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ちょっとそこの異世界まで  作者: 三毛猫


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お試しにも程がある 14

「どこに行こうか、ワクワクするぞ。」

 「その辺一周って言いましたよね?」

 「ここら辺は広いからな、一周でも時間かかるぞぃ。」

 魔王様は運転する気満々、レジアスは高みの見物。

 先ずは、操作方法から教えないと。

 部屋の中で車に乗り込み、アクセル・ブレーキ・シフトレバーの操作をレクチャー。今日ばかりは、オートマで良かったと思う。マニュアルも楽しいけど、教えるのは大変だし。

 魔王様は助手席で俺の操作を見学してから運転試してもらう流れに。

 城…というか山の周りをぐるっと一周。一度止まってから席を交換、魔王様は操作の再確認してからゆっくりとアクセル踏み込む…筈だった。

 いきなりアクセル全開、山に突っ込むかと思いきやジェットコースター並みに空中で大きく1回転。そのまま広い魔族領を自由に走らせる。

 「魔王様、運転初めてですよね?」

 「勿論だ!中々楽しいじゃないかこれ!!」

 「お前は昔から何やらせても器用じゃったからのぅ。」

 本能で走らせるとこうなるのか。みさといなくて良かった。事故ることはないだろうから、暫く自由に運転してもらう。

 余裕が出てきたようで、少しスピードを落とし領内を見て回るようだ。

 「綺麗になったな。お前の代になってから随分変わったもんじゃ。」

 「なーに、やりたいようにやっただけさ。親父殿の良いところもあったが、それはそれ、これはこれだ。」

 「良く他の者がついてきたのぅ。」

 「これでも魔王だからな。はっはっはっ。文句がある奴は説得しただけよ。」

 鉄拳制裁なのか力づくで物を言わせたのか、聞かないでおこう。

 

 それにしても、ほんと広いな。魔王領って聞いてたからどんな怖いところかと思ってたけど、案外普通。上から見てるからかなぁ。

 特に争いが起こっているわけでもなく、穏やかな感じ。寧ろ、真面目に仕事してる姿が見受けられる。

 以前はどうだったんだろう。

 

 気が済んだのか、魔王様は城の近くに車を停めた。ブレーキ覚えてくれてて良かった。

 操作に関しては、何も言わなくても問題なかったようだ。

 「これは楽しいなぁ。私も欲しいぞ。幾らなら売ってくれる?」

 「お前は物好きじゃのぅ。」

 「あはは、相場がわからないや。」

 一応ウエストポーチの中で増えてるからあげられるけど、整備とか大変だろうに。

 「じゃあ、何かあった際に自由に出入りできるように、これをやろう。

 これも、値段を付けられるものではないからな。」

 そう言って手渡してくれたのは、小さな角のようなもの。

 「お前、これを渡していいのか?もう数も少なくて大事なものだろうに。」

 「なぁに、まだあるから心配するな。

 そういうお前は、無くしてないだろうな?」

 「当たり前じゃ、ほれ。」

 レジアスはそう言ってペンダントを見せた。

 小さな瓶の中に、同じものが入っていた。

 「蓋が開かないように魔法かけてあるし、肌見離さず持っとるわい。」

 「よしよし。何かあったとき飛んでいく目印にもなるからな、失くすなよ。」

 こんな小さなもので位置情報確認できるの⁉凄いなぁ。

 「そんな大事な物を頂くわけには…」

 「遠慮せずともよい。価値をわかってくれれば、交換にも意味があるだろう。」

 「わかりました、1台お渡ししますね。

 動かないとかあれば呼んでください。」

 動力は未だに良くわからないけど、整備なら大丈夫!

