お試しにも程がある 138
「こんな感じでどうかな?
こっちでもいけるといいんだけど。」
見様見真似でやってみた。
知っているみさとは、ニコニコしながらパチパチと拍手。
クレスタも合わせて拍手していたが、その顔は驚きで一杯だった。
「凄いよ拓海さん、以前何かやってたんですか?
面白いし商品紹介もしっかりしてるし、何より興味を惹かれる。
これは、拓海さんやるしかないですよ。」
「いやいや、俺はやらないよ。
別の人にやってもらって。
コツはね、緩急つけてお客さんを引き込むこと、同じ人がやるとか同じ衣装でやるとか印象付けること、売り切れなくても撤収すること。
類似品出た時にこの人なら大丈夫と思ってもらったり、この人が勧める物なら大丈夫と思ってもらったり、今買わないと次いつになるか分からないと思わせる事。
その上で、値引き前の値段でクレスタの物品販売店に置けば、嘘じゃないしね。
実演販売で買えなかった人は、欲しかったら通常の値段で買うかもしれないし。
売れたら売れたで良いでしょう。
値段は適当に言ったけど、デックス達次第だね。」
クレスタはメモを取りつつ、うんうんと頷く。
「それはありですね。担当者に特定の衣装か。」
「そういえばさ、三輪型に乗ってきてそこから商品出すとかにすれば、乗り物の宣伝にもなるんじゃない?」
「成程ね。
ふむふむ、他にも調理器具作ってもらおうかな。
何かあるかな、みさとさん。」
売れる目処がついたのか、仕事モードのクレスタ。
「そうだなぁ。
金属でしょ、鍋・ボウル・カップは言ってあるし…あ、洗った物を置いておくと早く乾く洗い物かごとか、水を張ると振動で食器洗いが出来る盥とかどうかな?」
流石、主婦目線の発想。
「良いですね、それ。
出来るかはデックスさん達に聞いてみましょう。
ふふふ、もっと商品増やして、数も増やして貰わないとな。」
デックスとルクラは、フル稼働になりそうだ。
「人増やして貰わないと、色々間に合わなさそうだな。」
「増やし過ぎても、アイデア盗まれちゃうんじゃない?
暖簾分けならいいかもだけど。」
「その辺は、本人達に任せるしかないか。
クレスタ、お抱えの魔道士は直接転移魔法使えるんだっけ?」
「はい、行ったことあるところなら大丈夫。」
「今度デックスのとこ行く時に連れてく?」
「是非是非!
一応デックスさん達にも許可貰ってからにしますけどね。」
「そうだな、そうしようか。」
「ひと息つきましょう、お茶でも用意しますね。」
クレスタがメモを見ながら立ち上がって行った。
お茶とお茶菓子を持ってきたクレスタ。
テーブルに置いて、皆で席に着く。
思い出したように、みさとがリュックをガサゴソし始めた。
「この間仕入れたあんバターサンドも試してほしいな。
クレスタさんなら、この良さをわかってもらえるはず。」
掌サイズの丸いパンの切れ目から、あんことバターが見える。
「あ、入れ物はお気になさらず。
中身だけお試しくださいね。」
向こうで買ったものなので、透明なプラスチックのパックに入っている状態。
不思議そうに透明パックを眺めるクレスタに、みさとは声をかけた。
俺はクレスタの前にあるパックを開けておき、中身が取れるようにした。
「外身も気になりますが、じゃあ中身だけ頂きますね。」
クレスタは先ず半分に割って、中身を確認。
それから一口頬張ると、その味を確かめるようにもぐもぐする。
「これは美味しいですね。
さつま芋とは違った優しい甘さです。
でも、バターの塩気で甘さが引き立つ。
バターを調理以外で、このまま食べるとこんな感じなんですね。
スイートポテトにバター入れたのも、同じ原理ですか?」
「そんな感じかな。
甘い物にちょっと塩気があると、甘みが引き立って美味しいですよね。」
みさととクレスタで答え合わせ、お互いニコニコしている。
甘い物は人を幸せにするんだよね。
「食べ過ぎると、今日の本命に辿り着けないよ。
クレスタ、新メニュー教えてもらうんでしょ?」




