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王子、怒る

 右手にワインボトル。左手にはワイングラスが二つ。さあて、ぶっ潰す。

 ディオクの私室の扉を肩で押す。案の定、色気のいの字もないディオクは机に向かって何かの書類を書いていた。


「ただいまディオクちゃん! 大好きなお兄様のお帰りだぞ!」


 目が合った瞬間、嫌そうな顔を向けられる。そうそう、これこれ。今夜はずっと嫌がらせをしてやる。毎日毎晩だ。


「はあ、兄上。その気持ち悪い言葉遣いと気持ちの悪い表情を止めて下さい。それにノックもせずに……」

「ノックしたって無駄だろう? いつもそこに座っている。生真面目堅物男め。ほらほら、帰国疲れを我慢して、兄弟の中で一番最初に君に会いにきたのだから相手をしてくれ」


 勝手にソファに座り、晩酌の準備。思惑通り、ディオクは少し嬉しそうな顔をした。なんと可愛い弟。

 ちゃらんぽらんながらも、仕事の出来る優秀な義兄を好きなことは知っている。既にフィラントと晩酌してきたが、ディオクの自尊心を擽るのに、この嘘は効果覿面だ。


「表向きの土産は、明日の報告会で目録を渡す。これは完全に私的なお土産。試飲してきたけど美味かった。仕事ばかりしていないで遊びや息抜きも覚えろ」


 呑気な笑顔で手招き。ディオクは不服ながらもどこか嬉しそうな表情で私の向かい側のソファへ腰を下ろした。

 ディオクが私に話があるのも分かっている。


「遊びや息抜きも覚えろって、兄上は度が過ぎています。明日の報告会の前に話があるので丁度良かったです」

「そう思って、こちらから来た」


 呆れ顔をやめて、真摯な表情になるとディオクは背筋を伸ばした。口を開きかけた時に、パチンと指を鳴らす。


「結婚? しないよ。どういう報告を受けたか知らないけれど、君は私を怒らせた」


 私の場合、睨むよりも笑う方が効果的。ニッコリ笑う。ディオクは微笑み返してきたけれど怯んだ。


「大事な外交前に、健気な妹を潰そうなんてロクでなしに育てた覚えはないぞ。部下の教育もなっていない。自由にさせすぎだ」


 話す隙、弁解の余地は与えない。


「読みが甘いよディオク君。私の大事なものは何か知っているな? リチャード兄上とフィラントだ。その妹を手駒にして傷つけようなんてどうなると思う? ぺちゃんこに潰しやがって」

「兄上、ま……」

「待つか。流星国フィズ国王は私やフィラントのような優秀な人材が欲しいそうだ。大国大蛇の国の頂点ドメキア王の右腕のルイ宰相がレティアを欲しいという。ゴルダガを使ってアルタイルを潰してでも、どうしても欲しいと。こういう場合、まず全力で抵抗してみて、もう無理だと思った私が最後に選ぶ道って何だと思う?」


 逃げきれない場合、どうするか考えた。何を手に取り、何を捨てるか決める。いつもそうやって取捨選択してきた。


「愛するレティアは渡さない。となると生き残る方法は、巨大権力の下について役に立つことさ。ルイ宰相の上にいるのは、ドメキア王やフィズ国王だ。その場合、君にこのアルタイルをあげよう。巨大国家に兄と妹を持つ、見た目良し、頭脳明晰の国王陛下だ」


 パチンッと指を鳴らし、華麗なウインク。フィラントやエトワールに見せた姿と、ディオクに見せる姿は別。それぞれに合う、相手に響く効果的な態度が必要。全部自分。上手く使い分ける。


「いきなり何の話ですか兄上。怒らせたって……」

「賢い君なら分かるだろう? 私は兄上がいるからアルタイルを愛するだけで、兄上のいないアルタイルなど要らん。フィラントは絶対に私の近くから離れない。さて、新しい妹は君が仕掛けた罠を知った時、誰を選ぶかな?」


