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永遠の愛 〜恋人生活3億日〜

作者: ふらみんご

ことり。

ほかほかの白米をテーブルに並べ終わると2人分の食事の準備が終わり手持ち無沙汰になった私はソファーへと腰を下ろした。


同棲し始めて早一年。最初は慣れなかった家事もいまではすっかりお手の物だ。昔は1日でお皿を3枚もダメにしてしまったり、お水の量を間違えてべちょべちょのご飯を炊いてしまったりしたなあと思い出しながらぼんやりとテレビを眺めていると私のお気に入りの芸人さんが登場し、その独特のおもしろさに声を出して笑ってしまった。


そういえば、この芸人さん、彼も好きだったな。ふとそんなことを考えて今隣に彼がいないことを寂しく思う。彼は今何をしているのだろう。


そんなことを考えていると私の携帯が着信を告げた。着信は彼からで仕事が早く終わったためもう少しで家に着くという内容だった。あまりのタイミングの良さに思わず笑みが零れる。あと10分くらいか、何をしよう。


ぐるりとリビングを見渡す。ふと、日記をつけ始めようと思ったんだったと思い出した。そう思った理由は特にない。ただなんとなく今の質素で平凡で隣に彼がいるかわりばえのない、だけどとても幸せな日常をずっと残していきたい、そう思ったのだ。


表紙に2羽のフラミンゴが寄り添う絵が描かれた可愛らしい日記帳を引っ張り出す。


この日記は彼と1日交代で交換日記みたいにして2人で書けたらいいな。そうやって何冊も何十冊もずっとずっと。

ぱらぱらとページをめくりながらそんなことを考える。自然と口角が上がるのを感じた。


内容は後でいいや。取り敢えず表紙に名前を書いておこう。

黒色のネームペンを取り出す。まずは彼の名前を書いてその横に自分の名前を並べる。


 田村りさ


なんだか嬉しくなって、少し書きはじめてしまおうかと日記の初めのページをめくる。

そのとき。


がちゃり。玄関の開く音。続いてただいまと心地よいテノール。リビングへと続く扉が開き、ひょこりと彼が姿を現した。

一応隠しているつもりなのか背中の後ろで何かをもっているけれど、ところどころ赤色が見え隠れしている。それなのにばれていないと思っているのか目を輝か瀬田こちらを見つめる彼に私はついふはっと笑い出してしまった。彼は一瞬驚いたように目を丸くした後すぐに唇を尖らせて拗ね出してしまう。

可愛いなあ。どうしてあれで隠せていると思ったのだろう。


「隠そうとしたけれど、大きすぎたんだ。」


大きな体を縮こまらせてもごもごと言い訳する姿に不覚にもときめいてしまう。


「あー、もう!」

彼が吹っ切れたように声をあげた。

「なんか締まらないけれど。 これからも……よろしく」


そう言って差し出されたのは108本の赤い薔薇の花束。


まるで漫画の世界での出来事のようだけれど、様になっていてドキッとしてしまった。

何やっても様になっちゃって、このイケメンめ。

そっと心の中で悪態をつく。


そろりと彼を見上げると微かに頰が朱を帯びているのをみて心が締め付けられる。ああ、彼は本気だ。本気で私のことを想ってくれている。


108本の赤い薔薇の花束とこれからもよろしくという言葉。この言葉は一見普通のなんの変哲も無い言葉に聞こえるかもしれない。

だけど私には熱烈な愛の言葉に聞こえた。

薔薇の花によってこの言葉は特別なものへと変化する。


好きや愛してるを超える最上級の愛言葉。


ふと彼が視線を落とし、次の瞬間大きく目を見開いた。彼の視線を辿るとそこには私が先ほど名前を書いた日記帳。


それをじっと見つめていた彼が私の方へゆるりと顔を上げる。その双眸はくしゃりと歪められており目尻にはつやつやとした涙が浮かんでいる。

震える声でりさ、と私の下の名前を呼ぶ彼に思わずくすりとわらってしまった。


と次の瞬間私は彼の逞しい腕の中にガッチリと閉じ込められる。ふわりと彼の太陽のような爽やかな匂いに包まれて静かに目を閉じた。この匂いを嗅ぐととても穏やかな気持ちになる。


「よかった。 りさが後悔してないみたいでよかった」

そう言ったきり黙り込んでしまった彼に苦笑してしまった。


「ねえ」

彼の匂いをめいいっぱい吸い込んで私はそっと話し出す。

「素敵でしょ。 私、自分の名前の響き、凄く気に入ってるの。 前のも凄く良かったけれど今のはもっと」


ぎゅう。潰れそうなくらい強く抱きしめられる。


そして実感した。ああ、通じている。私と彼の想いが。やっと。胸がきゅうと締め付けられた。痛くて苦しくて狂おしいほど幸せで。じわり。目に涙が浮かぶ。


突然彼がそっと私の体を押す。向かい合って見つめた彼の目が濡れていてなんだかいけないものを見たような気分になり慌てて目をそらす。


「ご飯冷めちゃうから」

恥ずかしさからそんな場違いなことを口走る私に彼はなんの反応も見せない。


怒らせちゃったかな。

そろりと視線を彼へと向ける。刹那、息が止まった。

どうして、そんな目をするの。

愛おしいものを見ているみたいな目。彼の決して大きくはないけれどぱっちりとした美しい瞳には深い慈しみの情の中にかくしきれない色欲の念が現れている。


そんな彼の瞳に私はすっかり囚われた。


ゆっくりと彼の端正な顔が近づいてくる。

その距離僅か5センチ。でも私は目を離さない、否目を離すことができない。

残り4センチ、3センチ、2センチ。顔が熱い。恥ずかしい。顔を背けたい。しかし彼の瞳に囚われあがらうことができない。

残り1センチ。諦めたようにそっと目を閉じる。恥ずかしい。この場から逃げてしまいたい。だけれどずっとこのままでいたいと思う私も居て。嗚呼、シアワセすぎて狂ってしまいそう。

残り0センチ。唇に暖かな感触。一瞬触れてすぐに離れてしまった彼のソレを追って自らかぷりと食らいつく。ああ、本当にほんとうに幸せだな。心がじんわりと暖かくなる。


涙が一筋頰を流れた。











机の上に置かれた真っ白なプリントと

フラミンゴの日記帳。


プリントには 「清水りさ」の文字が、そして日記帳には2つの名前が寄り添うように並べられていた。









田村あらた 田村りさ










明日私達は結婚する。

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