「シビックって、肩に乗ってた可愛いペットのこと?
あの大きさってどういうこと?」
「あれ、ドラゴンだよ。
いつもは小さくなってご飯食べたいだけ。
かわいいよね。」
折角デックスとクレスタの質問に答えたのに、2人は開いた口が塞がらない。
「どうしたの?何かあった?」
「何かあったじゃねーよ!
ドラゴンだぞドラゴン!
何かあってからじゃ遅いんだよ!」
「えっと、拓海さん、あのドラゴンは襲ってこないよね?」
「当たり前じゃん。
いつも大人しいでしょ。」
2人して何を言ってるんだ。
そんな事を考えている間に、みさとを乗せたシビックが降りてきた。
「楽しかった!
ありがとね、シビック。」
「意外に広かったね。」
大きく伸びをしてから、小さくなったシビックはみさとに抱かれてこっちに向かってきた。
「ん?お話し終わった?」
何もなかったかのように、みさとが聞いてくる。
「2人共さ、シビックが危なくないかって聞いてくるんだよ。」
「こんなに可愛いのにね。
もう人は襲わないよね?シビック。」
「人間よりみさとのご飯の方が美味しいから、襲わないよ。
みさとと拓海に危害加えるなら別だけど。」
「あはは、大丈夫だよ。」
みさととシビックの会話は、クレスタとデックスにはわからなかったようだ。
ただ、笑顔で会話するみさとに安心感を得たようだ。
「だ、大丈夫そうだな。
それならよ、出来たらでいいんだが頼みたいことあんるだが。」
「どうしたの、デックス。
頼みごとって?」
「いやさ、ドラゴンの鱗ってすげぇ素材だって聞いたからよ、貰えるなら見てみたいんだよ。
無理かな?」
「シビック、どう?」
かなり下手なデックスの頼みを、俺がシビックに聞いてみる。
「うーん、そもそもね、取れるのかな?
剥がして取れるかもやったこと無いんだけど。」
「そうか、成程な。」
俺とシビックの会話をソワソワしながら聞くデックス。
「どうだい、難しいのか?」
「本人曰く、剥がして取れるかは分からないんだって。」
「そっか、無理か。
聞いてくれてありがとな。」
ん?みさとが、リュックをゴソゴソしている。
「ねぇデックスさん、いつ剥がれたものでも大丈夫なの?
実はね、シビックのお部屋掃除した時に、落ちてて綺麗だったから取っといたんだ。
これでも良いかな?」
取出した袋には、かなり大きな鱗が入っていた。
シビックの部屋は、元の大きさに戻れるくらい広くしてある。
稀に落ちてるのは知っていたが、みさとは保管しておいたんだ。
デックスは両手で1枚を受取ると、じっと見つめる。
「シビック、これはあげても大丈夫かな?」
「うん、落ちてたやつならどうぞ。
剥がされなければ文句ないし。」
念の為俺はシビックに聞いてみる。
「デックス、シビックがどうぞって言ってるよ。」
「良いのか?本当に?ありがてぇ。
綺麗だな、使うの勿体無いな。」
デックスは、手に持った鱗を色々な方向から見ている。
みさとは更に袋からもう2枚出した。
「滅多に落ちないから少ないけど、良かったらこれもどうぞ。
数は確保できないから、何かの商品に組込むのはお勧めしないかな。
大事にしてあげてね。」
みさとは袋に戻し、袋毎デックスに渡す。
それを見ていたクレスタは、呆れた顔で呟いた。
「ねぇ拓海さん・みさとさん、それすっごく高価なのは知ってる?
あげたこと人に言わないほうが良いよ。
2人も狙われるしデックスさんにも危険が及ぶからね。」
「そうなの?私綺麗としか思ってなかった。
教えてくれてありがとね、クレスタさん。」
「ドラゴンてやっぱり珍しいのか。
鱗位ならその辺に落ちてないか?」
「「落ちてない!」」
不用意な俺の一言に、クレスタ・デックスから突っ込みが入る。
「お前な、ドラゴン自体が珍しいんだよ!
近くに寄るだけで命も危ないんだ!
鱗取りに行くだけでも本体がいつ戻るか分かったもんじゃねえから、生きた気がしないんだよ。」
「拓海さん、今の外で言っちゃ駄目だよ。
冒険者達敵に回すからね。」
「はい、スミマセンでした…」




