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ちょっとそこの異世界まで  作者: 三毛猫


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お試しにも程がある 10

「おはようみさと、よく寝たよ。」

「たっくんおはよう。ホントに皆お腹空いてるのかなぁ。作るのは簡単だからいいけど。」

「大丈夫じゃない?余ったらスタッフがおいしくいただきましたになるよ。」

「そうだね、ベーコンエッグ以外も考えとこ。」

そんな会話をしながら、リビングに移動。レジアスは既に起きてた。

「おはよう二人共。良く眠れたかの。」

「うん、お陰様でぐっすり眠れたよ。寝坊したかな?」

「サイノスよりは早いから気にするな。あやつは自由気まま過ぎるんじゃ。お茶でもどうじゃ。」

「頂きます。」

レジアスは、執事に俺達のお茶を用意するよう言ってくれた。

「あの後、話は出来たの?」

「流石に寝たわい。朝ごはん食べてからゆっくりね〜と言われたんじゃ。まぁ、兄貴に予定はないだろうから、気が向いた時しか動かんのじゃ。」

「200年以上放浪してたんじゃ、しょうがないんじゃないの?凄いよね。」

「そんなことないよ。偶に隣の国に行ったりして暇潰しもできてたしね。ご飯は?」

「おはようサイノス。皆揃ってから作る話してたとこだよ。」

「出来立て良いよね。僕にもお茶頂戴。」

この家の住人かのように、メイドに声をかける。良く出来たメイドは、お茶の用意のため出ていった。暫くして、オーパが顔を出した。

「皆様、お早う御座います。朝食の準備は如何致しましょうか。」

「全員揃ったし、そろそろ頼むの。」

「私も手伝ってくる。オーパさん、宜しくね。」

「こちらこそ宜しくお願い致します、みさと様。」

仲良く出ていった二人。入れ違いで、サイノスのお茶が来た。

「みさとはどこで料理覚えたの?元々料理人なの?」

「いやいや、毎日俺達のために料理はしてくれてたけど、仕事じゃないよ。家庭料理かな。」

「それでも大したもんじゃ。全部美味いからのぅ。」

「そうそう、朝ごはんも楽しみだ。」

「向こうの世界の食材が揃ってないから、作れるものからって感じだけどね。足りないものは作れるか試行錯誤しているよ。今は、出汁になるものが欲しいって言ってたよ。」

「出汁とな?」

「魚とか昆布とか椎茸とか。色んな物から取れるらしい。こっちで魚見ないよね。」

「魚かぁ、確かにね。巨人族の国では食べてるみたいよ。」

「そうなの⁉行ってみよう。ありがとうサイノス。」

「行くのも大変だけどね。巨人族が食べてる魚だから、僕達には大きいんじゃないのかな。」

「魚の種類にもよるかな。楽しみになってきた。」

「おぬしは物好きじゃの。言葉はわかるのか。距離もかなり遠いぞ。」

「なんとかなるでしょ。サイノスは行ったことあるの?」

「あるよ。というか、遠くにいたのが見えただけだけどね。」

「方向だけでも教えてよ。地図で教えてくれると助かる。」

「一緒に行こうか?楽しそうだし。」

「いいのか?地理的にわかる人来てくれるのは心強い。」

「移動はまたアレでしょ?楽しかったよ。」

「それはそれは。アレならそんなにかからないとは思うんだけどね。」

「拓海は念話使えるからいいが、兄貴にはこれを渡しておこうかの。試作品だが、私でも拓海にでも話できるようにしてある。」

