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え?普通ですけど  作者: 高菜哀鴨
第一章 ギルドと、次期領主と、貧困
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記憶

最近無気力でした…すみません

 下の食堂に着くと、そこにはアロナ以外の全員が座っており、それぞれが和気藹々と話している。この状態なら話しかけてもにらまれたり怖がられたりしないは…


「それでさぁ…」

「あ…」

「や、やっほ~…」

「「……」」


 ウェリアは机を軸に俺に対して対角の位置へ、できるだけ近づかないというオーラを出して移動していく。なんだろう…俺が入ってきた瞬間に黙るのやめてもらっていいですか!?俺はグラスの肩に凭れる。するとそんな様子を見たグラスは俺を憐みの目で見てきたので、また俺の心にクリティカルヒットが入るがそこには特に触れないことにしよう。とりあえず俺は厨房の方に行き料理の運搬を手伝う。

 運び終わった後、俺は桜音の隣の席に着きみんなにアロナについて聞いてみる。


「アロナの調子はッどんな感じなんだ…?」

「…」

「知ってても教えないから」

「僕はあなたと話していたから分からないですよ」

「は!?こいつに関わっても不幸になるだけだと思うからやめておきなさい!」

「姉さんは普段からなんでそんな感じなんですか!!」


 やはりアンナとウェリアの反応は予想通りだ。が、他の人もいるので口喧嘩はできればやめてもらいたいのだが…


『あー。マイクチェック、マイクチェック…いやこれマイクじゃないか』

「この世界にマイクなんてないでしょうが」

「この…世界……?という、か誰に話しかけ、て…」

「え…?」

 桜音の声が聞こえたと思ったのだが、ウェリアに震えた声でそう返されて俺は頭をクシャクシャと掻く。あれ?メンタルがギリギリだから幻聴が聞こえたのかな?


『あ、これ幻聴じゃないよ。というか、孝君も私に同じようにしてきたじゃん』

『…?アー…これでちゃんと聞こえたな?…で、桜音はなぜ“念話(これ)”使えるんだよ』

『ふッふーん…!私、天才ぞ?孝君にこれ使われたときに発信の仕方も分かったからやってみたんだー』

『うん、説明になっていない』


 一応“念話”で話しているが、傍から見たら二人でシーンと鎮座しているという何か寂しい空間になっている。すると喧嘩中のグラスが


「タカシさん達どうかしましたか?」


 と心配そうに聞いてくるが、別に特に調子が悪いわけではない。


「いや、腹が減ったから先に食べてもいいか?」

「良いですけど…」 

「よし!ウェリアちゃんも食べ始めちゃおうか」

「…」


 ウェリアは桜音にそう言われるとコクリとだけ頷いてスプーンを手に持ち食べ始める。それとほぼ同時に俺達も食べ始め、“念話”で会話する。


『…それでアロナのことなんだけど、どんな様子だった?』

『うーん…簡単に言えば、“病んでた”。』

『“病んでた”?ちょっと意味が解りたくないナ…』

『いや聞きなさい。今のあの子の状態をもっと簡単に言えば、“ヘラってた”って感じだね。最初にアンナ達と接触したときに襲われた恐怖から半幼児化、孝君が行って帰ってくるまでの間に刺客が来ないかという恐怖の感情の増幅から依存気質に、そして帰ってきて久しぶりに会い君も自分も無事だったことから安心感と“いつか失ってしまうかもしれない”という新たな恐怖からメンヘラ気質へと進化し、君のあの言葉からほぼメンタルブレイク…そして病んだ』 

『…』


 メンタルがこっちまで壊れ…いや、俺は壊れちゃいけないか。とりあえず俺が最初に浮かんだのは…


『…我、食後に彼女の部屋へ強行す』

『うん、扉は壊さないでね』


 俺は机に残っている自分の食事を口へと掻っ込んで使い終わった食器を厨房へと持っていき、口喧ている二人を気にせず食堂を出て、アロナのいる部屋へと続く階段を駆け上がっていく。

 部屋の前に着いた俺はもう一度ドアをコンコンとノックする。だが、やはり扉の奥から反応は全くない。次の瞬間、俺はドアノブ目掛けて蹴りを入れる。宿中に、バゴンッと音が響き渡り宿泊している人間が一堂に集まる…とはならないのである。そう、あっちの領主館でしたように、俺はドアノブを中心に半径10㎝内の音を消したのだ。だから周りの宿泊者には迷惑は掛からない☆俺はドアノブがあったところに指を掛け扉を開く。部屋に入ると、アロナは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして俺を見ている。


「タ、タカシなにしてんの!?みんな集まってきちゃうじゃん!?」

「いや、他の宿泊者の皆さんには迷惑をかけてないので俺としては問題ないよ」


 壊したドアノブ部分を直しながら俺はそう言う。直し終わった俺は流れるようにアロナの方を向いて土下座をする。だがそんな俺の姿を見た途端、彼女の瞳はとても冷たいものへと変化する。


「まず最初に…すまなかった。俺は君が傷付くとわかった上で、あのようなことを言った…だがあのときそうしようとした判断は間違っているとは自分の中で全く思ってはいないし、後悔もあまりしていない…」

