神…?
またかなり時間空いてすみませえぇぇぇぇん!!!!
ウォガァァア!!
そんな鳴き声を発しながら、目の前のソレはいくつのも斬撃を飛ばしてきたが、俺はそれを身体に近い順に避けるように動き続ける。いや、正しく言うなら“最も近い斬撃を回避した結果、自身の存在する座標から最も近い斬撃を回避している”だな。それにしても…この斬撃の密度を上空から見ることができたとしたら、多分、一昔の弾幕避けゲームの三倍ぐらいある気がする…等と思っている暇は本来ないのだが、一応神様の恩恵…というか神としての己の持つ力のおかげで脳の物理演算処理速度がかなり上がっている…これも正確には”脳の情報処理も二人分になっている”というのが正しい…
「っていィッ…ダアァ!?!?」
脳内で独り言を呟いていた俺だが、気づくと左腕の指の一本が付け根から持って逝かれていた。
「大丈夫か!?」
すぐに何重にも記憶を立体化させ再度設置し、ソレから身を隠す。痛い。そのひとつの単語で思考が埋まっていくが、残された思考の一部が少しだけ籠ったタジムが心配する声がドームの中から聞こえたと認識してくれた。そのおかげでか、少しずつ思考は正常へと戻る。
「へーきへーき!だからお前は早くそっち終わらせてくれー」
今、俺にはそう言うことしかできない。タジムには解析に専念してもらう為、彼に心配を掛けていられない。それが俺の為だし、タジムの為だし…多分、目の前のソレの為でもある…
だが、今の自分にできることは何なのだろうか…?と思いながら少し下を見ると、なぜだか持って逝かれた指は元の通りに再生していた。まぁ精神世界ならではのご都合的なやつだろう。…ということは?痛みは生じても、肉体の損傷自体は治るということなら…
俺は記憶の裏から勢いよくそれに向かって突進する。足に大きな傷?ができても、数本の指がはじけ飛んでも、持って逝かれても、まっすぐに進み、認識上1m程まで距離を詰めるとソレの股下をスライディングで通過し、
バキッ
次の瞬間、俺は目の前にいるソレに対し、首に脚を巻き付け逆さになり、ソレの左足だと思われる部分を両腕で掴み、捻り切る。ソレは先程とは比べ物にならない何かを発しながら俺を振り払おうとするが、俺は裂け目が開いていく自分の脚を気にせず、取った足を遠くへと投げ、ソレの右足に掴みかかる。
「もう一本…!」
ゴリッ
俺はソレの右足も引き千切った。出来るだけ、根元から。そして今度は千切った足の一部岳を残し投げ捨て、手元にあるソレの一部を口から体内に入れ、解析する。
「不味いな」
何よりも先に浮かんだその言葉を発すると同時刻、俺の精神体の中にはソレの一部を解析した結果である情報が一度に流れてきた。
「…え?」
俺は驚いた。その情報を文字化した場合、目の前のソレの種族は、自分とあまり変わらない“神”の一部であるというのだから。
「どうした!?」
タジムがそう俺に聞いていたらしいが俺にそれを聞き取るほどの余裕はまた、なくなっていたのだ。
目の前のソレが“神”の一部?意味が理解できない。何故だか自分の身体に存在するタジムの“魂”ですらかなり意味が解らないのでいるままなのに、それ以外に自分のほかに存在する“神”と呼ばれる何かの一部も入ってる?ふざけているのだろうか。自分は自分であるはずなのに、何もかもが本当の意味を持っていないのではないかと考えてしまう。自分は誰なのだろうか、本当に存在しているのだろうか…俺は本当に俺なのだろうか…?
「…タカシ?」
「…」
暫くの沈黙の後、ゆっくりと足を再生しながら攻撃してこようとするソレの両腕を俺は手刀で切り落とした。無言で。
今の俺には何を考えるべきか分からない。それなら、目の前にいる“ナニか”をタジムに近付けない…ただそれを考えるだけでいいのかもしれない。
「…タジム、あとどのくらい?」
「あ、いや…そろそろ分析自体は終わるけど…」
「多分鎖の構成に神の力必要だろうから俺の一部を使って形作って」
そう言いながら俺は達磨状態になっている“ナニか”の口?を記憶でロックしてみる。すると、先程は斬撃で壊されていた記憶は、今のソレには全く壊せそうにもなかった。もしかすると、“ナニか”そのものには、俺の記憶の破壊・干渉は出来ないのか…
グァ…ッグァ!!
