お試しにも程がある 146
「かぁちゃん、帰ったぞ。
お客さん連れてきた。」
大きな声で家に入るボンゴ。
続いて俺達も入っていく。
「おかえり、父ちゃん。
お客さんかい、あらあらみさと、久し振りだねぇ。
クレスタも拓海も、いらっしゃい。」
「ミレーニアさん、こんにちは。
お土産持ってきたの、出しても良い?」
「勿論だよ。
こっちに座んな。」
ボンゴの奥さんのミレーニアとは、仲良しのみさと。
男3人は放ったらかしで、2人でおしゃべりが始まる。
「サンドイッチ持ってきたの。
持てるサイズにしたつもりだけど、試してみてくれる?」
リュックから取出したサンドイッチは、俺達にはかなり大きいサイズ。
ミレーニアは、ニコニコして受け取る。
「あらあら、美味しそうだね、早速頂こうか。
父ちゃん、手洗ってきたかい?
魚解体しに行くって言ってたしね、皆も洗っといで。
お茶用意しとくからさ。」
男達をしっしっと手で追いやってから、ミレーニアは台所にみさとだけ連れて向かう。
「あっちは一杯だろうから、みさとはこっちで洗いな。」
「ありがとう、ミレーニアさん。
序なんだけど、さっきまで魚の解体に使ってた包丁をね、ミレーニアさんにも試してほしいんだ。
あ、洗ってからね。」
みさとは、リュックから取り出した包丁と自分の手も一緒に洗う。
「切れ味良いはずだから、気を付けてね。」
「そんなにかい?どれどれ。」
みさとから貰ったサンドイッチを、半分に切ってみる。
「随分柔らかいパンだねぇ、簡単に切れたよ。」
「あはは、後で違うものでも試してみてね。
何から運ぼうか?」
「あぁ、お茶のセットだね。
人数多いから、お盆気を付けなよ。」
「はーい。」
みさとはお茶のセットを運び出すと、ミレーニアは湯を沸かしたりサンドイッチを皿に乗せたりし始めた。
手を洗い終わった男達は、既に座って話をしだしている。
「あの鯨はどうするの、ボンゴ。」
「そうだなぁ、売りに出す分と家で食べる分で終わりかな。
焼いたり鍋にしたりかな。」
「そうなんだ。
中々取れないって言ってたけど、高く売れるの?」
「おぅ、いい値段つくぞ。
幾らかは分からんが、あの包丁代位になると良いな。」
「父ちゃん、大物って鯨だったのかい?」
切ったサンドイッチを持ってきたミレーニアが、驚いた顔で聞いてきた。
「そうなんだよかぁちゃん、拓海が持ってきた包丁が凄く切れる包丁で、解体進んだんだ。」
「それって、みさとが出してくれた包丁かねぇ。
このサンドイッチも綺麗に切れたよ。
鯨が切れるとは大したもんだ。」
「だろ?売り出し始めたら、うちでも買うから待っててくれな。」
「それは楽しみだ。」
夫婦での会話は、とても楽しそう。
「みさと、ミレーニアさんに包丁出したの?」
「うん、綺麗に洗ってから渡したよ。」
「ミレーニアさん、暫くお試しで家の中でも使って見て欲しいな。
俎板まで切れるから、力加減気を付けてね。」
「良いのかい、拓海。
じゃあ、家を解体しない程度に使わせてもらうよ。」
やはり、豪快な奥様だ。
「近所の人にも噂だけは広めて良いんだろ?
商売はクレスタかね、どうだい?」
「ミレーニアさん、それは助かります。
値段も決まってないからそこは申し訳ないけど、量産はしてもらう予定なので安心して下さい。」
更にトントン拍子の様子に、クレスタはもう諦めたようで、販売する前提で対応している。
「ドワーフ側で作る体制出来るまでは、流通少ないかもね。
ちょっと気長に待ってもらえると嬉しいかな。」
こんなに売れそうとは思わなかったので、俺もフォローに回る。
「お茶淹れたよ。
熱いから気を付けてね。」
いつの間にやら、みさとが用意してくれた。
「おぅみさと、ありがとな。
解体で腹減ってたから、食べたいと思ってたんだ。」
「父ちゃんは丸ごとでいいだろ、中身違うらしいから2つ置いたよ。」
「おぉ、ありがとな。」
ボンゴが齧り付くのを見ると、本当にハンバーガー持ってるみたいだ。
「これは美味いな、流石みさとだ。
うちでも作れねぇかな、かぁちゃん。」
「作り方聞いとくね。
簡単だと良いんだけどねぇ、みさと。」
「簡単だよ。
今回はお肉だけど、お魚でも美味しいよ。」
「え、魚でも出来るの?みさとさん聞いてないよ。」
何故か怒るクレスタ。
「だって、干物じゃ美味しいかわからないんだもん。
こっちの新鮮なお魚なら、確実に美味しいし。」
「白身魚でタルタルソース、美味いよね。」
特定のバーガーを想像して、うんうんと頷く俺。
「それ、試しましょうよ。
ミレーニアさん、調理して良い魚ありますか?」
「今朝捕れた鱈と鮭があるよ。
出来そうかい、みさと。」
「バッチリだよ、ミレーニアさん。
クレスタさんも作るの見る?」
「見る見る!」
3人で、キッチンに向かっていった。
その間にも、ボンゴは2つ目に取り掛かっている。
「ホント美味いな、幾つでも入りそうだ。」




