お試しにも程がある 11
「そろそろクレスタのとこ行くか。」
「はーい!」
「ということで、お暇するね。」
「おぉそうか、気をつけてな。」
「みさとちゃん、また来てね〜。」
「俺はどうなの?」
「拓海は勝手に来るだろ。」
「たっくんと一緒に来るね。」
賑やかに別れて、車をウエストポーチにしまってから、クレスタのとこに向かって歩き出す。レジアスの家は街の中心地に近く、クレスタの家も比較的近くにある。皆いいとこに住んでるな。
そろそろ新メニュー提供の頃かとは思うが、本人が居ないと話にならないので、店ではなく家に行こうと思う。
久し振りに二人+シビックで喋りながらの散歩。あっという間に着いてしまった。
「こんにちは、クレスタ居るかな?」
「あぁ拓海、いらっしゃい。次のメニュー相談したかったんだよ、丁度良かった。」
「うん、そんな頃かと思ってた。」
「私作ってみるから、キッチン借りていい?食材もだけど。」
「勿論大歓迎だよ、みさと。お願いします。」
勝手知ったる様子で、キッチンに向かうみさと。材料は好きに使っていいと言うが、テストキッチンも兼ねているらしく様々な食材がある。
調味料も揃っているので、ここにないものは作るしかない。
早速みさとは、トマトを沢山取り出した。
細かくして煮詰めて、裏漉し。玉葱や大蒜、鷹の爪・砂糖・塩・酢等もそれぞれ仕込み。合わせて更に煮込んで、ケチャップの出来上がり。
炊きあがったご飯と鶏肉で、ケチャップライスを作る。オムライスとドリアを作る予定だ。同じホワイトソースで、チーズたっぷりのポテトグラタンも作る。
それに加え、卵焼きと味噌汁を作る。出汁を効かせて、塩むすびと一緒に出す。
拓海とクレスタの話が弾んでいるところに、出来上がった料理を運ぶ。どんな反応するかな。
「今回も美味しそうだね、みさと。食べてもいいかい?」
「どーぞ召し上がれ!」
「そういえばクレスタ、味噌は出来たんだっけ?」
「まだ言われてた期間は経ってないけど、そっちも後で味見に行くかい?」
「そうだね。出来てるなら、この味噌汁出せるなと思ってさ。」
「これは、味噌握りの味噌でスープ作ったものなのか。どれどれ…いいねぇ、具は少ないのに複雑な味がする。」
「前に昆布出汁教えたでしょ?違う出汁も入れたんだ。今度は鰹出汁だよ。同じ出汁を、卵焼きにも入れてあるよ。」
「何だこのふわふわ、卵だけに見えるけど凄く美味しい!」
「フフリ、それが出汁だよ。昆布見つかったからあの時はホントに嬉しかった。」
「もう捨てられないよあれ。でも、こんなにしっかりした味じゃないよね。」
「鰹出汁の相乗効果かな。やっば美味しいよね。」
「だから何なの、それ。また新しい食材?」
「たっくんバトンタッチ。」
「はいはい。巨人族の国に行って、魚釣りしてきたのさ。その中で鰹があったから、作ってみた。」
「そうなの⁉行ったことあるけど、魚は仕入れられなかったんだよね。」
「前に来た人って、クレスタだったのか。実はさ、その鰹節の工程を巨人族に教えて、作ってもらえることになってるんだ。」
「それは買えるってこと?買付け行けるの?」
「出来上がるまでに時間がかかるからすぐには無理だけど、買い手探しておくとは言っておいた。販売用に沢山作ってくれてるよ。連絡付くしね。」
「流石だね拓海くん、是非うちに売って欲しいと言っといて!」
「そう来ると思ってた。この味噌汁も卵焼きも、あの店で出せるんじゃないかな~とね。」
「出したいものが、調味料の出来次第かぁ。味噌も醤油も順調だから、鰹節も待てるよ。商品としても扱いやすいといいんだけど。」
「その鰹節っていうのが、もの凄い堅いんだ。削る道具も作れば、両方売れるんじゃないかな。」
「その道具も売れるのか、いいねぇ。じゃあこの料理は後で出すとして、直近の本命はこっちかな?」