小さな丸い水晶が、ネクタイピンの様に付けられるようになっている。襟元に付けると会話もできるし、受信側によっては映像も取れるようにしてある。

「僕魔法使えないの知ってるでしょ?大丈夫?」

「それを補うために、私の魔力も少し入れてある。誰と話したいかを頭に浮かべてから試してくれ。」

「みさとは念話使えないからね。」

「そっか、むさい男ばっかか。使うかなぁ。」

「今でも試していいぞい。」

「やだよ。魔法協会とかで、かわいい女の子いないの?」

「兄貴、どうにかならんのか、それ。」

「仕事の話でも、可愛い子や美人相手の方がいいに決まってるだろ!ギルドの受付だって女の子可愛いじゃん。」

「後で困っても知らんからな。何でも独りで出来るから頼られることもないじゃろうが。報告や連絡ぐらいしてほしいもんじゃ!」

「やる時あったらね。それまでに魔法使える可愛い子用意しといてよ。」

「…ご飯できましたけど、後にします?」

「みさと、いいタイミング!待ってたよ。ご飯にしよう。」

強制的に切上げさせた。困ってから試すでもでいいから、兄弟喧嘩しないでよ。

ベーコンエッグ丼と醤油も、二人共気に入ってくれた様子。みさとにも、巨人族のところで魚が取れる話をする。

「お魚久し振りだよね~。出汁が取りたいのが1番だけど、食べても美味しいし。」

「刺身いいな。醤油もあるし。山葵は…その時考えよう。」

「どんなお魚がいるのか、見に行かないとね。」

「美味しいの作るなら、僕も取りに行くの手伝うよ。」

「ありがとうサイノス。」

「みさとの料理は美味しいからね。今から行く?」

「兄貴、キメラの報告忘れてないじゃろな。」

「召喚者も居なくなったから大丈夫!はい、終わり。」

「話は何か聞けたのかの?」

「何のためか知らないけど、首都襲撃したかったらしいよ。そうそう、召喚魔法は教わったばかりだったみたい。練習で複数出したのが役に立った〜とか言ってたし。餌になるくらい弱かったけどね。」

「成程な。流石兄貴じゃ、腕だけは確かじゃ。」

「もういいかな、報告は。拓海、アレで行くなら今日中に着くんじゃない?」

「地図での距離だと、着きそうだね。」

「行こう行こう!ワクワクするよ。」

「…皆気をつけて行くのじゃぞ。兄貴を頼む。」

「こっちがお世話される方かもよ。じゃあレジアス、行って来る。」

「ご馳走さまでした!また来ますね。」

賑やかにレジアスの家を出て、早速車に乗込む。最近乗る機会が多くて、俺は楽しい。みさとと二人のドライブじゃないのは我慢するか。

サイノスは慣れたもので、既に後ろに乗っている。シビックで遊びたそうだったが、みさとの膝の上に逃げられた。無事に着きますように。

ナビに誘導してもらい、空をかける車。鳥にぶつからないようにだけ気をつける。直線距離だし信号で停まることもないし、俺も下の景色を楽しむ余裕が出来た。

みさとは、湖が見えてきて大はしゃぎ。2回目だよ、この景色。サイノスも上から見る湖は、びっくりしていた。地上から見ると水平線しか見えないが、上からだと湖の向こうに陸地がうっすら見える。山が大きいから見えたのかな。それだけこの湖が大きいって事でもある。やっぱり海だよ。

海の魚が取れるなら、大いに期待できる。刺身・焼魚・煮付・天ぷら…おっと、出汁になるか確認だな、うん。

暗くなる前には国境の手前まで到着したが、入るのは明るくなってからがいいかなとサイノスからの提案。そうだよね、知らない家に夜の訪問は不躾だよね。ということで、車中泊になった。外でキャンプのようにご飯を食べてから、寝袋を3つ出す。3人横になれる程度に、車は広くなった。