 パチンともう一度指を鳴らし、コンコン、コンコン、とテーブルを指で叩く。


「かつて、兄や弟を蹴落とそうとして、国を食い潰そうとしたビルマ兄上と同じ道を辿れ。但し、幽閉ではなく、孤高の王だ。ディオク・アルタイル」


 ここでひと睨み。情け容赦はいらない。激怒だと見せないと舐められる。

 ディオクは笑顔を崩さずに「何の話ですか?」としれっと告げた。ほんの少し、声が上ずっている。


「兄上は我ら兄弟で共にこの国を治めると誓った。足らぬ力を家族で補い励むとな。ディオク、お前は兄上の顔に泥を塗った」


 声は低く、速度は遅く。見下ろすような目線で見据える。


「読みが甘い。レティア・アルタイルをフィラントの友の妻にしようとしていた。それだけで、私の中で彼女の価値がどれほどなのか読めるよな。読み違うとは阿呆だ。それとも何? 私を怒らせても怖くないと思った? 兄の役に立つから喜ぶとでも? 私は王子の座や国王宰相の座にも執着心は無い。あるのは兄上やフィラントへの執着心だけだ」


 一瞬、ディオクは不味いという隙を見せた。ここで睨むのはやめて、困り笑いを浮かべる。過剰な攻めは非常に危険。引き際は大切。


「まあ君の気持ちは嬉しい。逆の立場で考えると、同じ事をしただろう。君は私を信用しているからな。ミネーヴァから聞いた。表向きだけで良いし、いっそ口説き落とせば良い。エトワールも喜ぶってね」


 緊張が解けたのか、読み通りと思ったのか、ディオクは安堵の表情を浮かべた。


「ええ兄上。その……」

「おい、安心するな。ディオク、ロクサスの事後処理を間違えたら、お前はアルタイル王だからな。優秀な人材は私が根こそぎ貰っていく。空っぽな国で一人で励め。国という重圧を一人で背負え。君は母親の想いや、思い出の詰まったこの城や、数々の従者などを決して捨てられない。でも私は捨てられる。君を信用しているからな」


 微笑みかけて、ワインボトルの栓を開ける。抜いたコルクをポーンとディオクの額に向かってぶつけた。


「リチャード兄上も捨てられる。だって国を潰されるって脅されたら選ぶさ。兄上を脅す方法は色々ある。フィラントはアルタイルなんてすぐ捨てる。彼の中の優先順位は妻と子供が最優先。その次は私だからな。この国に助力するのは、妻や子供の良い暮らしの為と、私が心血注いでいるからで愛国心ではない」


 あはは、と呑気に笑いながら、ワインボトルを手にする。ディオクの笑顔が消えた。それならここで、再度睨んでおこう。突き放すような、吹雪にようだと感じるだろう眼差しを投げる。


「ディオク、二度目は無いと覚えておけ」

「兄上、何故ここまで怒っているのか……」

「分からない? だから読みが甘いと言ったんだ。何事も最悪を想定して動け。私と反目しても構わないという覚悟もないくせに、私のテリトリーに手を出すとは愚かだ。それとも敵対したかったか?」


 ここまで言えば、本気で怒っていると伝わるだろう。ディオクの顔色が悪くなる。


「というわけで、君に私の宝を預けよう。弟だから許す。部下とか側近だったら別だけど、ディオクは私の可愛い弟だ。今夜より君は私の可愛い天使、レティア・アルタイルの後見人を任せる。彼女は凄いぞ。大蛇連合国で人脈を築き、かのドメキア王にも興味を持たれた」

「えっ? あの……」

「大事にした方が良い。傷つけようとすると、国の存亡に繋がる。極秘情報だが、国外に出すとこの国の加護が失われるそうだ」

「そうなのですか? あの、いや、兄上……そんなに怒らず……少し俺の話を……」

「聞かない。兄妹で仲良く。簡単な話さ。さて、ディオク。君の発想は良かった。しかし手順を間違えた。レティアとロクサスをぶち壊そうとする前に、私に直接話を持ってくるべきだった。部下ではなく自分でだ。私が自ら動かない時点で、何か思惑があると察しろよ。裏でこそこそ、勝手に動くなんて、悲しかった」


 ワインをワイングラスへ注ぎ、はいと渡す。怒ったけど、君の気持ちは嬉しいというような表情を作る。

 ディオクはワイングラスを受け取らないで、気まずそうに俯いている。


「結婚する話、本当ですか? 報告を受けた限りだと違うと思ったのですが。それでここまで怒って……」


 滅多に見られないディオクのしょぼくれた姿は、少し可哀想。怒られた理由を咀嚼しても、理解出来ないらしい。それなら、もう少し説明しよう。元々、そのつもりだ。


「結婚話は本気。でも不正解。ロクサスという男は、フィラントの数少ない友人だ。フィラントに情け無いと言わせ、落胆させるなんて許し難い。生真面目で、陰謀策略を苦手とする、清廉潔白な官僚に汚点や悪評をつけるなんて今の国策に悪影響。ディオク、君は視野が狭い。私の背を追いかけているならもっと学んでくれ」


