中に潜む獣
遅くなりました!!ごめんなさい!!!!ガチ体調崩しの日が多くてやらかしました。内容も薄っぺらいです、ご了承ください。
目の前に現れた三つのファイル…それは俺が認識しているその見た目は普通のもののように見える。いや、普通ではないわ。鎖やらなにやら巻き付いてるもんな。
「これは…?」
「分からない…ただ、ヤバいとは思う」
「いやそんなの分かってるって!」
俺はタジム(思念体)の上半身を自分の身体と連動させたように前後に揺らす。暫くすると俺は落ち着いていき俯いてしまう。
「んで…俺はどうしろって?」
「じゃあ、これの解析手伝って」
そう言いながらタジムが自分を中心に扇が開くように空中で掌をスライドさせると、半透明なキーボードようなものとモニターらしきものが現れる。その様子を俺が真似ると、まったく同じものがどちらとも現れ、目の前にあるファイルの1つと同じものがそこに写る。
「タジム、これ俺が現実で見たことのあるファイルと同じように引っ張り出そうとすればいいの?」
「それもわかんない…けどやるしかないね!」
「…」
「痛くないけどなんとなく痛い気がする!やめてって!」
俺は今、タジム(思念体)の頬をつまんでゴムのように引っ張ったり戻したりをする。なんとなくだけどこの記憶俺にとって何か重要なものなのにそんな雑な扱いされたらキレたくなる。が、遅かれ早かれやることになっただろうと思い、頬を押さえているタジムを無視して作業を開始する。
「でも、このチェーンどうやって外そうかな…?」
どうやら、映し出されているファイルは、固定視点の3DモデルのPCゲームでよくあるマウス(らしきもの)をクリックした状態で動かすとファイルの見れる位置が変わるような感じであり、二回クリックすると“???”と云う文字が浮かび上がる。だがそれは浮かび上がるだけで、他には何も起きることはない。
「うーん、いくつか前のゲームの理論なら…」
そう呟きながら、俺はひたすら鎖の部分を連打してみる。すると、ファイルに巻き付いていた鎖の一部にだんだんヒビが入っていくのが解り、「これならいける!」…そう思った瞬間、目の前に“WARNING!”と表示される。
「…っべーな、これ」
「いや、そんなこと言っている場合じゃ絶対ないでしょ!?タカシ、要らない記憶をここにいっぱいおいて!!」
「こ、こうか?」
俺は昔流れてたCMを見ていた時の記憶等を精神世界でいくつか壁のように立体化させ、自分やタジムとのファイルの間に置く。その時にはファイルから何やらどす黒いオーラが溢れ始めており、「グルルルゥ…」と獣の唸り声のようなものが聞こえてくる気がする。それは数日前にタジムの魂を移した時に感じたものと近しい…そう思いながら俺はタジムに話しかける。
「タジム。お前はこれと同じようなものを見たリ感じたりしたことはあるか?」
「ないな…いや、少しだけ僕の実家に抽象化されたこれっぽいのの絵が描かれた書物があったかも」
「じゃあそれそのものか近いものだな。俺はこんなもの見たことも聞いたことも感じたこともないし」
そう言いながら俺は立体化させた記憶に隠れるように座り込んで先程と同じようものを出して、解析する。
「でも、書物だけであって、僕も正直こんなのが自分の中にあったとは思えないんだけど!?」
「じゃあ俺に入ってたてか?信じたくないわ!そんなこと。でも取り合えず、うだうだ言ってないでお前も調べろ!!」
そう言うと、タジムはムスっとした顔をして解析を開始する。タジムには悪いが、自分のムスっとした顔を見るって変な気分だな…と思いながら見ることのできるギリギリまで拡大などをしていると、時間切れ…なのか、ファイルからは見るからに恐ろしい狼の前足のようなものが生えるように出てくると同時に何か斬撃のようなものが俺達のいる方へ向かって飛んできて、立体化させた記憶に当たる。それを見た瞬間、俺もタジムも真っ青になりながら顔を見合わせる。
「…タジム~、あれヤバくなーい?」
「だから、そういうレベルじゃないでしょ!?てか、自分に怒っているみたいで変なカンジなんだけど!?」
「それは、そう」
「あぁぁぁぁあ!!!!」
タジムが取り乱していて機能しないが、俺は自分が連打した部分を凝視する。すると、俺が連打したところが殆ど砕けかけており、そこから縛りが緩くなっているようだ。きっと元通りに縛ればなんとかなるのかもしれない…が、俺にはそれを直すことのできる力はない!!つまりこの状況は…万事休す!!
