お試しにも程がある 108
「何が出るかな…」
みさとは間違いなく慎重に、扉を開けた。
そこには小さな手鏡があった。
みさとが拾い上げ、俺とシビックに見せる。
すると、景色が変わった。
「よく来ました、異世界の者達よ。」
柔らかな光の中、優しそうな声が聞こえた。
「オデッセイ様!」
シビックが声を上げ、飛んで行く。
成程、この方がシビックの飼い主か。
「この子がお世話になりました。
気に入っているようだから、今後もお願いできるかしら。」
シビックを撫でながら、俺達に声をかける。
「初めまして、オデッセイ様。
俺は拓海、妻のみさとです。
シビックとは、ずっと一緒にいたいです。
お任せ頂けますか?」
「ふふ、その子は此処より貴方達と一緒の方が楽しそうですよ。
是非お願いしますね。」
「はい、ありがとうございます。」
「贈り物は受け取ってもらえたかしら?」
「杖と剣とお菓子ですよね。
有難く頂戴しました。
お菓子は、シビックが凄く喜んでましたよ。」
「あら良かった。
楽しんでもらえると嬉しいわ。」
「直ぐ食べ終わらないようにリュックで増やしてますが、宜しいですか?」
念の為、みさとがお伺いをたてる。
「勿論です。
この子のためにしてくれて、ありがとう。
そうそう、先に送った装飾品だけど、あれを介して私と連絡取れるようになってます。
何かあったら、遠慮なく声をかけて下さい。」
「えっ、そんなこと出来るんですか?
それなら、シビックにも身に着けさせた方が良いですよね。」
俺は言ってみたものの、どうやって身に付けさせるかは想像して無かった。
「お気遣いありがとう。
この子は、何時でも私に通話できるから大丈夫です。
貴方達2人が用がある際に、使って下さい。」
可愛がられているな、シビック。
そうなると、なんで出て行ったんだろう。
ここで聞くべきではないかな。
「では、元の場所に戻しますね。」
あ、忘れてた!
「オデッセイ様、俺達を元の世界に戻れるようにしてくれて、ありがとうございました。
シビックにも、向こうの世界を見せてきました。
こちらの世界も好きなので、まだ過ごしたいんですけど、良いですか?」
「勿論です。
貴方達は、好きなところで生きる権利があります。
お好きになさい。」
「「ありがとうございます。」」
俺達に微笑み返してくれたオデッセイは、シビックに向き直す。
「貴方にも同じことを言いますよ、シビック。
好きなところで、好きなように生きなさい。
何時でも見守ってますし、何時帰って来ても良いんですよ。」
「オデッセイ様…ありがとう。
僕、行くね。」
シビックはオデッセイの元を離れ、俺達の方に飛んで来る。
3人揃ったところで、光に包まれた。
元のダンジョンに戻ってきた。
入っていた壁と同色の扉は、無くなっていた。
改めて、俺とみさとでシビックを撫で撫でする。
「さぁ、中央の扉に向かおうか。」




