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守護者の理由

第五話です。


「のぉぉぉぉ!」

「覚えてなさいよー!」


 二人分の女性の悲鳴が上空へと掻き消えていきます。

 私、一文字日向(ひなた)はそれをもう感慨深さも恐怖心もなく、ただ淡々と無感動に見送ります。春休みから一ヶ月とちょっと。命を狙われ続けているので慣れてしまっているのでしょうか。


 少し離れたところで、ヤンキーキックのポーズのまま立っている青い服装の女の子がいます。先ほど、私を狙ってきた方々を蹴飛ばしたのは彼女です。ただ一発の蹴りで二人まとめて空の彼方まで吹き飛ばすという、まるで御伽噺のような事を平然とやってのける方です。


 名前をヘル・ディースゼロといい、私を守るために異世界からやってきた、正真正銘の冥府の女王様なのだそうです。顔はいつもしかめられていて、目付きも険しく、纏っている気迫も尋常ではありません。手に持っている鎌もあいまって、まるで死神そのものですが、この世のものとは思えないほど美しい人です。そして、私をどのような状況であっても助けてくれます。

 私は地獄とか死後の世界は嫌いですが、この人に対する恐怖感があまりないのは、そうした要因があったりするからかもしれません。


「ありがとうございます」

「いい。それより、今日の夕飯は何だ」

「たぶんロールキャベツだと思います。お母さんが昨日キャベツとトマトケチャップを買ってきていましたから」

「そうか」


 それだけ言うと、ヘルさんはさっさと歩き出しました。彼女は戦いが終わると、私が学校にいる間はどこかへ、それ以外の時間でもう誰も襲ってこないと判断すれば早々に私の家に帰っていきます。


「もう少しでラスボスが倒せそうなんだ」


 暇な時間、私の部屋でゲームに勤しむヘルさんの口癖です。ついこの前まではスーファミをプレイしていましが、最近はプレステを飛ばしてプレステ2に移行したようです。この前の日曜日、プレイ中に「この女だったらエインヘルヤルになれただろうに」とつぶやいていました。さらに潜水艦を操作しながら「ラーンなら簡単に探し出せるものを」ともつぶやいていました。

 気難しい雰囲気を持ちながら、ちょっと可愛いところもあって、私はこの人が嫌いではないです。


「日向、新しいゲームを出してくれるか?」


 家に帰り、自室で着替え始めた私にヘルさんがそういいました。画面を見ると、エンディングシーンが流れています。


「ラスボスと戦ったと思ったら、一撃で勝負がついてしまった。ふむ、この男もエインヘルヤルだな。いい敵となるだろう」


 中々に真剣な目つきのヘルさん。確かにそのゲーム、ラスボスの次に本当のラスボス戦が待っていましたが、実は主人公の必殺技で一撃で片がついてしまうんですよね。


「次はアクションものをやりたい」


 そういわれたので、押入れの下段に仕舞ってあるダンボール箱からいくつかディスクを取り出して並べます。

 タイトルを一通り見渡してヘルさんが選んだのは、私のお兄ちゃんが昔遊んでいたロボットアクションです。パーツを組み替えて自分だけのロボットを作れるのが特徴で、お兄ちゃんは下半身をタンクにした重装甲プラス大火力のロボットを愛機としてしていました。

 私が台所でジュースを入れてくる間に、ヘルさんは最初のステージをクリアしていました。


「これがテストか。温いな」


 どうやら無傷で終わらせたみたいです。後、流れてくる台詞やメッセージが全部英語表記でした。ヘルさんは見た目が西洋人なのですが、日本語は流暢ですし、英語だけでなくほかの言語による会話や筆跡もできるというすごい人なのです。

 冥府の女神の名前は伊達ではないということでしょうか。


 と、ヘルさんが最初のミッションを受けるようです。このゲームはミッションを進めていくことがストーリーの進行につながります。いやなミッションも中にはあるので、選ぶのはプレイヤー次第です。


 そういえば。

 ヘルさんも、何かの依頼で私を守りにこの世界にやってきたと言っていました。私は内容まで知りませんが、言葉通り、彼女は私を守ってくれています。たとえどれだけ理不尽な力を持った相手にでも。


「ヘルさん」


 読み込み画面に変わったとき、ふと声をかけます。何だ、とヘルさんが口を開きます。


「ヘルさんが受けた、私を守るという依頼は、一体誰から受けたんですか?」


 画面がステージへと変わります。オペレーターが何かをしゃべっていますが、英語でよくわかりません。ヘルさんはぽちぽちとコントローラーを操作し、機体を動かし、危なげなく敵を倒していきます。


「お前を守ってくれと、そう願った奴が依頼をしてきた。自分には守る力がない、と嘆いてな」

「その人は一体誰なんです?」

「教えることはできない。しかし、まぁいいだろう。優柔不断で頼りないな、と思う奴だ」

「と言いますと?」

「そのままだよ」


 淡々としたいつもの口調の中に、どこか苦味を感じます。


「もう少し溌剌としたお前、みたいな奴だ。お人よしで、その癖に怖がりで、信じる道を行こうとしてもがいている」


 最低限の動きで敵を倒し、ボスをあっさりと倒して、ヘルさんはクリアしました。


「そいつがどうやってお前のことを知ったのかはわからない。ただ、見つけた以上見捨てておけない、しかし自分は別の任務に今ついていて、同時にこれを遂行することはできない、と」


 だから、とヘルさんは次のステージを始めながら振り返りました。


「私が来たんだ」


 言い終わると画面に視線を戻して、それっきり晩御飯まで何もしゃべってくれませんでした。


 私は机の引き出しに入れてある契約書を思い出します。

 最初に出会ったときに渡されたそれに名前を書きました。でも、依頼者が他にいるなら、保護対象である私に契約書を書かせた理由は何だったのでしょうか。それも丁寧に「危険が付きまとう」ことを前提で書かれたものです。関わっていく以上は、納得しろといわんばかりに。


 でも、それはこれまでの日々で嫌というほどわかりました。いつ、どこで襲われるかわからない恐怖が最初はあったのですが、ヘルさんはそのすべてから私を守ってくれました。だから、今ではすっかりヘルさんに頼りっきりで、戦えない、守られている私にどうこう言う資格はありません。


 ただ、守ってもらっている感謝に、私は彼女に家に来てもらっています。

 私ができる、精一杯の感謝の印として。


「よし、こんなものか」


 ヘルさんの声に顔を上げれば、画面に映っていたのは二足歩行型で遠距離からゼロ距離まで対応できる玄人染みたロボットのステータスでした。あの剣、完全近接武器の上に当てにくい事で有名ですが威力はかなり高いです。


「さて、夕餉にでも行くか」


 そういって、ヘルさんはテレビとハード機の電源を切って立ち上がります。


「あ、待ってくださいよ~」


 ワンテンポ遅れて私も立ち上がり、ヘルさんのあとについていきます。ドアを開けたとたん、とてもおいしそうなにおいが鼻をくすぐりました。




ヘルと日向家の仲は良好で、日向母と父がヘルをもう一人の娘のように接している感じです。

日向兄は妹が増えた感じでいて、少し惹かれている……そんな感じだったらいいな、と!!(殴

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