「…」

「けど…謝りたいという気持ちに嘘はない!許されるまでは何度でも頭を地面に擦り続け、君に対し贖罪し続けよう」

「…」


 アロナはテクテクと歩いて俺へ近付いて屈み、下がっていた俺の頭を持ち上げ…頬にスパァン!ととても大きな音を出してビンタする。そんな彼女の目からは涙がポロポロと落ちている。

「『あまり後悔もしてない』…?どっちかハッキリしてよ!別に「後悔してない」って言い切るのならそれでいいし、後悔してるならそれはそれで受け止めるよ…でも君はどちらも取ったようでどちらも選べていないんだよ」

「…」

「私は今、自分が君へどんな感情を抱いるかも分からない。そんな状態で君がいると、自分が完全に戻ることの出来なくなるくらい壊れてしまうかもしれないと思う程怖くなるんだ…!」

「アロ…」


 俺は、そう言って俯き嗚咽を漏らしながら泣き出してしまったアロナにそっと触れ…れる筈がなかった。その後何も言うことが出来なく、俺は部屋から出ていく。そのまま隣の自分たちの部屋へ帰るとへたりと壁に凭れてグシャグシャと両手で髪を掻きまわす。

 そのあとの記憶はなく、俺はいつの間にか眠ってしまう。



「タカシ、お前ってバカなの?」


 またも、夢の中にタジムが現れたと思ったら、第一声がそれだった。


「ひどくね?」

「ひどいのはお前だ。なんだあの、理解しようとするだけで国語の読解力のテストみたいな気分になりそうな文章は」

「えぇ…」

「『えぇ…』じゃねぇよ!とりま、そこ正座しろ」


 言われるがまま、俺はタジムの方を見て正座する。


「あの、先に聞きたいんだけどさ。お前なんでそのこと知ってるの?あと、『国語のテスト』とか『とりま』とか…」


 俺はそう言った。以前は何故か俺の体内?魂の仲?でスリープ状態みたいになっていて例の錬成でパニックになっていた上に事情も知らないし、俺もタジムの記憶等はわからない…つまり記憶の共有等はしていないはずのタジムが先程起きたことを知っているのか謎でしかない…そう思い質問したが、返ってきた答えは単純?なもので…


「ほとんどリアルタイムで記憶を覗き見ていたからだけど?」

「ほへ?」

「んで、言葉もそこからって…おい、口から煙出てるぞ!なんかすっごいアホ面だし!!」


 え?記憶の共有ってできるものなの?というか最近「とりま」とか使ってないし、まさか過去の記憶も見られた…?そう自問自答する余裕も段々となくなっていく程に脳の情報処理速度が追い付かず、普段の生活に使っている脳のリソースもほぼすべてまわすが、それでも理解ができないという状況。


(あー。めのまえからあしがちかづいてくるー…)


 次の瞬間、精神体のはずなのに、俺はタジムの膝蹴りを食らい、何も見えなくなり、一時的にシャットダウンしてしまう。

 …暫くし、また精神体として俺は動き出した。殆どの情報が処理できた今、タジムの説教タイムが今度こそ始まる。


「まずさー…相手が怒る可能性の方が高いと思わなかった?俺ならあぁ言われたら他にも誰か呼んでリンチにするよ」

「ハイ…」

「それにさ、シンプルな謝り方で良かったんじゃないの?」

「いや、なんかそれじゃダメな気がして…」

「今よりはまだいい方だったと思うけど?」

「…」


 俺は黙り込んでしまう。だって自分でも変だとは少し思っていたけれど、シンプルな謝りだったら本当の自分の気持ちが伝わらないと思ってしまった…そんな自分自身に呆れてため息を吐いて言う。


「…やっぱり俺はダメなやつだな…」

「ハァ…問題。この後タカシが彼女にすべきことはなんだ?」


 俺は少しメソメソとして答える。

「か、彼女に早く謝る…?」

「はい、ブー!」


 タジムは腕をクロスさせてバカにするような顔で言った。


「今謝ったら多分余計に相手をイライラさせてしまうよ」

「じゃあ正解は…」

「本当は自分で答えがわかる方が良いんだけど…今回は教えなきゃこの後の仕事に支障が出そうだしな、僕の答えを教えよう。ただし、それをあまり当てにしすぎてもダメだからね?俺の答えが本当に最適かは分からない」

「うん…」

「とりあえず俺の答えは…“逆に少し時間を空けてから謝る”かな。正直これも半々かなとは思うけど、とりあえず今の状態はそっちの方がいい」

「わかった…ありがとう」


 俺は立ち上がり、礼をする。顔を上げ、タジムの顔を見ると、なんだか妹や弟を見守る兄のような顔をしていた。


「そういえば、記憶ってどの辺まで見た?」

「それについてなんだが…数箇所、色々と試しても全く見ることのできない記憶があった」

「あー…もしかして俺のトラ…」

「いいや、それじゃない」


 そう言って何かパネルのようなものをタジムは動かし始める。するとパソコンのフォルダのような形をしたものがいくつも浮かび上がる。


「これは…?」

「君と僕の記憶だ」

「え、お前のも入ってるのか?」

「多分だけど、僕の記憶と精神…心は半分分離しているような状況なんだと思う。多分この空間内でならタカシが僕の記憶を閲覧することも可能だよ…で、だ」


 タジムは慣れた手捌きで記憶をスクロールしていく。そして俺たちの目の前には…鎖や茨などが纏わりついているファイルが3つ現れた。

最近これ書いている人はウマってます。

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