「そうなの!オムライスとドリア、ポテトグラタンでーす。」
「やった、ポテトグラタン大好き!」
「このオムライスというのは、赤いご飯ですね。」
「トマトケチャップで味付けしてあるよ。ちょっと酸味もあるからね。」
「では早速。これもいいね、中に具も入ってるから食感も楽しめる。」
「卵の上からケチャップかホワイトソースかけても美味しいよ。ドリアは、ケチャップライスとホワイトソースの組み合わせで、チーズのせて焼きました。」
「このソースは何ともクリーミーですね。酸味のあるご飯とピッタリだ。チーズも丁度いい。」
「ポテトグラタン最高!マカロニ代わりのパスタもいいよ。」
「ホワイトソースとは、色んな使い方あるんですね。みさと、素晴らしい!」
「ありがとう。作り方は簡単だけど、どれを出す?」
「全部出しましょう。カレーでドリアも良さそうですね。中の具は、研究しがいがありそうだ。」
「ミートソースも合うしね。」
「今回はこの3品で行きましょう。あまり出しすぎると、スタッフが大変だろうし。そのミートソースは次の機会に教えてもらうよ。みさと、調理工程の書出しを以前のようにお願いします。私は調理責任者連れて来るので、席外しますね。」
「味見用に少しずつ残しておきますね。」
もぐもぐしながら、クレスタは出ていった。
ケチャップ含めメニューの伝授も終わり、家に帰ることになった。久し振りにゆっくりできる。
「みさとも疲れたでしょう。外で食べて帰る?甘いものでもいいし。」
「たっくん鍋だよ鍋!早く帰って食べよう。甘いものはプリンかチーズケーキでいいじゃん。気が向いたらクッキーいっぱい作っとくよ。」
「魚仕入れたしな、じゃあそうしよう。」
「おぅ!」
車でサクッと帰り、みさとは手を洗ってから料理に取り掛る。土鍋はないが、ちょっと深めの鍋に次々材料を入れていく。今日は味噌ベースの選択。
昆布も鰹も使えるので、更にリクエストがしやすくなった。ジャンクにカツ丼・お好み焼・魚もあるし天汁で天ぷらも食べたい。ラーメンもできるかなぁ。みさとの料理は美味しいから、どれも楽しみだ。
そんなことを考えてるうちに、とても良い香りがしてきた。
「何から運べばいい?みさと。」
「ありがと。お箸と器お願いね。鍋敷あったっけ?」
「何か用意しとくよ。ご飯も食べたいけど、おじやは明日かなぁ。」
「いいね、朝ごはんにゆっくり食べようか。白米はお茶碗で出すよ。」
「よし、具は全部食べるぞ!」
「お腹壊さないでねぇ。」
「ぼくもいっぱい食べる!」
「どんどん食べてね、シビック。」
皆でワイワイ食べながら、ゆったりとした夜を過ごした。
翌朝、おじやと浅漬・卵焼きのご飯を済ませると、近くを散歩に行った。久し振りに歩いたが、少し風景が変わって見えた。だが気の所為ではなく、カムリ・ターセル・ラッシュの農場がそれぞれ広くなっている。
こっそりカムリの農場を覗くと、丁度本人が出てきた。
「拓海、みさと、よく来たねぇ。」
「カムリさん、お邪魔してます。覗きに来ただけだけなんだけどね。この辺の農場が、皆大きくなってるからどうしたんだろうと思ってさ。」
「いやー今までの広さじゃ足りなくてねぇ、増設したのさ。うちはチーズも大好評で、人も雇ってるくらいさね。」
「街中でチーズ大人気だもんね。よく見かけるよ。」
「あのクレスタさんからも受注してるからね、毎日仕込んでも足りないくらいさ。」
「やるなぁ。ターセルさんとラッシュさんとこもそんな感じなの?」
「そうなんだよ。特にターセルの所は、鶏自体も売れてて、卵と食べる鶏用にそれぞれ頑張ってるみたいよ。皆忙しくなって、お茶会も少なくなったしね。」
「嬉しい悲鳴かな。儲かってるなら何よりだね。」
「二人のおかげさね。こんなに売れるとは思ってもみなかったからさぁ。」
