茨のファイル
多分誤字だらけな気がする。
「やばっ…」
多分ソレに頭を持って逝かれた場合、再生するまでの間の視覚?は機能しないであろうし、この精神体でも試行処理の機能を果たす部分が頭に存在する場合は、上手く動けるかは分からない。だが、攻撃を防ぐ体勢を取れる時間はないし、後方へと避けた場合も逃げるより先に首がスパンする…なら、
「…ォラッ!!」
俺は後ろへと倒れ、その勢いのまま後転するように両足を揃えて、すぐそこまで来ていたソレの腹部?を蹴り上げた。ソレは俺の後方斜め上をクルクルと回転しながら宙を舞う。だが、
グルァアア!!
「そう来たか…!」
回転するソレの頭がこちらへと向いた瞬間、ソレは何もない空中を何か平らなものに足を着けたように関節を曲げ、地面を蹴るようにこちらへと再び飛んできた。
「タカシ!!」
そう開けたままでいたドームの隙間から聞こえたタジムの叫ぶ声。その声を聞いて『大丈夫、これならきちんと封じ込められる』と心の中で呟いていたその時、俺は気づいた…ソレが“何か”を溜めていたこと、そしてその溜めていたものが今、己に向かって放たれることを。
ッ…!!
何の鳴き声も発さずソレが放った“何か”は、まるで狼の頭のような形をしているように見える今までで一つ一つが最も疾く、巨きい無数の斬撃であった。
現在の状況で俺に出来る手段は全て…
「…“詰み”だな」
負けが確定していた。
―いや、まだですよ…少年。今すぐ記憶を使って自身の身体を守りなさい…!―
またしても聞こえた謎の声…だが、その言葉通り記憶を立体化さそしてせた場合、斬撃は防げてもそのすぐに来るソレの直接攻撃への反応時間が遅れる可能性が高く、部位欠損から封印の球体を破壊されるという敗北エンドになってしまう。だが、この声の主が何の意味もなくこのようなことを言ったりするだろうか…?
先程、この声による助言で今俺の手に持っている球体は完成し、それも創り出すための材料の大元はその声の主が提供してきたものだ。
(…賭けてみるしかないな)
そう思い、俺はいらない記憶を最大限活用して何重にも立体化させた。
次の瞬間、その斬撃は次々と記憶に命中し、立体化させた記憶を深く深く削り取っていったが、何とか最後の記憶で止まった。だが、そう認識した時にはもうすぐそこまでソレは来ているのだろう…そう思っていたが、斬撃が止んでから五秒経ってもソレの追撃はこない。何が起きて…いや、もしかしたら一度距離を取り、直線高速移動か何かを仕掛けようとしてるんじゃ…
―早く手に持ってる球体使って下さいよ!?これ超ギリギリなんですから!!―
再び深く考えこもうとしてしまうが、謎の声が叫んだことに驚き、とりあえず立体化させていた記憶をどかす。
するとそこには、ソレが出てきたファイルと共にあったうちの茨が巻き付いたファイルと、その茨の一部によって口を無理矢理開かれ、四肢を縛られて空中で完全に動けなくなっているソレがいた。
『え、これどうなって』
―はやく!急いで!!―
その状況に困惑したが再び謎の声に急かされ、言われるがまま俺はそれに向かって飛び、手に持っていたソレを口の中へと勢いよくぶち込んで、そのまま落ちて行く。そして俺は瞼を閉じ、右手を銃の形にして球体に付けておいた魔力に向かって指さした。
「“起動”!!」
そう言うと右手の指先から付けていた魔力へと直線上に信号が渡り、それにより起動した球体から口の外へエネルギ―が放出され、それが球体状の結界へと変化したのだ。
それと同時に、謎の声が再び聞こえた。
―孝、ありがとう…彼を救ってくれて…私の兄弟を救ってくれて―
『兄弟…!?ということはお前もバケモノなのか!!』
―違っ…すみません、これ以上は“念話”できないようです―
『おい!質問に答え…』
―あ、もう切れます。自分のことは元に戻った彼に聞いてくれると…―
謎の声は何かを言い切る前に完全に聞こえなくなり、球体は直径1.2m程の不透明な白いものへと変わっていたのだった。というか、あれ。なんか伏線のようなものだけ張って消えて…
「ふざけるなよ…!結局あれは何をしたかったんだよ!?」
「ねぇ、終わったの…?なら、早くここから出して欲しいんだけど…」
「あ!そうだそうだ…」
俺はとりあえずタジムを囲っていた記憶を全て元に戻し、胡坐をかいたような状態で座っていたタジムに手を伸ばし、タジムがその手を掴んだ瞬間に勢いよく引き上げた。タジムは「おっとっと…」と口から漏らしながら少しよろけたが、すぐにしっかりと立って腰の後ろを両手で押したりする。
様々な動作を終えたタジムは、まず球体へと近づき、コンコンと軽くノックする。
「これ…本当に大丈夫なの?」
「…多分大丈夫だとは、思う…けど」
そう俺はタジムに返した。あれの意図は分からない。でも…球体の中にいるソレには、【封印中】と出ているのだ。今後どうなるかは別として…今、ソレが封印されていることに違いはない。
「いや、えぇ…?タカシがこれ考えたんじゃ…」
「あ、っス―…えーっと」
タジムにそう言われて、言葉を詰まらせてしまった。正直、俺の言葉じゃタジムを困惑させる気しかしないし、納得がいくような言い方が出来たとしても…あ~!