「コレ、大きさ変わった?」

「うん、広くした。狭いの嫌だろ?」

「そうだけどさ、これも魔法?」

「そうだね。便利だよね。」

「便利だなぁ。僕も使えればよかったな。」

「その分剣が強いんでしょ?それはそれでいいんじゃないのか。レジアスと組むと最強じゃん。」

「あいつも結構独りで完結型だからさ。お互い好き勝手やってるよ。」

「何かあった時に頼れるのは、いいんじゃないか。兄弟だし。うちも俺が魔法でみさとが剣だから、丁度いいよ。」

「あいつとずっと一緒は嫌だ!僕も可愛い女の子が良かった。」

「あはは。仕方ないじゃん。」

「…何の話?」

「みさとは寝てていいよ、おやすみ。」

「これくらい可愛げがあったらいいのに。てか先ず見た目だよ、見た目!」

「そろそろ寝ようか。またみさとが起きるよ。」

「おっと、おやすみ。」


次の日、朝食後に巨人族の国に向かう。シビックにも、無闇に手を出さないように言い聞かせた。

「遠くに見えたってことはさ、サイノスは結局入国しなかったってこと?」

「まぁね、入ったとは一言も言ってないし。」

「先ずは言葉が分かるかだな。意思疎通できれば、戦闘は避けられるでしょ。」

「そう願うね。ちびドラゴンの言葉わかるんだから、巨人族もわかるんじゃない?宜しく、拓海。」

「行ってみるか。」

国境が目視できる距離で、車はしまって徒歩に切替える。通行証はいるのかな?

かなり高い壁はあるけど、門番らしき人は居なかった。ちょっと肩すかしだけど、無事に入れそうだ。

街中は、何もかもが大きく見えた。まぁ、住む人基準で建ててるからそうなるよね。

早速、街中を歩いてみる。八百屋・肉屋・あ、魚屋もあった!

覗いてみると、色々な魚が並んでいる。海の魚ばかり、大きいものだけのようだ。店の人に声をかけてみた。

「すみません、この辺で魚が取れると聞いたのですが、どの辺りに行けば詳しく聞けますか?」

「どこの子供だい、河はあっちだよ。」

言葉は通じたようだ。良かった、俺も巨人族の言葉がわかるぞ。サイノスはキョトンとしているが、みさとはくすくす笑っているから、言葉はわかるみたいだ。

「一応大人でして、隣の国から来ました。」

「あれまぁ、よく来たね。じゃあ河まで案内するよ。」

「ありがとうございます。」

店番は他の人に声をかけ、皆で目的地に向かう。

「河に行けば、漁師もいるから聞いてご覧。知合いが居るから紹介するよ。」

「助かります。俺は拓海、妻のみさと、連れのサイノスです。宜しく。」

「これはこれは、おいらはビアンテだ。魚は初めてかい?」

「以前は食べてたんですけど、インフィニティには見かけなくて探しに来ました。」

「そうかい、いっぱい食べていきな。そろそろ河につくよ。」

河…というより、港の船着場のように見える。船はないけどね。みんなして、竿で釣りしてるみたいだ。

「いたいた、おーいボンゴ!お客さんだよ。魚探しに来たんだって。」

「おぅビアンテ、よく来たな。客だって?俺に?」

「お前にというか、魚について聞きたいらしい。教えてやってくれるか。」

「いいとも。何だい?」

「ありがとうございます。この辺でどういう魚が取れるのか聞きたくて。食べたいのもありますが、流通させられるかなと。」

「んーそう言われるとなぁ。釣ってみないと何が取れるかわからないんだよ。」

「船で漁に行くわけではないんですか?」

「船なんか出したら、神様に怒られるぞ。昔からずっとそう言われていたのに、試しに船で出たやつは、転覆したのか帰ってこなかったからな。ここら辺じゃ釣りなんだよ。」

「特定の魚を狙うわけではないんですね。」

「そーなんだ。やってみるか?釣り。出来ればだけど。」

にやにやしながら、竿を見せる。でかいなぁ。

「釣れたら持っていっていいぞ。その細っこい腕じゃ難しいかもな。」

「私やりたーい!」

「みさとがやるなら、僕もやろうかな。拓海はどうする?」

「補助できるように見学。二人共頑張ってね。」

「お嬢ちゃんがやるのかい?これより細い竿ないぞ。」

「持ってみていい?あ、大丈夫そうだよ。やろうやろう!」

「僕は心配ないよ。みさと、どっちが多く釣れるか競争だ!」

「うん!」

早速竿の扱い方を教わり、実践開始。直ぐに、みさとにヒット!