「チーズってさ、甘いものにもなるから、更に売れるかもね。」
「あのしょっぱいのが甘くなるのかい?凄いねぇ。また何か新しいものあったら、教えて頂戴ね。」
「了解です。忙しいとこお邪魔しました。」
ぶらぶら散歩を続けて、静かな森の中に。ちょっとした湖と花々で賑わう所で一休み。
「ちょっと居ない間に、だいぶ変わったねぇ。」
「そうだね。ちょっとと言っても、4〜5ヶ月位は経ってるけどね。」
「そっか、こっちに来てからだいぶ経つよね。」
「もう半年じゃきかないからね。寂しい?」
「ううん、たっくんといるから大丈夫!楽しいよ。」
「ぼくもいるよ!」
「そうだねシビック、ありがと。時間経つのが早いなーって思ってたんだ。」
「確かに、色々あったもんね。これからも色々するよ。」
「またギルドの依頼確認しに行かないとかな。中々ランク高い人空いてなさそうだったし。」
「行ってみるか。そうだ、思い出したから、転移魔法試していいかな。今まで行った場所なら出来るんじゃないかと思うけど。
でも、いきなりギルドに転移して現れたら、びっくりされるよね…」
「そうだなぁ…ボンゴさんのとこは?買い手付いたって言ってあげた方がいいんじゃない?」
「そうだな、そうするか。進捗確認も必要だろうしね。」
みさとと手をつなぎ、シビックは肩の上。魔法を試してみると、アッサリとボンゴの家の前まで来ていた。
「やっぱりたっくんは何でもありだね。もう驚かないかな。」
「迷子が出なくてよかった。最初はドキドキだよ。」
早速声をかけると、ボンゴは出てきてくれた。
「おぅ、どうした拓海。何かあったか?」
「ちょっと転移魔法を試しに来たんだ。それと、鰹節の買い手もついた報告もね。」
「それは何よりだ。そうだ、作業場見てくかい?」
「是非!」
そう言うとボンゴは、家の近くの小屋に向かった。2つあって、1つは解体・茹でる等の工程をする場所。もう1つは燻製小屋だ。
しっかり理解してくれたようで、今のところ問題ないように見える。
「流石だねボンゴ、いい感じ。」
「取敢えず言われた期間は守って作業するさ。出来上がりがまだわからんからな。」
「その頃呼んでよ、また見に来るから。転移魔法出来るようになったから、すぐ来られるよ。」
「そうか、ちょくちょく呼んでいいって事だな。はっはっはっ。」
「呼ばれなくても来るけど、また宜しくね。今度は、買い手も連れてくるよ。」
「そっちは頼んだ。話のわかるやつならいいんだが。」
「以前に来たけど、魚の買付け出来なかったって言ってたよ。会ったことあるかもね。」
「そうか、じゃあ楽しみにしてるよ。もうしばらく時間かかるから、そいつにもよろしく言ってくれ。」
「わかったよ。今度は水晶で連絡してから来るね。」
その後、来たとき同様に魔法で帰還した。
これで転移魔法は使えるな。日本への帰還は試しても出来なかったことは、内緒にしておこう。
他の魔道士も使えるようになればいいんだけど。転移用の魔法陣とかどうかな。設置してあれば魔力を注ぐだけで使えるとか出来ないかな。色んなとこに設置したら、すごく便利だと思う。馬車も一緒に転移出来るかな。
いろいろ試したいけど、先ずはレジアスに相談かな。
便利になると車で出かけられなくなる?いやいや、俺が拘束されなくて済むから、ドライブの時間が増える予定だ。レジアスは勝手に行けるし、クレスタも魔道士を雇えばいいだけだし。
馬車の加速も教えるって言ってたから、近場も遠方も移動が楽になるぞ。
そろそろギルドに顔を出すか。何かあるかな。
ギルドに行くと思った通り、またまた泣きつかれた。今度はなんだ?前回からまだ誰も受けていない案件とのこと、早急に対応を依頼された。受けるとはまだ言ってないけど、まぁいいか。