 ほら飲めよ、とディオクの胸元へワイングラスを押し付ける。


「私が利権の為にレティアを口説き落として、ロクサスから横取りしたと流せ」

「待ってください兄上」

「君がしなくても、私はそうする。協力するかしないかは自分で決めろ。当事者は真実を知っている。甘んじるしかないロクサス・ミラマーレは悔しくてならないだろう。健気な王女様を殺そうとした罰だ」


 ワイングラスを見つめ、その中の白ワインを眺める。小さなグラスの中の狭い海。

 貴方しかいませんという、曇りの無い信頼に胸を打たれたけれど、レティア・アルタイルは広い海へ出るべきだ。

 酒と女にだらしなくて、病的なまでに個人に執着する、優しくも格好良くも無いユース・セルウスを選ぶかどうかは賭け。けれども考え、悩み、選ぶ時間を与えたい。その上で選ばれたい。今のままだと、単にロクサスの代替え品だ。

 隙間に漬け込んだのは自分だけど、だから迂闊に手を出せない。単にあのまだ子供っぽい、無垢な感じに手が出せないというのもある。

 

「殺そうとしたって、どういう意味です? たかが失恋ですよ」

「たかが? それは君が恋愛をしたことがないからだ。私はついこの間、読み間違えて刺し殺されかけたぞ」


 ディオクはようやくワイングラスを受け取った。私がもう演技をしなくなったからだろう。今から兄が話す事こそが、今夜の本題だと察したに違いない。

 背もたれにもたれかかり、脱力する。怒るって疲れる。


「それは兄上の手癖の悪さが原因で、読み間違えとは違いますよね?」

「んー? 予想外だったけど、一応護衛はついていた。愛なんて全く囁いていなくて、やったら即終わりなのに、こう、なんで心中を図ろうとしたのか分析中。恋人候補も接近中だったのにさ。人の心って複雑さ」

「兄上がなんだかんだ甘くて優しいからですよ」

「見習うべきだよディオク君。誰かを使う時は、両得になるようにしないと必要以上に恨みを買う。今回だと、ロクサスの評判のフォローとレティアのケアをちっとも考えていなかったことで私の恨みを買った。疲れて大変でも、手間暇かけないと。あと信じていても確認した方が良い」


 白ワインを口に含む。重たくて、辛めのワインの良さは、まだディオクには分からないだろう。

 案の定、ディオクは「苦っ」と口にした。


「はい。すみません。はあ、これ。随分飲みにくい……。嫌がらせです? そんなに怒るとは思わなくて……」

「そっ。人の地雷がどこにあるか予想するのは難しいってことさ。私が刺し殺されかけたようにな。見極めは大切。あーあ、君のせいで疲れた。恋敵の背中を押すことになり、惚れた女の可哀想な姿を見せられ、最悪だった……」

「その件なのですが、あのー、本気です? ミネーヴァから俺の読み通りユース兄上は、ロクサスのフォローとレティアのケアに回ったようですけれど、先程から……」

「だから怒っているんだ。お兄様に苦労をかけさせようとは小生意気! で済まないのは、惚れちゃったから。レティア・アルタイルは私の3番目の宝物。今回は許すけど、2度目は無いぞ」


 満面の笑みで、指を鳴らす。脅迫第二弾の始まり。


「その宝物の後見人になれるなんて、嬉しいだろう? 私を脅したい放題だ」

「こ……。ん? うぅ……」

「お兄様は、滅茶苦茶怒っている」

「まさか、くす……」


 ソファに倒れ込むディオクを眺める。薬で正解。怒って口先だけで脅しただけで、怒りなんて伝わるはずがない。苦痛や犠牲を伴う経験は身に刻まれる。


「し、び、れ、薬。さあ、可愛い弟のディオク君。大好きな人参を食わせてやろう」


 ポケットに入れてきた瓶を取り出す。人参のすりおろし入り。ディオクは嫌そうな顔はしたけれど、安堵も見せた。嫌いな人参くらいで済む。その安心は命取り。


「それともこっちが良い?」


 反対側のポケットから出したのは、ディオクの大嫌いな蜘蛛が入った瓶。小さい蜘蛛の死骸が沢山。途端にディオクの目の色が変わった。


「ディオク、利用して蹴落とす相手については、十分な調査をしなさい。ろくに話しもせず、仲良くなろうともせず、不幸を願うとは酷い兄だ。リチャード兄上を見習え。妹とどう交流するべきか、母親やエトワールに相談している。どうやったら王女としての地位を確立させてやれるか悩み、私に助言を求めた」


