お試しにも程がある 115
「みさとさん、是非お力を貸して下さい!」
またみさと指名の依頼でクレスタの元に向かった際、開口一番こうだった。
しかも、今までより余裕がない。
「どうしたの、クレスタさん。
あ、ご指名ありがとうございます。
先ずはお話聞かせてもらえますか?」
内容を聞かないと、何も出来ないからな。
「実は、うちの地元の街おこしの祭りに来てくださった方から、ご自身の地元でもやりたいと言われました。
また地元の名産で盛り上げる、同じようなことをしたいと。
食材を聞いたんですが、聞いたこと無くて、どう料理して良いかわからないんですよ。」
成程、依頼されたのに企画書が出来ないと。
確かにそれは焦るね。
「クレスタ、何ていう食材なの?」
「確か、豆腐とかいう白くて柔らかくて味がしないやつ。」
「お豆腐なの?
やったぁ、嬉しいな。
こっちでも食べられると思わなかったよ。
やるやる!」
喜ぶみさとを見て、少し落ち着いたクレスタ。
「良かった。
早速ですが、みさとさんの知ってる食材と同じか見てもらえませんか?」
キッチンで見たものは、まさしく豆腐。
「持って来るの大変だったでしょ。」
みさとが聞くと、頷くクレスタ。
「そうなんですよ。
転移出来る魔道士をお抱えにしたのでまだ良いですが、売りに出すのは大変そうで。」
「ですよね。
パックとかないだろうから、ボウルに水張って持ち帰りとかかな。」
「今回は、木枠に入った物そのまま持ち帰りました。
木枠は、次回返却します。」
「それは大変だ。
味見してもいいですか?」
「勿論どうぞ。」
そう言うとクレスタはみさとにスプーンを渡す。
スプーンを受け取ったみさとは、はたと止まり、クレスタに声を掛ける。
「あの、一度リュックに入れてもいいですか?
色々作りたいから、増やしたいんですよ。」
「みさとさんの良いようにして下さい。
こちらはお願いする方なので。」
その回答を聞き、みさとは一度スプーンをテーブルに置く。
俺はみさとに、リュックを手渡す。
クレスタの見ている前で、リュックに豆腐をそのまま入れる。
入れてから取出し、形崩れしていないことも確認。
「不思議なリュックですね。
商売にも便利そう。」
「クレスタ、これは内緒ね。
レジアスとも、広めないように話をしてるんだ。」
「わかったよ、そこは秘密厳守で。」
やっとスプーンを手に取り、味見するみさと。
「うん、美味しい。
お豆の香りもして、甘みもある。」
もう一匙掬い、俺の口にも入れる。
「美味いね。
冷奴でも良いな。」
「だよね!
麻婆豆腐・肉豆腐・豆腐ステーキ・豆腐グラタン・豆腐の旨煮・揚げ出し豆腐・冷奴・炒り豆腐・湯豆腐…
あ、油揚げ作ってもいいよね!」
指折り嬉しそうに考えてるみさとを見て、クレスタは驚く。
「そんなに色々あるのか。
知らなかったなぁ。」
「この分だとさ、各地のご当地食材がまた店に並びそうだな。」
「そうしたいんですがね、拓海さん。
この豆腐って、日持ちしないんだよ。」
「確かに。
冷蔵庫に入れてもたかが知れてるもんな。」
「お料理食べてもらって、現地に足を運んでもらえばいいんじゃない?
最終的にそこも目的でしょ?」
みさとがあっけらかんと進言。
そうだった、地方活性化だ。
街おこしは、街も賑やかにならないと。
「現地じゃないと食べられないメニューあると良いのかな。
出来立てのお豆腐とか、豆腐御膳とか。
お豆腐作れるなら、湯葉も出来るでしょ!」