内容は、エルフの国への護衛。事前調査のために行くので、辿り着けばいいとのこと。
またエルフの国か。前回は近くまでしか行かなかったから、初入国だな。ちょっと楽しみになってきた。
早速受領し、依頼者の元へ。待合せ場所はギルドから、魔法協会と言われた。
依頼を受けた旨を受付で伝えると、出てきたのはアイシス。
「ご無沙汰してます、アイシスさん。もしかして、あなたがエルフの国に行くんですか?」
「そうだ、よろしく頼む。魔法のトラップ解除はできると思うが、攻撃系はあまり得意ではないんだ。道は私がわかるから、心配するな。」
「…因みに馬車ですよね?私が馭者やりますよ。」
「おぉ、それは助かるな。では、出発前にレジアス様に挨拶してくるか。」
嬉しそうにいそいそと階段に向かうが、そっちじゃないよ。
「一緒に行きましょうか。確かあちらの階段でしたよね。」
「そうか、一緒に行くか。」
先に歩きながら、レジアスと念話する。
(ねぇレジアス、本当にアイシスさんエルフの国に行くの?人選間違ってない?)
(拓海が護衛につくと聞いたぞ。エルフの国に行くまでのトラップ確認に誰か派遣しないとと話していたら、立候補したのじゃ。)
(止める人いなかったの?)
(そうなんじゃよ。しかも、魔法解析は得意じゃから、私以外は誰も文句を言えない。私が行くと言ったら、猛反対されたんじゃ。諦めてお守りしてやってくれ。)
(はぁ。できる限り顔を立てるようにするよ。今そっちに挨拶に向かってるからね。)
(誘導宜しくな。)
そんな会話をしながら、レジアスの部屋の前まで来た。アイシスはドアの前で呼吸を整えてから、ノックした。レジアスから入るよう返答があると、直様ドアを開けた。
「レジアス様、お忙しいところ失礼します。本日これより、エルフの国へ事前調査に向かいます。暫く留守にしますが、何卒宜しくお願い致します。」
言い終えると、90度以上かと思われるくらい、深い深いお辞儀をした。
「おぉアイシス、宜しく頼むの。護衛が見つかったと聞いたが、気をつけるんじゃぞ。」
「はい。早く戻るよう努力しますが、その間レジアス様もお体にお気をつけください。」
一歩下がった所で、苦笑いする俺とみさと。シビックは暇そうに欠伸してる。
「早い方がいいじゃろ、そろそろ行くといい。」
「はいレジアス様、行ってまいります。」
やっとレジアスの部屋を出て、外に用意してある馬車に乗る。俺とみさとは馭者台、アイシスは中にいる。人のいない場所では魔法で早めの移動を繰返し、時間短縮に努める。
明るいうちに休憩にして、夜の過ごし方を相談。
「宿屋に泊まる時間はない。適度な場所で野宿する。結界魔法で何とかなるだろう。」
「わかりました。なるべく進むようにしますから、アイシスさんは寝てて大丈夫ですよ。」
「いいのか?こちらは助かるが。結界魔法はかけておくので、よろしく頼む。」
「了解です。」
「ところで拓海、お前は魔法が上手いな。加速も浮遊も途切れることなく、しっかりかかっている。加速を強めても、振動が少ない。」
「そこまでわかるんですか、流石だなぁ。俺はよくわかってないですけどね。」
「無意識でも使い熟せるとは、レジアス様の教え方が良かったんだろう。素晴らしい、レジアス様!」
「そ、そうかもしれないですね。」
そういえば、そんな設定にしてあったな。忘れてた。はじめましてって挨拶しちゃったのに、レジアスの話は鵜呑みにするんだ。
そんなに凄い人なのか?美味しい物好きな爺さんにしか見えないけど。
夢は壊さないでおこう。
ご飯を食べて、暗くなってからの移動。周りからは見えないのをいいことに、速度アップ。中は大丈夫かな?と心配してみたが、アイシスはぐっすり寝ていた。良かった。
みさとはアイシスに毛布も何枚か渡していたらしく、枕と毛布と不足はなさそうだ。