「来た!早いね。あんまり大きくないかも。」

「おぅ、取敢えず上げてみろ。」

ヒョイッと上げると、鰹が釣れた。

「やったぁ、初ゲット!」

「やるなぁみさと、負けないぞ。」

「お嬢ちゃんすげーな。中々釣れないんだぞ。」

どういう仕組みかわからないが、みさとの後ろに外れた魚がもういた。外すの見なかったけど。そのまま、再度竿を振るみさと。餌いらないんだ。

そんな事考えてる内に、再度みさとにヒット。今度はなんだ?

「ちょっと重いかも。なんだろ?」

軽い口調でヒョイッと上げると、鮪!

「いいの釣れたな、嬢ちゃん。この調子でどんどん釣ってくれ。」

「はーい!」

その後も、鯖・鯛・鮃・秋刀魚・太刀魚・鮟鱇・鰯・鰤・蛸・烏賊・鰻・蟹・海老・河豚・鮭・山女魚・鮫等々。ここ、河って言ってたよね。何だか、釣りゲーム見てるみたいだ。場所、季節も深度もへったくれもない。

しかも、みさとしかヒットしない。幸運値高いからかなぁ。

何気なくみさとのステータス見てみると、何これ、もうすぐ4桁じゃん。前より上がってる。

他の人はというと、50あるかないか。サイノスは、30位しかない。そりゃ釣れないわ。

こっそりサイノスの幸運値上がるよう試してみると、辛うじて3桁になった。途端、当たりが出た。

「やっとヒットだよ。ちょっと重いかな。」

上げてみると、鰹。最初は鰹しか釣れないゲームだったのか?

みさと程のペースではないが、ちょっとずつ他の人も当たりが出るようになってきた。良かったね。

最終的には、みさとの独り勝ち。

「いやー嬢ちゃんほんと凄いな。うちで漁師やらないか?」

「それはちょっと。でも、楽しかったですよ。折角釣ったから、料理しましょうかね。」

「これ全部は無理だろう。どうする?」

「一種類二匹ずつ貰えれば、後はそちらで売ってください。」

「いいのかい?助かるよ。大漁だ。おっと、小さい魚は売れないんだよな。」

「じゃあそれは貰っていきますよ。遠慮無く!」

仕分けしてもらい、みさとの取り分が決まった。一度リュックに入れてから、改めて一種類ずつ取り出す。賢いね、みさとさん。

「何処か調理場お借りできますか?」

「家に来いよ。かぁちゃんも紹介するし。お前らも来るだろ?」

漁師仲間も引き連れて、ボンゴの家に向かう。材料足りるかな?

やはり高めの位置のキッチンで、みさとは踏み台も用意してもらった。奥さんと二人で、楽しそうに料理している。

「この辺の魚は、どんな料理が多いんですか?」

「焼いて塩振ると美味しいよ。」

「成程。生では食べないですかね。」

「食べたことないけど、美味しいのかい?」

「好きな人には堪らないみたいですよ。出してみましょうか。」

そんな会話をしながら、他の材料・鍋もチェックして、出来るものから作っていく。

最終的に並んだ料理は、ブイヤベース・パエリア・刺身盛合せ・フライ・煮魚・焼魚・アヒージョ・骨せんべいまである。ご飯と醤油も出して、海鮮丼もできる状態。ブイヤベースで少し残したスープで、おじやも作った。

大量に作るのは大変そうだったが、皆満足の味だったようで、全て平らげてくれた。サイノスも、なんだかんだ刺身も気に入ったようだ。

俺は、やっぱり山葵が欲しかったな。

話を聞くと、毎日市場に出すぐらいのみ釣るそう。更に釣ることは可能だが、どれ位釣れるかがわからないとのこと。また、運ぶのにも日数がかかるので、傷まないように運ぶこと自体が難しいとか。

以前にも交渉に来た人がいたそうだが、結局お流れになったらしい。そうか、難しいのか。むむむ。

美味しい魚があることはわかった。後はどう定期的に食べられるようにするかだ。

「鰹節って、作ってないんですか?折角鰹釣れるのに。」

「なんだい嬢ちゃん、鰹節って。」

「鰹の身を、茹でてから燻製して乾燥させて固くなったやつかな。削って食べたり出汁にしたり出来るんですよ。黴で美味しくなるので、付いたら取り除くを繰り返す感じ。比較的持ち運びし易いんじゃないかなって。」

おぉ、その手があったか!

