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え?普通ですけど  作者: 高菜哀鴨
第一章 ギルドと、次期領主と、貧困
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朝帰り

 アロナからビンタを食らった次の日、俺はグラスと桜音にだけ伝え、今回は昼間にアゾウェルトへと向かっていた―


 早朝。孝はほぼ同タイミングで起きた桜,音に話し掛けながら頭を撫でる。


『あぁ…おはよう桜音…』

『おはよぉ…ん~!くすぐったいよぉ』


 頭を撫でられる桜音が身体中を小さく震わせ、孝の手に自分から頭を擦り付けているところに、孝は言う。


『ちょっと今日からも街の外に出てくるけど…』

『うん、いってらっしゃい。私が引き続きみんなの面倒見てくるから』


 …

 次に俺はグラスの部屋を訪ね、他の者に迷惑が掛からなぬ様に小さくノックした。


『グラスー…起きてるか―…』

『ふぁぁい…おはようございます、タカシさん』


 扉が開き…その奥からかなり眠そうな表情をしたグラスが顔を出した。


『俺はまたアゾウェルトの方に行ってくるから、君達はこっちで休んでて。残ってる子供たちの様子も見てくるから』

『はぃ…よろしくお願いしまふ…』


 ―そして現在、俺は深く被れる帽子と薄い色の服を身に付け、木々を飛び移っていた。そんな中、俺の頭にある声が響いてくる。


『タカシ、聞こえる?』

「聞こえるぞ、タジム」

『現実時間だと、あれから7時間経ったんだけど…』


 声だけであまり分からないが、少し困惑している様に聞こえ、俺は聞き返す。


「どうした?」

『…どうやらあの“ナニか”、僕から出たらしいです。ハイ…』

「へ!?」


 いや、どうやってそれを知ったんだよ…というか、俺じゃなくタジムから生成されたというのはどういうことだ…

 俺は移動しながら質問しようと頭の中のタジムに呼び掛けた。


「それはどういう」

『…』


 が、完全に通話拒否のような形で遮断されてしまった。仕方ないので、タジムに言っていたことについては夢の中で聞くことにする。

 街に着くまでの間、俺が先日“万能吸回復”を掛けた場所を通り過ぎに見てみた。すぐ見て分かったのは、6人の20代前半ぐらいの青年が小さな小屋らしきものを作っており、近くに十字架を横に倒して置いてあることだけ。

 …別に、俺は迷える者達を救済したなんて実績が欲しいわけではないし、その実績を得るんだとしても、今の状態はまだ完成したと言えるものではない。というか強化し過ぎちゃったし…そう思いながら、俺は止まらずにアゾウェルトの城壁のすぐ前まで移動した。

 到着した俺は、すぐに上空へと光学迷彩を施した“第三の眼”を生成し、3人と共に出入りした穴の周辺を見回す。


「兵士は…費用ケチられてて穴だらけだな」


 こないだ盗み出した資料で分かりきっていた事だが、豚貴族はかなり私利私欲に走っている為、払われる金は低いしその人数も少ない…


「…とりあえず、子供たちのとこ行くか」


 特に衛兵達を気にすることもなく、俺は城壁の中へと入っていった。

 俺が街に入り、子供達の待つ家へと向かう途中…正面から5人、背後からは7人程の人の気配を感じた。その場所はスラム…今日を今日をと生きることで精一杯の者達が集まる場所。そんな場所からは何かの死骸からであろう腐敗臭も漂っている。それから数歩歩いたところで、気配の正体であるスラムの住民たちが姿を現す。その者達は全員が殆ど肉がついておらず、プルプルと震えるその身体から皮の垂れ下がった30代から50代ほどの男女で、全員が怒りや悲しみの混じった表情をして、その辺に落ちている角材やら何やらを持っていた。

 その中で一人、白髪の混じった茶髪の男が曇った瞳をも震わせながら言う。


「か、金や食料をよこせぇ…!俺達ゃもう、限界なんだああ!?」

「…」


 …正直、俺の本質は全く善人ではない…だが、俺の中にある感覚の1つはどうやら違うらしい。俺の身体が自動的に動き、思考し、食料やらを生成する魔法が発動された。それによって生み出されてしまった食料を、男達は必死にかき集める。


「ありがとう…ありがとう…」

「食料だぁ…これで俺はぁ…」


 『この状態をくりかえしてはいけない』。そう思った俺は身体の制御を取り返し、男たちの前に5本のコピーされた剣を地面に突き刺し、剣に沿って俺の顔を見た者達に言った。


「これ以上は施さない。だから選べ…この剣を使い、最後の一人になるまで闘い続けるか…それとも、この剣を使い、皆で魔物達を倒し、共に明るい未来が訪れるであろうその日まで、生き抜くのかを」