 ウエストポーチから1台取出し、魔王様に渡す。

 俺の車と見比べて、同じであることに驚く。

「これは量産できるのか?」

「内緒ですけど、ポーチの中で増えてます。そういう魔法をかけました。」

「…やっぱりお前より優秀じゃないか、ん~~?」

「そういうところが一言多いんじゃ!わかっとるわい。」 

「素直に認めるとは、お前らしくない。

 それだけ力の差があるのか、怖いぞ。」

「俺はまだ山壊してないですよ!」

「そのうちそれ以上のことするじゃろう。」

 そんな会話をしながら、出発した部屋に戻っていく。


 思ったよりも時間が経過していたようで、美味しそうな香りが漂っていた。

 材料揃ってたのかな?カレーとハンバーグと揚げ物と…朝御飯沢山食べたのに、お腹が空いてくるいい香り。

 部屋に入ると、正体が判明した。唐揚げもある!やったー!!

 「お帰り〜。材料も器材も揃ってて、捗っちゃった。」

 「みさと、お疲れ様。すごい量だね。」

 「魔王様甘い物好きって聞いたから、ご飯よりデザート多めに作ってみた。

 みんなで食べよう!」

 これまたテーブル狭しと並べられた料理は、確かにデザート満載。ご飯系は、別のテーブル用意してあった。まるでバイキングみたい。

 「おぉ、運転して疲れたから甘いもの欲しかったのだ。奥方素晴らしいな!」

 魔王様はご機嫌で、キョロキョロしている。

 「見たことないのもあるのぅ、流石みさとじゃ。」

 レジアスもいつものチーズケーキ以外にも目移りしてるみたい。

 プリン・シュークリーム・チーズケーキ・苺のショートケーキ・クッキー・ドーナツ・マフィン・チェリーパイ・アップルパイ・フルーツの飴がけもある。

 「みさと、大変だったんじゃないの?」

 「料理してるうちにやりたい人集まってきて、色々教えてたらこんな数になっちゃった。」

 「みさと、お疲れ様じゃの。家のものにも後で教えてくれんかの。」

 「いいですよ〜。またお邪魔しますね!

 あ、良かったらアイスクリームも出せますよ。」

 「フルーツあれば、プリンアラモードできそうだね。」

 「そーだね!生クリームまだあるし。見繕ってこようかなぁ。」

 そう言いつつ出ていったみさと。最早我が家であるかの如くキッチンへ。

 「拓海、どれがどのようなものか説明してくれぬか。美味しそうなのにお預けではたまらん。」

 「わかった。」

 魔王様はご飯より甘い物、もうお皿とフォーク持ってる。

 大きなお皿に1つずつ載せながら説明してく。

 そうこうするうちに一口大のフルーツ盛合せと生クリームを抱えたみさとが戻ってきた。

 「お待たせ!

 あ、魔王様プリン取りましたね。じゃあ早速デコレーションしますか。」

 流石に絞り口までは揃っていなかったみたいだけど、袋に入れた生クリームで器用に仕上げていく。

 「あとは好きなフルーツ載せてくださいね!

クッキーとかでも美味しいかも。」

 「おぉ、奥方は何でもできるな。やはり家で料理人やらないか?」

 「あはは、また作りに来ますよ。

 そうそう、ここの料理人さん達も作り方覚えたから何時でも楽しめますよ!」

 「そうか。お前達、良くやった。

 甘い物は毎日練習がてら出すように!」

 「魔王様、奥様にも出していいべか?」

 料理人のひとりが、魔王様に問いかけた。

 ニヤニヤしながら、答える魔王様。

 「し、仕方ないなぁ。飽きやすいから毎日違うもの出すようにしろ。

 私が一緒にいる時に出すんだぞ!

 …どれが好みかなぁ。」

 威厳は保てていないが、態度は偉そう。

 なんだかんだ仲は良さそう。幾つになっても、こういう仲良し夫婦でいたいよね。


 「いい匂いしてたから来てみたのだ!

