お試しにも程がある 136
「え、なんか変なこと言った?俺。」
クレスタもルクラも、ポカーンとした顔で俺を見ている。
ヤバいぞ、何かやっちゃったかな?
「いやいや拓海さん、お客さん待たせるとか無くない?
駄目でしょそれ。」
クレスタの言葉に、ルクラも頷く。
「販売する機会を逃したら、売れないだろうが。
なぁ、デックス。」
腕組みして考えていそうなデックスに、ルクラが振る。
「でもよぉ、拓海の話も有りだよな。
先ずは実績作ってからだが。
良いものは欲しい、でも数がないから順番、手に入れたら嬉しいと、こんな感じだろ?」
「そうだよデックス、その通りだ。
待たないと手に入らないものを、人より先に持ってたら優越感出るでしょ。」
俺とデックスで盛り上がる中、クレスタはまだ疑っている。
「じゃあさ、どうやって売り込むの?
売れないと実績作れないよ。」
「そこはさ、実演販売だよ。
皆が見てる前で、こんなに切れるんだよーって見せるの。」
「そんな上手くいくの?」
「やってみないとね。」
某通販番組みたいにできると面白いんだけど。
「それをするためには、販売用に数揃えないとだな。
ほれ、やるぞルクラ。」
「おぅ、今日もやるか。」
こっちにも鍛冶道具持ってきたらしい。
取り掛かり始める2人。
俺はクレスタに、伝え忘れないことを確認する。
「まだ伝えたいことあるかな?
もう邪魔しないように帰る?」
「今日は帰りましょう。
秘密が多い方が、お客さんは興味持つだろうしね。」
一応デックス・ルクラに声かけて(聞いているかはわからないが)、転移で帰る。
クレスタの家に到着。
「欲しかった包丁は手に入らなかったけど、もう1本くらいなら出せるよ。
内緒なのは変わらないけど。
買ったものじゃないから、必要数まで増やすのは駄目だと思う。」
「それはそうでしょう。
凄く良いものなので、大事に使いますよ。
もう1本下さい!」
クレスタは両手を出す。
俺はウエストポーチから包丁を取出すと、手の上ではなくテーブルに置いた。
「切れ味良いから、使う人にも気をつけるよう言ってね。」
「あれかな、お店毎に置いて試してもらう感じで実験かな?」
「そうですね。
みさとさんの言う通り、店には1本ずつにして、皆に噂を広めてもらおうかと。
噂は更に噂を呼びますからね。」
「口コミって奴だな、クレスタ。
普通のと使い比べ出来る、唯一の環境じゃないか。」
「使用者の声って、参考になるよね。
担当者達にも聞いとくね。
ところで拓海さん、実演販売は何か策があるんですか?」
「それな。
いくつか用意して、あっと驚いてもらおうかと思ってるよ。
トマト・南瓜・俎板…」
「こっちなら、大きい硬めのパンも良いんじゃない?
こんなに薄く切れました的な。」
「それ有りだな、みさと。
普通の包丁だと出来ないことだろうし。」
「切断面も見てほしいよね。
ほんと綺麗に切れるし。」
「ねぇ、そんな普通のことでいいの?
大丈夫?」
「上手くいくと面白いように売れるんだけどな。
1回やってみるか。」