ナビに頼んで、最短だけど人が少ない道を頼んだら、飛べとのこと。馬いますけど?車みたいに出来るかな。取敢えず魔法はかけてみた。
馬はただ走ってるだけに見えるが、飛んでる。ペガサスでもない普通の馬なのに、空を駆ける。茶色い馬で良かった。
余分な魔法をかけて目を覚まされても面倒なので、不可視化はせず、できる範囲で急ぐことにした。
飛ぶと馬でも早いらしく、かなりの距離を稼げた。馬も俺達も休息が必要なので、次の街に近い所で睡眠を取る。夜が明けて朝日が昇りだすと、アイシスは目を覚ました。
地図を出しては見たが、何処にいるかはさっぱりわからない。街への入口が見えるので、次の街まで来たと想定。
「この辺かな。意外と早いな。」
「おはようございます、アイシスさん。」
「おぉ、おはようみさと。大分進んだようだな。」
「みたいですね。私はどの辺かわからないですけど。」
「地図で見ているが、次の街に入る手前かな。この辺りじゃないか。」
「そーなんですね。」
「おはようみさと、アイシスさん。」
「拓海、おはよう。随分進んだようだが、どの辺りかな?」
二人が見ていた地図を覗くと、逆さまだった。どうやって見てるんだろう。
ナビの出してる脳内地図と照らし合わせて、今の位置を指し示した。
「この辺りですね。」
「思ったより進んでいるな。寝てないんじゃないか、拓海。」
「大丈夫、寝てますよ。朝ご飯食べたら出発しましょうか。」
「そうだな。」
みさとは早速朝御飯に軽めのサンドイッチをチョイス、ドリンクも出してくれた。
「その何でも入るリュックは、レジアス様の袖と一緒だな。」
「はい、たっくんが作ってくれましたよ。とっても便利ですよ!」
「そうか、私もレジアス様に作って貰えば…いや、魔法を教わる方が長く一緒にいられるな、うん。でも、すぐ修得すると短くなるし、かと言って出来の悪いやつと思われるのも嫌だし。」
百面相しながら呟くアイシス。どう長く一緒に居られる口実を作るか、明晰な頭脳で考えているらしい。ストーカーかと言いたくなる。
レジアスが許容できる範囲内だろうけど。
朝御飯を食べ終わり、早速出発。今日も頑張ってくれ、馬。
本来であれば片道40日以上かかる旅程だが、1日で三分の一位は進んだようだ。馬は飛んでびっくりした様子なかったから、また夜に頑張ってもらうとしよう。昼間は、加速と浮遊で乗り切る。それだけでもだいぶ早い。
何日かして の端まで到着、後はエルフの国にすれば任務完了のところまで来た。アイシスは周りに魔法を設置されていないか、探知に余念がない。
いくつか設置を確認、その種類と対応方法を書き記す。俺も、この位置でこの魔法が設置ありと、アイシスの書いた番号に合わせて地図に書き込む。ナビとレジストした魔法を摺合せ、内容が正確なことも確かめる。役割分担出来て良かった。
広い草原の端から端まで、魔法探索の為に何度も往復する。細かい魔法が、いたる所に確認できた。流石アイシス、魔法解析は本当に凄い。
かなり国境近くまでやって来たはず。どうやら国全体を、魔法で見えなくさせてるっぽい。
不可視化なのか認識阻害だけなのかはわからない。脳内地図ではエルフの国に入る一歩手前。手をのばすと、空間が歪んだように見える。大股で一歩進むと、景色が変わった。
これがエルフの国かぁ…と感慨深く浸る間もなく、向こうからエルフがかけてきた。
「お前は何者だ?誰の許可で入った!」
「え、許可必要なの?魔道士としての証明書ならあるけど。」
「普通は結界あるから、許可されたものでないと入れないはずだ。迷ってもここには入れないようになっている。」
「成程、入れたね。一回出てもいい?」
「いいけど、勝手に入ってくるなよ?」
「そもそも誰に許可もらうのさ?」
「え⁉そう言えって言われてたけど…知らないなぁ。」
