お試しにも程がある 144
「おかえり、たっくん。
お土産出来てるよ。」
やはり先に反応するのはみさとだ。
「拓海さん、おかえりなさい。
早速ですが、行きましょう!」
クレスタは行く気満々だ。
ボンゴの家まで転移すると、何やら慌ただしげな雰囲気。
「どうしたの、ボンゴ。」
立ち止まったボンゴは、キョロキョロしてから下に気付いた。
「あぁ、拓海、悪いな。
今忙しいんだ、大物釣れたから直ぐ包丁持っていかないと。」
「大物?見に行ってもいい?」
「良いけど、邪魔すんなよ。」
ボンゴの後を追いかけ、大物目指して進む。
何と、鯨が捕れていた。
「大物だねぇ、実物初めてみた!」
「ホントだ、凄いね。」
みさとも見るの初めてだろうが、俺も初めてなんだよ。
そんな俺達のそばで、クレスタはこれが何かが分かっていなさそう。
「これは何ですかね?壁?」
「多分だけど、鯨っていう哺乳類。
ボンゴが捕れたって言ってたから、湖から釣り上げたんじゃないかな。」
「え、こんな大きいのが湖に?しかも泳げるの?
大きくて沈みそうだけど。」
「優雅に泳ぐんだな、これが。
魚には分類されないけど、食べられる筈。」
端から暢気に見ているだけの俺達とは違って、ボンゴ達は鯨に寄って集って解体を進めている…ように見えたが、一向に進まない。
そもそも包丁で歯が経つのか?
巨人達の顔には、ちょっと諦めの入った表情が浮かぶ。
「折角捕れたのにな。」
「久し振りの大物だぞ、どうにかならんのか。」
どうやら、解体したいが事情で進まないようだ。
「ボンゴ、解体しないの?」
「それがよ、大物用の鋸包丁が折れちまって、皆で包丁持ってきたけどてんで役に立たないのさ。
もったいねぇな。」
成程、大物用の包丁が折れちゃったのか。
「よかったらさぁ、これ使ってみてよ。
切れ味良いはずだから、気を付けて使ってね。」
「何だ、普通の包丁じゃねぇか。
使ってもいいが、刃を折っても知らんぞ。」
大きめ包丁を受け取ったボンゴが、眺めつつも疑っている。
「まぁまぁ、試してみてくれる?」
「わかった、やってみるよ。」
鯨に向かったボンゴが、力を入れて突き刺す。
すると、刃が全て埋まってしまった。
「は、入ったぞ!」
ボンゴはそのまま下に包丁を動かすと、綺麗に切れていく。
周囲のどよめきが、歓声に変わった。
慣れた手つきで、どんどん解体を進めるボンゴ。
「解体、進みそうで良かったね。」
「あぁ、切れ味も問題なさそうだ。
クレスタ、売れるんじゃないか?」
「そんな感じだね。
デックスさん達に増産お願いしないと。」
解体は順調そうで、みるみる適度な塊になっていく。
暫くすると、山分けしてから自分の分の皮を剥がしているボンゴがいた。
他の人達は苦労して持ってきた包丁でやっているが、ボンゴは軽々と小魚の皮を剥ぐように楽々行っている。
他の人達からの視線が痛いのか、俺の方にやって来た。
「おい拓海、この包丁他の奴らにも貸してあげて良いか?」
「勿論どうぞ。
販売予定だけど、売れるかの調査に来ただけなんだよ。」
「俺は買うぞ!
他の奴らにも同じ説明していいか?」
「それは助かる。
何か意見あれば聞きたいのと、販売の際の窓口はクレスタだから宜しく。」
それを聞いて、ボンゴはクレスタの方を向く。
クレスタは、いきなりの展開についてきていないようで、呼ばれてびっくりした顔。
「クレスタ、幾らなんだこれ。
皆の本数聞いてまとめた方がいいか?」
「何、もうそんな話?
今日は調査って言ってたのに。
ええとですね、ボンゴさん、値段まだ決まってないんですよ。
まとめてくれるのは凄く嬉しいですが、1本ずつ手作りなので納品日もまだ分かりません。」
「そうなのか。
俺は待つからな、売ってくれよ。
かぁちゃん用にも欲しいぞ。
じゃ、ちょっくら行ってくる。」
皆の方に駆け出すボンゴ。
俺も俺もとボンゴの元に群がってきて、暫く終わらなさそう。
「売れそうだね、クレスタ。」
「そうだね、拓海さん。
トントン拍子過ぎて怖いよ。」
「お試し品、無くさないといいね。
何処に行ったか分からなくなりそう。」
「大丈夫だよ、みさと。
探す方法はあるから。」
れっきとした魔道具なので、気配察知は出来る。
ゆっくり皆が試すのを待つしかない。
「さて、デックス達は大丈夫かな。
更に大きな包丁頼まれそうだな。」