…みたいなことタカシ思ってるでしょ!?」
「心を読むな!!」
というやり取りをしていると立体化させていた記憶がだんだんと崩れ始めていた。もうどうしようもないんじゃないだろうか!?こうなったら…俺はタジムにあることを提案する。
「タジム、いっそのことアレ、ここに解き放とうか」
「…は?バカなの!?」
俺のその言葉に、タジムは意味が解らないと言いたげな顔をしたまま、今にもあるはずのない唾が飛んできそうな勢いで叫びながら俺の肩をギュッと掴んできた。
「いや、正直それしかないでしょ」
「無理だって!僕達の子の身体が損傷した場合、どうなるか分かんないよ!?」
ファイルに指をさしてタジムはそう言う。確かに、俺達が認識している精神体は多分だが、生物としてのメイン機能そのものなのだろう。だが…
「…そうだとしても、他に手がないんだからやるしかないぞ」
「…」
なんとなくでしかないが、あの鎖は俺達のどっちかに眠っていた呪いのようなものを封じ込めるためのものだったのだろう。それならあの鎖を一度精神体で直接触れて分析をし、砕けた部分の修繕をしてまた元の状態に戻す。それしか手段はない…!
「…分かった」
そんなことをタジムも考えたのだろう。その目は覚悟の決まったものにかわっており、ファイル周辺の空間の状態を把握し始めたようだ。そうとなれば…
「よし…タジム、お前は鎖の分析と修繕、俺はアレの中身の無力化を図る」
「うん。できれば君には、基本逃げの体勢をとってほしいけど…」
「この空間も出来るだけ傷付けさせない方がいい」
「だよね。ここは主に記憶を管理する空間…もしかしなくても、記憶の一部が損傷した場合、今後の生活や活動などに支障が出る可能性がかなり高い。なら鎖が治るまであれを長い時間抑え込んで、最速で戻すしかない」
壁にしている記憶に対し、俺はファイルに近い方、タジムは遠い方から飛び出せるように体の向きを変える。
「とりあえず俺が正面から一度鎖を取り外す。そうすれば多分アレの中身は俺側に飛び出してきて暴れ始めるはずだ。その為にタジムは一回デコイとしてターゲットをもらってくれ。そうでもしないと多分アレに近付けないし」
「わかった」
タジムがクラウチングスタートのような体勢からファイルを軸に大きく回るように走り出すと、ファイルはターゲットとして認識したのだろう。タジムに向かって、爪のようなところからいくつもの斬撃が放たれる。が、その斬撃と斬撃にはコンマレベルではあるが時差があり、その僅かな時間の中で1度も当たらぬよう避けていく。だが、この精神世界に体力と同等の概念が存在した場合、いずれ彼に限界が来てしまう。そう考えた俺は作戦通り、ファイルに緩く巻きついている鎖を取り外す為にそーっとできるだけ早く近付く……すると突如、もう一本前足のようなものがファイルから現れ、先程より斬撃のスパンが短くなってしまった。先程のまでのこの世界で1秒間避けきるのに使う体力を1とすれば、ここからは斬撃の密度を考えれば…2、いや4使うことになる。そしてもし、この量の斬撃を1度でも浴びてしまえば…きっと連鎖的にほとんど全てを食らうことになり、蜂の巣状態だ。そう考えた瞬間、おれはその場からタジムと斬撃までの間にいくつもの記憶をドミノのように立体化させ、後先考えずにギリギリまで近づくと同時にファイルを鎖から完全に解き放った…
グルルルル
その音を認識した時にはその鋭い爪のようなものは眼球の前まで迫っていた。“死ぬ”…その言葉は脳より先に言葉に出ていた。だが俺の生物としての生存本能だろう。1mmの厚みも無いところに記憶を立体化させ、顔全体で受け止めるように立体化させた記憶の横の厚みを膨らませてファイルから自分自身を突き放す。次の瞬間、俺の元いた位置の地面は抉れ、立体化させた記憶も一瞬にして崩壊する。そして残っていたのは…どす黒いオーラと共に存在する、まるで狼のような姿でもあり人間のような姿でもある“ナニか”だった。
「タカシ!!」
「大丈夫だ」
俺は立体化させた記憶の方から聞こえたタジムの声にそう答える。だが、内心では何も大丈夫じゃなかった。
精神世界だからということもあるかもしれないが、ほとんど骨と皮だけに見える“ナニか”から繰り出されるあの破壊力と俊敏性…斬撃以上だ。というか斬撃も使えるじゃん!?マジでどうしよう!?と慌てると自分でも思っていたが、なぜだか俺の心は落ち着いていた。それはきっと、結局最後にはやると選ぶしか無い…そう無意識に理解しているからだろう。俺はそんなことを考えていたが、“ナニか”が高くジャンプするときの猫のように構えて、視線を鎖に向けていることに気付く。
もしかしたらアレはこの鎖が自分を縛っていたことを分かっているのかもしれない…
「よし、とりあえずコレは…っと!」
俺は外した鎖をタジムに投げ渡し、“ナニか”が鎖に飛びつくよりも先に何重にも記憶をドーム状に立体化してタジムを囲った。すると鎖が認識できなくなったのか、グルルルと音を立てながら“ナニか”の視線はこちらに向いた。この感じだと、視認できるものの中から自分にとって危険なものを排除するということか…鎖とタジムは記憶によって完全に見えない、つまり予定通りアイツは
…グヮアウ!!
「俺を攻撃対象にしてくる!!」
飛びついてくるその“何か”の牙は、死神の鎌よりも恐ろしいのかもしれない。
ちなみに立体化した記憶は濁りきった半透明みたいなイメージです