「君は侵入者を追払う役目なの?」
「そうだ。許可あるものなら、そいつと同伴で入ってくるから止める必要もない。」
「独りで入ってきたから、止められたのか。君、外に出て僕達と一緒に入り直してくれない?」
「む、してはいけないとは言われてないな。いいよ。」
「ありがとう!じゃあ早速外に出よう。」
対応してくれたエルフの手を引いて、一緒にエリアの外に出る。
「おい拓海、勝手に居なくなるとは心配するじゃないか!」
「おかえりたっくん。その人は?」
「あぁ、俺も名前知らないや。自己紹介しようか。俺拓海、奥さんのみさと、一緒に来てるアイシスだ。君の名前は?」
「僕はコルトだよ。はじめまして。」
「彼はね、エルフが一緒に入らないと追い返すと教えてくれて、俺達と入り直してくれることになった。ありがとな。」
「実はさ、エルフ以外に会うの初めてなんだ、僕。」
「おぉ、異人第一号か。やったね。」
「拓海、勝手に話が進んているようだが、通訳してくれないか。」
「そうか、アイシスでもわからないか。彼はね、エルフ以外に会うの初めてなんだって。何か聞きたいことある?」
「次回来た時は、誰と入ったらいいんだ?」
「確かに!それ大事だね。」
そのまま伝えると、意外な答えが帰ってきた。序に、言葉が聞き取れるようになる魔法を、アイシスに試させてもらった。
「精霊さんが分かるから大丈夫だよ。一度来た人は覚えてるらしい。」
「精霊さん?今いるの?」
「向こうに行ったら紹介するよ。僕は魔法は得意じゃないけど、精霊さんとは仲良しだからね。」
「エルフって、皆魔法使えるんじゃないのか?」
「それは、さ…得意不得意ってあるじゃん?全く使えないわけじゃなくて、あまり得意ではないだけだよ。僕は、精霊さんとの交信の方が上手なの!」
「そうなんだ、得意なものがあるっていいよね。」
「そうだよね。だから国境の見回りに選ばれたわけだけど。」
「得意を活かせる仕事って、素敵だよね。私は何かあるかなぁ。」
「みさとは料理もできるし、人当たりもいいし、イイトコだらけじゃん。
俺は魔法しかないから、厄介事ばかりかもな。」
「全部解決しちゃうって、カッコイイんじゃない?」
「それはどーも。今回も無事に任務完了出来そうだしな。」
「そーなんだ。そろそろ行く?ていうか、何しに行きたいの?」
「以前魔法を教わりたいと申出たところ、何時でもどうぞと言われたので、魔法協会と魔法庁共同で研修に向かうとかろだったんだ。
ただ、辿り着けず困っていたので、下見に来たというわけだ。」
「それってさぁ、エルフ流の断り文句だね。来れるもんなら来てみろ的な。」
「そうなのか!意地でも行ってやる。魔法技術は凄いと聞いていたが、案外意地の悪い種族なのか。」
「そーいう人も居るよね。この国全体を大きな結界で覆っているけど、そんなことできるくらいだから頭おかしくても不思議じゃない。」
「いやいや、自分達の種族だろ。知ってる人なのか?」
「んー、今の族長は良い人なんだけどさ、周りにいる補佐達がねぇ。確かに知合いだらけだけど、底意地の悪い奴もチラホラいるからなぁ。あんまり近寄らない方がいいんじゃない?」
「レジアス様の向学心を満足させるためにも、必ず行かねばならん!下見とは言われたが、顔合わせするべきかな。外交としては、面子が弱いか。」
「行ってみてもいいけど、お偉いさんにすぐ会えるの?」
「大丈夫だと思うよ。族長は本当に、ほんっとうに良い人なんです。びっくりしますよ。」
「色々教えてくれる も、いい人だと思うよ。じゃあ、お願いしようかな。」
「はーい。先ずは、中に入りましょう。」
コルトを先頭に、拓海・アイシス・みさとの順に入る。入った先では、ふわふわと可愛らしいものが漂っている。これが精霊さんかな?