 父上、一緒に食べてもいい?」

 「美味しいものには敏感なのは誰に似たのやら。沢山作ったようだから、食べていきなさい。」

 「…魔王様、なくなる前に自分の分は確保したほうがいいんじゃない?坊ちゃん際限無く食べるよね。」

 俺はこっそり耳打ちして、自分の分も確保に乗り出す。

 なんだかんだ賑やかなお昼になり、作ったものも全てなくなった。


 楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。

 食事が終わると、坊っちゃんはヌエラに連れられて部屋に戻った。勉強が捗っていないらしい。

 引き摺られながらも手を振る坊っちゃんにこちらも手を振り返し、そろそろ帰ることを魔王様に告げる。

 「泊まっていってもいいんだぞ?」

 「いえいえ、坊っちゃん達を送り届けるだけだったので、長居し過ぎました。

 また機会があればお邪魔しますよ。」

 「私も暇じゃないんでな、お前の顔見て帰るだけじゃ。」

 「お前は転移で帰れるだろう!拓海達に言ってるんだ。」

 「相変わらず可愛げないなお前。素直に寂しいって言っていいんじゃよ。」

 「誰がお前なんぞに言うか!帰れ帰れ。」

 明るい別れの挨拶をして、帰路についた。


 「魔王様良い方だったね。レジアスの言ったとおりだ。」

 「変わらず元気で良かった。

 あいつが居なくなったら、また統制が取れなくなるじゃろて。」

 「先代の魔王より統治出来てるって事?」

 「そうじゃな。力も頭も人望もある。

 先代よりも求心力があるんじゃろうな。

 何が求められるかは、魔族のことはわからんが。」

 「ベタ褒めだね。本人に言えばいいのに。」

 「そんなこと言えんわ。つけ上がるじゃろて。」

 「やっぱり仲が良いんですね、レジアスさんと魔王様。」

 「みさと、間違ってもアヤツの所には行くなよ。うちの料理人も待っておるじゃて。

 ちなみになぁ、アヤツの奥方も面倒…じゃなかった、一癖あるご婦人じゃ。丸め込まれんよう気をつけるんじゃよ。」

 「そういえば一度も会わなかったね。

 レジアス、どんな方なの?」

 「会わないと判らんじゃろな。

 人の良さそうな見た目に騙されんことじゃ。」

 「そこまで言われると逆に会ってみたくなるね。次回のお楽しみかな。」

 「関わらん事じゃ。事あるごとに引っ張り出されるぞ。」

 「あはは、怖い怖い。」

 会わなくて良かったかな?次に行く機会は早々ないだろうから、覚えているかも怪しいけど。

 魔族領内は安全運転で走行中。

 車の後部座席で一人になったレジアスは、横になって寛いでいる。

 「帰りはゆっくりでいいのかな?たっくん。」

 「そうだね。でも試したいことあってさ、ちょっと付き合ってよ。」

 「いいけど、何するの?」

 「車ごと転移できるかな〜と思って。」

 その瞬間、レジアスが飛びついてきた。

 「何⁉拓海よ、早く試すんじゃ!」

 「じゃあやってみるね。レジアスんちの庭で良いかな?」

 「いいぞぃ。ほれほれ早く!」

 「わかったからちゃんと座って。」

 渋々座ったレジアスを確認してから、転移魔法発動。

 あっさり景色が変わり、レジアスの家の庭についた。

 「ほぅほぅ、なるほどなるほど。これは面白い。

 次回のエルフ領に行く際は、これで一人も迷子で欠けることなく行けるな。

 とても良い実験じゃったぞ。」

 「成功して良かった。」

 「あっという間だったね!面白〜い!」

 丸一日での往復だったが、色々ありすぎて何日もかかった感じがする。取り敢えず任務完了なので、先ずは家で休もう。

 「じゃあレジアス、お疲れ様。付き合ってくれてありがとう。」

 「なぁに、私も久し振りに旧友に再会できて楽しかったぞぃ。

 また何があったら声かけてくれのぅ。」

 「レジアスさん、もうお昼過ぎてる感じだけど、お仕事大丈夫?」

 「みさとは優しいなぁ。

 朝のうちに報告済んどるから問題ないわい。

 今日はもう休むだけじゃ。二人共、気をつけて帰るんじゃよ…あぁ、転移する先間違えんようにな。」

 「ありがとう、レジアス。

 エルフ領行くときは声かけてね。」

 そう言うと、車ごと転移で家に帰る。

 「全く。いると何かしら起こすが、居なくなると寂しいのぅ。」


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