 男達は唾を呑む…もしここで他にいる者達を殺すのであれば、暫くの食料は安定するがいつか終わりが来てしまう…逆に皆で協力した場合、殆どの者が過去に比べ筋力が衰えている状態で魔物と闘うのだから、冒険者達に比べても死との距離はかなり近い。だが、少しづつでも魔物を倒せるようになれば、食料を自分で手に入れることが可能になる。だが暫くの間、男達は黙っているままだった為、俺は痺れを切らして去って行ったので、男達の選択がどうなったか知らない。


 俺が子供達の家へと着くと、家の中からスーが勢いよく出迎えてくれた。


「タカシさーん!!」

「ただいま、スー!」


 俺は飛びついてきたスーを両手でキャッチし、その時の衝撃を利用してスーを持ったまま、ゆっくりぐるぐると回転する。それが楽しいのか、スーは子供らしく、可愛らしい笑顔をこちらに向けてきた。とてもかわいい。

 俺は回転をやめた後も、スーを右腕で抱きかかえ、他の子供達のいる家の中へと入っていった。まだかなり早い時間の為か、他の子供達の小さな寝息が奥の部屋から聞こえてくる。そこで、俺はスーに質問した。


「そう言えば、どうしてスーはこんな早い時間に起きてるんだ?」

「それはね…」


 スーは扉の1つを指さす。確かあの場所には竈やら何やらが置いてあるはず…とりあえず俺は扉を開けて部屋の奥へと進んだ。すると、そこではプロブが渡しておいた食材を切っており、俺はプロブが食材の1つを切り終えたところで肩をポンポンと軽く叩いた。彼はゆっくりと振り返り、俺を見て驚いた表情をする。


「どうしたス…タカシ!?」

「ただいまー!」


 俺は左手を使ってプロブを雑に撫でる。それに対しプロブは少し嫌そうに笑って、包丁を持っていない手で俺の手を払おうとする。だが俺はやめない


「いや、おかえりだけど…みんなは?」

「3人はアンナとか俺の恋人とかといっしょにあっちの街で休んでるよ」

「へぇ、タカシの恋人と…恋人と!?」

「タカシさんには想い人がいるんですか!?」


 俺に恋人がいると知ったプロブは一度包丁を置いてから、スーと一緒にものすごい形相で詰め寄ってくる…それを一応手で制止しながら、俺はスーの質問に答える。


「いるけど…そんな可笑しいことか?」

「いやタカシさんって、人と愛を育むタイプにはあまり見えなかったので…」

「うーん…自分でもあんまり恋愛感情ってものが、まだ分かってないんだよなぁ」


 正直、桜音と一緒に過ごす時間はとても心地良いし、しばらく会わなければ寂しいという感情が沸きあがってくる事はある。だが、それが恋愛感情なのかと言われれば、“YES”とはっきり答えることが出来ない…今の自分にとって、桜音がなんなのだろうとずっと考えている。

 俺が顎に右手を当て考え込んでいるのを見て、プロブが話題を変えてくれ、俺はそれに答えることにした。


「そ…それで、タカシはなんで一人で先に帰ってきたんだ?」

「そうだそうだ、君達に手伝ってもらいたいことがあってね…」


 俺は二人と同じぐらいのサイズの少し汚しを入れた動きやすい服と顔が隠れるぐらいの鍔の付いた帽子を魔法で創りだし、それぞれの手の上に乗せる。


「これ着て一緒に街の方で調査するの手伝ってほしい」


 それを聞いて、スーが質問する。


「でもタカシさん。多分だけど街に行っても、ちょっとした領主の噂ぐらいしか知ることできないよ?」

「噂程度でも良いんだ…そこから新たな真実につながることって結構あるんだよ。それとは別に調べたい事もあるしね…」


 そう俺が悪い顔をして返すと、スーは呆れた笑いをしながら、寝ている子供達のいる部屋へと移動していった。

 残されたプロブは再び調理をしながら、俺に質問した。


「…で、別に調べることって何。俺達に知られちゃいけない事なのか…?」

「…2つあるけど、片方しか言えないぞ?」


 そう言うが、プロブから相槌が返ってはこず、“タンタンタン”と彼の握る包丁とまな板が当たる音だけがその部屋に響く。俺はそれを“OK”という意味で汲み取り、内容を言うことにした。


「俺が調べるのは…お前達のもう一人の姉ちゃんのことだ」 

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