「来てくれてありがとう、ミラージュ。紹介するね、僕の仲良しの精霊さん、ミラージュだよ。こっちは拓海・アイシス・みさとだよ。仲良くしようね。」
「かわいい~!はじめましてみさとです、宜しくね。」
「たしかにかわいいな。私はアイシスだ、宜しくな。」
「拓海です、宜しくね。」
3人の周りをくるくる飛び回り、コルトの肩に乗った。
「じゃあ、行こっか。」
4人を囲む円が足元に見えたかと思ったら、既に転移魔法が発動されていた。
「ねぇ、魔法使えないって言ってなかった?」
「使えないんじゃなくて、得意じゃないだけ。こんな初歩の魔法なら、子供でもできるよ。」
「そうなのか!教わりに来たかいがあったぞ。改めて本隊を送るから、その時はじっくり教えてくれ。」
「そういうことは族長に言ってよ。もうすぐだよ。」
話ながら歩いていると、ある一軒の家に着いた。
「族長、お客さんだよ。いる?」
「おぉコルト、よく来たな。お客さんとな?」
「隣の国から来たみたいよ。魔法教わりたいって。」
「こんなところまでわざわざ?お客さんは大事にしないとな。私は族長のディグニティだ。」
「お初にお目にかかります、デュアリスの魔法協会から来ましたアイシスです。族長殿、突然の訪問にもかかわらず、ご対応頂き有難うございます。
こちらは連れの拓海とみさとです。
今回はご挨拶だけですが、次回は研修生も連れてまいりますので、何卒宜しくお願いします。」
「これはご丁寧に。お待ちしてますよ。教える方も準備しておくので、その際は事前に連絡貰えると有難いな。」
「そうさせていただきます。今回はなんの連絡もせずお伺いして、申し訳ありませんでした。」
「それは良いよ。中々辿り着けなかっただろうしね。誰に連れてきて貰ったんだい?」
「ここに居るコルトに連れてきて貰いました。」
「コルト、知り合いなのか。」
「違うよ族長、拓海が勝手に入ってきたから声かけて、話をしているうちに一緒に来ることになっただけだよ。あ、僕第一村人だったんだ。改めてよく来たねぇ。」
「コルト、今更?でも、彼が色々教えてくれて、親切にここまで連れてきてくれたことは事実です。本当に感謝してます。」
「コルトは優しいからな、よくやった。」
「えへへ。悪い人には見えなかっただけだよ。族長もそう思うでしょ?」
「そうだな、自力で入ってきたのであれば魔法にもかなりの見識があるということだ。興味は持ったね。」
「ありがとうございます。」
護衛でついてきただけなんだけどね。苦笑いするしかない。
「では今回はご挨拶ということで、この辺でお暇します。本隊が来た際にも、何卒宜しくお願いします。族長殿、本日はありがとうございました。」
深々とお辞儀をするアイシス、一緒に俺達もお辞儀をする。
族長は常ににこやかに、俺たちを送り出してくれた。
エルフ同士は念話ができるそう。他種族には、水晶で遠方との会話しているそう。連絡用の水晶を渡してくれた。
「水晶って便利ですね。これも連絡用に作ったものなんですけど。」
襟元の小さな水晶を見せた。
「その加工はいいね。そちらの国の技術かい?」
「レジアスと開発しました。」
「魔法庁長官です!我が国の魔法における頂点の方です。」
「流石だなぁ。次に来たときでもいいから、是非話を聞きたいねぇ。」
「ご伝言承りました。
次回訪問の際は、私からこの水晶で連絡するということで宜しいでしょうか。」
「えぇ。アイシスさん、宜しくね。」
「ありがとうございます。
迅速に本隊を送り出す所存ですが、旅程がかなりかかります。次のご訪問まで日数が開いてしまうこと、ご容赦頂けますでしょうか。」
「それは構わないよ。では、転移の魔法も教えるとしようか。アイシスさんは使えるのかな?拓海さんは使えるみたいだが。」
「そんなことまでわかるんですか、まいったなぁ。」
「君は油断ならない感じがするからね。底が見えないよ。」