ギリギリ音にならないような何かを発しながらソレは胴をウネウネとさせて動き回る。そんなソレの様子を見ていると、ドームの中からタジムが焦っているような声が聞こえた。
「タカシまずいよ!?」
「どうした?」
「鎖の分析そのものは終わったんだけど、直せないんだよ!!」
「え」
直せない?いや、そうか…神は神でも違う神だからか。例えば太陽神と月神…その二つは対なるものであり、対なるものの本質は同じだと言ったりするものだが、太陽神と水の神とかでは?性質は違うし対にもならぬ…つまり同じものにはすることはできない。ならどうすればいい?何でこれを封じ込めばいいのだろうか…今はまだ俺単体でも無力化できているが、いつまでも俺がこの世界にいる訳にもいけないし、もしかするとソレが俺の動きを学習して、手の打ちようがなくなるかもしれないし…
―僕の渡すものと君の力で作ればいいのです―
「ウェッ…!?」
「タカシ、何か思いついたのか!?」
「あ、いや」
謎の声が聞こえた。“さぽちゃん”の声でも、“ソレ”の鳴き声でも、タジムの声でもない…聴いたことがあるようで全く聴いたことのない声。男にも女にも聞こえる声。一般的な声。個性のあまりない声。ただただ普通としか表現のしようがないその声に俺は困惑していた。
―あ、いつも通りに念話の感覚で返してきてくれればいいですよ―
『…誰?』
―うーん…君に限りなく近く、限りなく遠い存在、ですかね?―
意味が解らない
―意味は理解しなくて大丈夫です、今はまだ―
『何故干渉してこれる!?』
一瞬気持ち悪く感じてしまったが、とりあえずそのまま謎の声と話し続けてみる。
―今の僕には君に精神的には干渉…ではなく、理解しやすいんですよ―
『理解?』
―まぁ、簡単に言えば諦観者…的な感じですね―
『つまりタジムには?』
―無理ですね。君に今していることをやろうとしたら、タジム君の魂の一部が崩壊します…って今はそんなことをしている場合ではないですよね?―
『あっ』
そうだった。今は鎖の復元か、代わりになるものを創り出さなきゃいけないのだった.
―そうですよ!―
だから干渉…
―はい、何すればいいか、今から言いますから!!―
『…どうしろと?』
俺は謎の声が何をしてほしいのか尋ねる。
―では、まず!君が先程“同じ性質、または対なる性質”的なことを考えていましたね?―
『そうだな』
―君の考えていたのは対なる性質のものが反物質だった場合でないと成り立たないし、同じ性質でも微量ではありますが、完全に同じ物質にはならないんですよ―
『あ』
―『あ』って…―
謎の声に言われて、自分の理論が甘いことを理解した。声の言う通り、完全に同じものでなく、限りなく近いものが混ざってしまっては別のものになってしまうし、対なるものも全く同じものが元でないと意味がない。でも、それならどうしろと…
―なら、君のメインの能力、“普通化”を使えばいいんじゃないですか―
『あ』
―だから『あ』って…―
『でも、記憶って完全に染まっているものなんじゃ』
―いいえ、空っぽの記憶というものも存在するんですよ―
『へぇ…』
知らなかった。記憶にも空ファイルのようなものは存在するのか…あれ?
―…どうかしました?―
『いや、なんで復元じゃなく創生なのかなーって』
おかしい。普通、俺の力で鎖の性質をコピーできるなら直接直せば…
―まぁ、その辺は新しく作った方が早いからですかね?―
何かごまかされた気がするが、今は従ってみようと思った。
―よーし、やっちゃいましょうか!―
謎の声にイライラしながらも、俺はタジムに話しかける。
「タジム、鎖の性質は分かっている感じだよな?」
「うん」
「よし…今からドームに少し隙間を開けるから、そこからまっすぐデータを送ってくれ」
「わ、分かった…!」
返事を聞いてすぐ、ドームに少しの隙間を開ける。するとクリアファイルっぽいのがそこからまっすぐと宙を舞いながら飛び、俺の前を通り過ぎようとする。俺は開けた隙間を閉じてからそのファイルから板のようなものだけ取り出し、それに掌を翳す。
そうすると鎖の性質、元となる物質、凡そどのように作られたのか…どんどん頭に情報が流れてくる。これで普通化によるコピーは完了だ…!
…これ、見ているんだろう?
―いや、なんか雑になるの早くないですか?まぁ、いいですけど―
その声の後、空間がぼやけながら半透明な球体が俺の目の前に出現する。すると、今まではゆっくりとだったソレの再生は一気に加速し、またこちらへ斬撃を飛ばしてくる。俺はすぐに身体を動かして斬撃を避け、記憶で二重の箱を作ってその中に籠る。正直、俺も見失ったソレが暴走してしまう可能性があったが、流石に死んでしまう。
というか、作業に取り掛かろうとしたのは良いものの、神の力はこの世界でも使えてしまうのだろうか?
―“神”って完全に精神体のものもあるから使えるんですよ。君があの三人と会ったところもそれですし―
三人…ゼウス達か。というか、声の主はいつから俺の様子を見ているのだろうか?
…答えない、か。まぁ、そのうち聞くからな。
俺は以前のように“普通化”を球体に向かって使用する。ゆっくりと球体は歪になり始め、八の字が無限に繋がっているような形を経て、鎖へと形を変化させた。その鎖の色は元になったものと比べ…ずとも分かる。透明だ。クリアだ。だが、性質そのものは変わっていないようで、そこからは何か清らかなオーラが出ていた。だが何か違うような…?
―早くアレに鎖をGo!Go!!―
『うるせぇ!!』
…俺は完成したものに何か違和感を持ちながらも、その鎖で“ナニか”を鎖でもう一度封じることにした。
二重にしていた壁の“ナニか”がいたであろう方向と逆側を開く。俺は一度ソレから距離を取って、振り向いてタジムの方も開こうと思ったが…遅かった。
俺が体制を整えるより速く、ソレは俺の頭目掛けて、飛びついてきていた。