「時間はかかるけど、その分また違った美味しさで色々使えますよ。実は私はそれが欲しいんですけどね。」

「じゃあ、嬢ちゃんが作ればいいじゃないか。」

「自分の分なら作りますけど、他の人も味を知ったら欲しくなると思いますよ。売れる可能性は充分あるし。

さっきの食事で出した白米が、よく合うんですよ!話してるだけで食べたくなっちゃった。」

「試食できれば、考えんでもないなぁ、うん。」

「ホント?ねぇたっくん、来て来て。」

内緒話が始まった。魔法で時間経過かければ、チーズみたいにできるんじゃないかとみさとからの提案。

ぶっちゃけできそうだよね。やってみるか。

「わかった。ちょっと時間かかるけど、用意してみるよ。待っててくれる?」

「おぉいいぞ、頼んだ。」

再度キッチンを借りて、試作品作ってみる。

サイノスは言葉通じないので寂しいからと、一緒に付いてきた。

一通り工程を経て、藁に包んで黴付け後は時間を待つばかり…じゃなくて、魔法をかけてみる。何度か繰返しカビ取りしては魔法をかける。出来上がりは、打合せると良い音がした。

「出来たんじゃない?食べてみよっか。」

みさとは剣で、鰹節を削り出した。剣でも出来るんだ、凄いなぁ。

薄く削れたそれを口にする3人。シビックも欲しそうなので、口に入れてやる。

「いい味するね。どうやって食べるかはまだ謎なんだけど。」

「そーだなぁ、炊き込みご飯とかきたま汁を出汁ありなしで作ればわかりやすいかな。どう、たっくん?」

「お好み焼食べてー。」

「あはは、そうだね。前回より美味しくできるよ、きっと。それも作ろうか。」

早速料理に取り掛かるみさと。俺とサイノスはお手伝い。巨人族サイズの包丁も難なく使いこなしているあたり、剣を振るうためにステータス上がってるのが役に立ってるんじゃないかと思われる。

ただ、踏み台に乗っているのが、子供のように見えてかわいい。サイズ感違うからしょうがないんだけどさ、子供がお母さんの真似して台所立ってる感がして微笑ましい。

そんなみさとはテキパキと指示を出し、どんどん料理は進んでいく。出来上がる料理のサイズも大きい。運べるかな?

大きな鍋は流石に運んでもらい、食器を人数分運ぶ。スプーンとフォークで食べられるようにもしてある。

「お出汁ありなしで作ってみたので、食べ比べてくださいね。どーぞ!」

またもや見たこともない料理が出てきたが、さっきも美味しかったと見えて皆躊躇なく食べ始めた。

「このスープ、塩以外にも色々入ってる味する!具は少ないのに美味しいぞ。」

「フフリ、それが出汁ですよ。醤油もちょっと入れたけどね。ご飯も食べてね。」

炊き込みご飯も比較的シンプルな材料。こっそり昆布も入れてある。どこで仕入れたかというと、やはりクレスタ経由だ。香りのいい草を袋に入れて持ち運ぶ際に、布袋にくっつかないように内側に昆布が敷いてあった。草を出したら、袋と一緒に捨てていたそう。

みさとが見つけて、分けてもらったそうだ。クレスタはその際味見したらしく、それ以来昆布は捨てられなくなったそうな。出汁の味がわかるとは、流石クレスタ。そのうちあの店にも出るかな。