「御冗談を。ただの護衛で来ただけですよ。」
「まぁいいだろう。アイシスさん、あなたなら直ぐにできると思うよ。」
「ありがとうございます!宜しくお願いいたします。」
「じゃあ僕が教えるよ。こっち来て。」
アイシスとコルトは、場所を移動して練習することになった。
「アイシスさん、目がキラキラしてたね。」
「新しい魔法は、嬉しいんじゃないかな。上にいる人は、学習する機会が少なくなるだろうしね。」
「次の研修には、拓海さんも来るのかい?ゆっくり話が出来るといいのがだ。」
「ご希望であれば、また伺いますよ。単独で来てもいいし。俺は自由な冒険者なので。」
「その実力で冒険者か、恐ろしいな。そちらの国はそんなにレベルが高いのか。」
「俺の魔法は特別です。研修に来たいくらいだから、平均値としてはそんなに高くないのではないかと。転移が出来ることも隠してましたし。」
「ははは、それは悪いことをしたね。
さっきの水晶は、作ったの君だろ?面白いことするね。」
「同じものを大きめにして、巨人族の知り合いに渡してありますよ。相手が魔法使えなくても、魔力を入れておくことで通話出来るようにしてあります。」
「ほうほう、成程ね。偶に魔力補給が必要になると。」
「定期的に会いに行く予定なので、いいかなと思ってます。こちらの操作によって、映像も見られるようにしてありますよ。」
「やるなぁ。双方魔法が使える前提でしか考えたことなかったよ。益々面白い。
交換留学させるよりは、君に来てもらった方が、都合良さそうだね。」
「その方が助かります。周りの面子もあるでしょうし。」
「君は念話も使えるんだろう?用がある時は直接声かけていいかな。」
「勿論どうぞ。都合のつく限り伺いますよ。」
向こうから、やったーと言う声が聞こえてきた。アイシスが魔法修得出来たようだ。
「そろそろ時間かな。」
「早かったようだ。拓海さん達も、また来てくれると嬉しい。」
「拓海でいいですよ、族長。また伺いますので、追い出さないで下さいね。」
「コルトも精霊達も、君達のことは覚えただろう。使えないやつは忘れるように言ってあるし。君達ならすぐ連れてくるよう言っておくよ。」
「笑えないけど理解できる。ある意味結界で選別出来てると思いますけど。」
「慢心はしないよう心掛けている。」
「流石ですね。」
「いやいや、民を守るために必死なだけだよ。今回はいい出会いで良かった。」
「こちらこそ。」
アイシスとコルトがこちらに向かってきた。
「待たせたな拓海、みさと。馬車も含めて、インフィニティにひとっ飛びだ!」
「魔法協会ですかね。」
「そうだな。屋上ならスペースもあるし、人にぶつかることもないだろう。
大変お世話になりました、また伺いますので宜しくお願いします。」
「あぁ、気をつけてな。」
その場で、馬車まで転移した。
「ここは何処だ!馬車が居ないぞ。」
転移も迷子なのかな。行ったことあるとこにしか行けないと思っていたが。異国なので何処だかわからないが、水辺が見えるので希望の場所ではないことはわかる。
「俺が試してみましょうか。大きな国だから、位置確定が難しいですよね。」
適当なことを言いながら、馬車目指して転移する。今度は馬車がいた。別の精霊さんが馬の面倒見ててくれたようで、穏やかな様子。無事に辿り着いて良かった。
精霊さんにお礼を言ってから、地図でインフィニティまでの位置を確認する。
「結構距離ありますが、アイシスさん転移やってみます?遠距離は慣れてるから、良かったら俺やりますけど。」
「私が転移魔法を使おう。こういうのは慣れも必要だからな、今のうちに練習といこう。」
「あ、はい。宜しくお願いしますね。」
レジアスの所までと設定すればいいんじゃないかな、地図上じゃなくて。
斯くして、全くわからないところに飛ばされるはめになった。
「ここは何処だ〜!」