完全に動揺を隠せなくなり、人間じゃ普通あり得ない程、乱舞する。だがそれを見ても、一言も発さずに何か考え込むタジム。
だがそれをすぐに終え、タジムは俺を睨みつけた。
「…何がどういうこと?」
「…話します」
タジムをドーム閉じ込めてから今まで起きたことを、全てありのまま話した。正直、天才的発想を持たない俺じゃ、何か浮かぶ訳でもない。なら、素直に話すしかない。
「なるほど…」
すべて聞き終えたタジムは床に胡坐を掻いて考えこみ始めた。
正直、ここからどうなるか分からない…だが結局、結末は変わらないであろう。神からすれば、この分岐がバタフライエフェクトとなったとしても、きっとそれは誤差でしかない。
「…うん」
「!!」
考えが纏まったのか、タジムは立ち上がった。さぁ…次のタジムの発言でどんな誤差が生まれるのだろうか…?
そして、タジムは結論を言い放つ。
「これの封印が自然に解けるまでは様子見だね」
「よし!それじゃあ…って、え…封印が解ける、まで…?」
俺は驚く。様子見になるのは想定していたが、自然に封印が解ける…?球体ってそんな脆いの!?いや、とりあえずまずは…
「タジム。それって詳しくは、どんな感じでそうなったんだ…?」
「そうだね、じゃあ説明していこうか」
俺がそう聞くと、タジムは空間を走ったりジャンプしながら説明を始めた。
「まず、一つ目。そのタカシの言う“謎の声”は『自分のことは元に戻った彼に』って言ったんだよね。『元に』って言ったってことは、僕たちを襲った“ナニか”は、何かをきっかけに、“謎の声”が普段認識していた状態とは違ったってことだよね」
「あ~!」
タジムに言われ、“謎の声”の言葉の意味に気付く。…あれ?その言葉の中にもう一つ意味が…
俺が何かに気付いたことを察したのか、「フッ」っと笑うタジム。
「多分気付いたんだね。二つ目は先程の言葉の中にあった『戻った』の部分。あの球体が元データとなった鎖と同じ強度なら封印した場合、最低でも現実の速度で百年…長ければ永遠に解けることはないはず。なら普通、一応は神である君にも『戻った』とは言わないと思う…タカシ、今すぐ“ナニか”に向かって“看破”を使ってくれる?」
「わ、分かった…“看破”!!」
俺は言われた通り、ソレに向かって“看破”を使った。だが、ソレの情報を詳しくは見ることが出来なかった。なんとなく予想していたが、やはり意味が…そう思った時、
「サブマスター権限…タジム・シグラリタスより、サポートアカウント“サポちゃん”へ。対象・田中 孝のスキルの内容を強化、及び補助を命令」
『命令を受諾.サポートアカウント・ “サポちゃん” に【補助能力】・“世界樹の書”を構成.“世界樹の書”を 田中 孝 の能力“看破”に対し使用.』
サポちゃんの声が途切れたと共に、“看破”による情報の一部に掛かっていたぼやけが外れ、【“正常化”発動中】という文字が現れた。
「タジムこれって…!?」
「まぁ多分、“謎の声”が仕込んだものだろうねー…」
俺はその文字に対して動揺したが、タジムは平然とした様子でまた画面とパネルの操作を始めた。いや、予想通りではあっただろうけど、また封印が解けるかもしれないという心配の1つもせず、また調べ始めるのは強すぎるだろ。
そんなタジムに対して少し恐怖を覚えながら、俺もパネルの操作をしようとすると、
「あ、とりあえずタカシはもう起きていいよ。多分一人でやった方が安全だし」
「あー、うん。分かった…」
確かに、俺と二人よりもタジム一人の方が安全であろう。それにこっちに居すぎると起きても疲れ切ったままな気がするし…
そう思い、精神世界に布団を創り出し、俺は床に就いた―
― コクッヮコゥ!!
そうしてまた、現実での俺の一日が始まったのであった