出汁のありなしで比べるとわかりやすかったらしく、ボンゴも気に入ったみたいだ。

「鰹からこんな美味いのが出来るのか、凄いなぁ。作ってみたいから、作り方教えてくれるかい?鰹も小さいと売れないことが多いんだ。それが売れてくれたら万々歳だ。」

「手間もかかるよ。完成まで150~180日位かかるし。」

「他をちゃんと売って、鰹節作ってる間も収入あれば大丈夫だろう。」

「わかった、作り方はね…」

説明の苦手なみさとに代わり、俺が工程を説明。ボンゴは余りの作業の多さにびっくりしていた。

「はぁ、そんなに手間かかるから美味いのか。高く売れそうだな、頑張るか。」

「丁寧にやるほど美味しくできると思うよ。俺達も出来たら売って欲しいから、先行投資するね。」

道具・材料の仕入も馬鹿にならないので、金貨50枚渡す。

「足りるかな?相場がわからないんだけど。」

「あんたがこれだけ出すってことは、いい商売になるってことだな。設備にも材料にも充分で、お釣りが出らぁ。頑張ってみるよ。」

「うん、手間賃も入ってるよ。じゃあ、何かあったら連絡できるように、これ置いてくね。」

それは、サイノスにも渡した水晶型通信機(試作品)。これは、俺の魔力を込めてある。

「使う際に、俺に話そうと考えてから話してみて。俺の名前、忘れないでよ。」

「はっはっはっ、拓海だろう。大丈夫だ。手詰まりになる前に、何かあったら連絡するよ。そうか、今通信できるか試していいか?」

「そうだね。俺外に出てみようか?」

「いや、俺が外に出るよ。家の中の声が届かないところまで行ってみるさ。」

そう言うと、小さな水晶を持って、部屋を出ていくボンゴ。こんなことなら、もっと大きいもの作っても良かったかな。まさか、巨人族に渡すとは思ってなかったしなぁ。

少しすると、水晶から声が聞こえてきた。

『おーい拓海、聞こえるか?』

「聞こえるよ、ボンゴ。そっちはどうだい?」

『バッチリだ!凄いなこれ。小さいから、無くさないように気をつけないとな。』

「あはは、も少し大きい方が使いやすいかな?改良するから戻ってきてよ。」

『わかった。』

暫くすると、ボンゴは大事そうに手の上に乗せて持ってきた。ちっちゃいよね。

早速大きくできるか魔法を試すと、全体的に大きくなった。やってみるもんだ。

「こんな感じでどう?も少し大きい方がいいかな。」

「これなら襟元に付けられそうだ、ありがとう拓海。」

「いえいえ。こっちでも他に買いたい人居ないか声かけてみるよ。」

「宜しくな。」


帰り道、呆れ顔のサイノスが車の中でぶつくさ言っている。

「最後まで言葉わからなかったなぁ。一人じゃなくて良かった。それも魔法なの?」

「あはは、ベゼルのおかげかな。上手く行って良かったよ、本当に。」

「たっくん、次どこ行くの?クレスタさんとこかな?」

「サイノスをレジアスん家に送らないとね。結果報告もしたいから、クレスタのとこはその後かな。」

「もう帰るの?あっという間だったねぇ。その鰹節も、置いてってくれるの?」

「使いかけで良ければ置いていけるけど。いいのかな。」

「味見させとけば、後で買うよ、あいつ。美味しいの好きだもん。」

「そこは兄弟一緒なんだな。」

「人類共通でしょ!巨人族もね。

美味しいご飯出るなら、もう少しあいつの家にいてもいいかな。用事は特にないしね。」

「偶にはゆっくりするのも良いんじゃない?まぁ、レジアス次第だろうけど。」

「水晶も使えたみたいだね。あれ、僕が貰ったのと一緒でしょ?」

「そうだよ。使えた報告しようと思ってさ。」

「男相手に試さなくて済んでよかった、僕。」

「練習も必要じゃないのかね、サイノス君。」

「大丈夫大丈夫、可愛い女の子相手にできる時に声かけてもらえればやるよ。」

そんな雑談をしつつ先にレジアスに戻ることを念話で伝えてから、あの広い家に向かう。


「ただいま〜!」

サイノスさん、あなたの家だっけ?まぁいいか。

「お邪魔します。レジアス、あの水晶使えたから安心して。」

「ほぅ、試せたか。兄貴がやったのか?」

「巨人族の人と試したよ。」

「なんと!おぬしは何でもありじゃな、拓海。」

「大収穫だったよ。出汁の算段もついたしね。」

「そうなのか。良かったの。」

「すごく美味しかったよ!早く作ってもらいなよ。そうそう、魚釣りも楽しかった。」

「兄貴の話じゃ、よくわからんな。どうなってるんじゃ、拓海。」

「んー、その出汁の素が鰹なのね。取れるところに行ったら、釣ってみろって話になって、たくさん釣れたから楽しかったんじゃないかな?その釣った魚から出汁が出来たから、余計に美味しかった可能性ある。ま、本当に美味しいんだけどね。」

「ほうほう。みさと、また教えてもらえるかの。」

「いいよ。まだ鰹節が少ないから、手持ちの物は置いてくね。オーパさん達居るかな?」

「居るとも。」

レジアスは執事に、オーパ達を呼ぶよう指示した。

「ねぇたっくん、鰹節削り器も用意しないとね。皆剣で削るわけにいかないでしょ。」

「そうだね、クレスタとも話そうと思ってたよ。」

「皆気に入ってくれるかな。たこ焼きとかお好み焼とかも手軽で美味しいし。」

「先ずは卵焼きじゃないかな?あの店で出すのに丁度でしょ。」

「いいねぇ、お味噌汁もピッタリだよ!」

「家にも味噌汁導入かな?シェフ。」

「勿論!暫くは鰹節作るの手伝ってね。」

「お任せあれ。まとめて作ってリュックに入れとこう。」

そんな話をしているうちに、オーパともう一人の料理人がやって来た。

「お待たせしました、レジアス様。」

「おぉ、今日はタンクの番じゃな。みさとからまた美味しい料理を教えてもらってくれ。」

「機会を与えていただき、ありがとうございます。みさと様、よろしくも願いします。」

「こちらこそ宜しくね。じゃあ行きましょうか。」

誰とでも仲良くなるみさとは、楽しそうにキッチンに向かっていった。こういう時、凄いなと思う。


キッチンで、早速鰹節を出す。オーパとタンクは、不思議そうに見ている。

「これは鰹節って言ってね、美味しい出汁になるの。あと昆布と干し椎茸も使おっか。」

どれも売っているものではないので、匂いを嗅いだり触ったりしている。

「こんな固い物から、美味しいものができるんですか?」

「そーなの!先ずは干し椎茸を水で戻しとこうね。」

ボウルに水を張って、ポイポイ干し椎茸を入れていく。

「じゃあ、鰹節を削ろうか。今は道具がないけど、小刀ってあるかな?私は剣でも出来るんだけど。」

「小刀ありますよ。包丁じゃ刃が欠けそうですね。」

「触ってもらってわかったと思うけど、この固いのを薄く削る事で美味しい出汁が取れるんだ。やってみるから、見ててね。」

小刀を受取ったみさとは、事も無げに薄く削っていく。出来たところから味見してもらう。

薄い破片なのに、しっかり味がすることに驚く二人。

みさとはリュックから更に鰹節を出し、二人に1つずつ渡しておく。削る方も試すが、なかなか薄くならない。二人が練習している間に、どんどん削っていくみさと。終わる頃には、二人もだいぶ薄くできるようになっていた。

昆布も含め、出汁を取る方法を教えていく。取れた出汁を味見してもらうと、更にびっくりしていた。

「さ、やっと料理作れるね。炊き込みご飯・お味噌汁・卵焼き・煮物も作ろうかな。」

いつも通り、手順を一通り説明してから、皆で作業をする。丁寧な作業だが、テキパキと進めていくみさと。


待っているリビングでもわかるくらい、いい香りがしてきた。

「お腹空いてきたね、良い香り。」

「夕飯楽しみじゃの。」

「運ぶの手伝おうかな。待ってらんない。」

キッチンに向かうと、いくつもの料理が並んでいる。

「たっくん、どうしたの?」

「いい香りしてきたから、早く食べたくて手伝える事ないか見に来た。」

「ありがとう。じゃあ、食器運んでもらおうかな。お料理はワゴンで運ぶんだって。」

「今回もいっぱい作ったね。美味しそう。」

「食材増えたから、楽しくなっちゃった。」

「出汁があると、和食が多くなるね。」

「そうだね。あんまり凝ったのは出来ないけど。」

「魚もあると、鍋も出来るな。海老蟹釣れたしね。」

「それはお家でね。さ、運ぶよ。」


オーパとタンクが、ワゴンに乗せて料理を持ってきた。

卵焼き・筑前煮・鰤の照焼・イカ焼き・鮪の刺身・茶碗蒸しが、テーブルに並べられる。そこに炊き込みご飯と味噌汁まで付いてきた。食べきれるかなぁ。

早速サイノスはフォークで刺身に手を出す。醤油も小皿にとり、器用に付けて食べている。

生魚が初めてのレジアスは、サイノスが食べたのを見て真似をする。口に入れて味を確かめた後は、次々口に運んでいく。照焼や筑前煮も躊躇なく食べていく。卵焼きと茶碗蒸しが、ベーコンエッグの卵と同じ材料と伝えると、驚いていた。

「全然違うよね?色は似てる感じするけど。」

「食感もだいぶ違うのぅ。しかし美味いな、この卵焼きとは。茶碗蒸しとやらもまた違った美味さじゃ。」

「ご飯おかわり!」

「また食べ過ぎそうじゃな。そのうちあの店にも並ぶんじゃろ、ん?拓海よ。」

「たぶんね。この辺りの人にも気に入ってもらえそうかな?」

「勿論じゃ。魚も美味いぞ。」

「魚は難しいかな。移動に時間がかかりすぎて、傷んでしまうよ。瞬間移動出来ればいいんだけどね。個人的にはしてもいいけど、一般的な魔法として使ってるものなの?」

「無理じゃな。使えるものは限られておる。」

「それは残念。鰹節なら運搬は楽だと思うけど。」

「食べに行ってもいいけどさぁ、言葉通じないのは困るよね。」

「確かにのぅ。わかるものを連れていくしかないかの。」

二人から見つめられる拓海。

「何、連れてけと?」

「わかってるじゃん、拓海〜。」

「私は初めてじゃからな、先達が欲しいものじゃ。」

「検討します。俺だっていつでも行くわけじゃないからね。」

こういう時だけ息ぴったりだな、兄弟!

後でボンゴのところに転移できるか試してみよう。

「レジアス、転移魔法ってさ、どうして一般的じゃないの?」

「魔力消費が大きいのと、修得が難しいんじゃ。」

「この間教えた、馬車の加速はできそうなの?」

「そっちはまだ簡単じゃな。そこそこのレベルの者なら、使えるはずじゃ。魔法協会でも使い方を教えて、広めていくぞい。」

「良かった。俺以外でも使えれば、クレスタに拘束されなくて済む。」

「練度によって速度は変わると思うがの。」

「認知されることが大事でしょ。使い方が広まれば、応用も出来るだろうし。思いつくかだけだと思うけどね。」

「修得した時の使い方しか、利用方法が無いと思っとるのかの。嘆かわしい事じゃ。」

「魔法って大変なんだね。やっぱ要らないかな。でも、あの乗り物は欲しいな。」

「あげないよ!この世界のものじゃないしね。サイノスは柔軟性あるから、何でも受け入れられるんだな。」

「楽しまないとね!食わず嫌いはしないようにしてるんだ。」

「いいと思うよ。レジアスも、魔法には貪欲だよね。」

「そうじゃの。拓海、次の魔法そろそろ教えてくれんかの?」

「何でもできるでしょ。そんな珍しいものばっかりじゃないよ。」

「あの水晶、簡単に大きくしてたじゃん。あれは?」

「レジアスも出来るんじゃないの?」

「物を大きくするとな!知らんなぁ。それでいいぞぃ。」

「じゃあやってみるよ。試しにこれで…」


3人でワイワイしてる横で、みさとはオーパ・タンクとご飯を食べてる。出汁もすごいが卵の使い方が面白いとか、プリンみたいな作り方だが材料でこんなに変わるのかとか、こっちもワーキャー楽しそうにしている。

こんな時間もいいよねぇと、拓海もみさとも思っていた。

「さて、次は何をしようかな。」


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