 ディオクの頬が引きつっている。かなり弱い薬なので動ける筈だが、私がここまですると思っていなくて、驚きで動けないのだろう。


「他にも理由はあるけど、レティアを外交官にしたのはその為だ。レティアは期待に応えた。予想以上にな。あの子は運が良いのかもな。なにせ謎の蛇に愛されている。心配で付き添って良かった。危うく君のせいで台無しになるところだったぞ」


 顔面蒼白のディオクに笑いかける。私が怒ると、どこまでするか、ディオクは知らない。


「エトワールは妹が出来たと喜び、自分のテリトリーに迎え入れる気満々。そうなるとフィラントも同じだ。コランダム様の覚えも良い。ディオク君だけだぞ。自分の妹を殺そうとしたのは」

「こ……ころ……殺そうとした……なんて……」

「そう? 君、妹の為に何か手配した? ミネーヴァがいたな。だから許そう。自由過ぎるが良い部下だ。私を怒らせると怖いと、君の計画を暴露した。きっと君にも忠告していただろう。レティアのケアをしようとしたり、私の恋を応援してくれたから、彼女に褒美を与える。主の君への許しだ」


 蜘蛛死骸入りの瓶の蓋を開ける。ディオクに覆い被さり、馬乗りになった。暴れる気力がないのは、恐怖故だろう。ディオクは温室育ちで、あまり痛い目に合ったことがない。


「レティア・アルタイルを傷つけたから怒っているのではない。激怒の理由は家族への裏切り行為だ。ディオク・アルタイル。王座という権力に目がくらみ、家族を裏切ったビルマ兄上のようになるなど許さん。今回は忠告だ。もう1度言う。2度目はないからな」


 コクコクと頷くディオクの口の中に、すりおろし人参の瓶を突っ込む。口の中に中身が入ったのを確認し、ディオクの口を押さえた。

 ディオクの目と鼻の先で、蜘蛛の入った瓶の蓋を閉める。すりおろし人参を飲み込み終わるまで待機。頃合いを見て、むせるディオクから離れて、向かい側のソファに座り直す。


「ゲホッ、ゲホッ。おええええ……。うえっ。なん……ここ……で……」

「何でここまで? 私がビルマに兄上とつけた理由は何だと思う? いくら大嫌いで、ろくでなしで、血の繋がらない兄でも、兄弟喧嘩の挙句に内乱罪で幽閉とは、まだ胸が痛む。そうリチャード兄上が言うからだ。何かしてやれたかもしれない。リチャード兄上がそう思っているからだ。兄上が、いつか害になるかもしれないのにビルマ兄上を幽閉にして、斬首刑にしない理由を考えろ」

「お、俺はユース兄上の為に!」

「その考えは、王位継承位第4位の息子を王にしようと国を荒らした女や、不相応に権威を求めたビルマ兄上に通じるぞ。王になりたければ兄弟で話し合えば良いのに、足を引っ張ったり、殺そうとしたり。誰かの為に人を蹴落とすのは構わないが、家族は止めなさい。また国が荒れる」


 殴りかかられたので、素直に殴られた。避けられるし、痛いけど、自業自得。今夜の私はやり過ぎだ。


「ここまでする程のことじゃない! 兄上達を殺そうとしたビルマと一緒にするな! 私欲で民を滅ばそうとした男なんかと一緒にするな! 何の権力も持ってない娘で国が荒れるか!」

「いいや。だから視野が狭いと言ったんだ。兄に話さず秘密裏に動く。妹の幸福を壊す行為は不仲を招く。それは軋轢に繋がり、軋轢は政治を巻き込んで国を荒らす。同じだ」

「それなら兄上もだろう! 自分勝手な傍若無人! こんな真似をして俺を怒らせたら、それこそその話になるだろう! 屁理屈言うな!」


 こめかみを本気で殴られて痛い。次は胸ぐらを掴まれた。苦しい。逃げられるけど甘んじる。殴られても仕方ないことをした。今夜の私はやり過ぎだ。


「うえっ、やめろディオク。一服盛られたのに元気だな。だって君は何だかんだ私が好きだから安心して喧嘩出来る。お兄ちゃんにアルタイル姓をって考えは嬉しかった」

「微量すぎるからだ! 結局甘いじゃないか! それにここまでするなら、そもそも先に色々教えろよ! リチャード兄上のこととか、エトワール姉上のこととか! 俺を試したんだろう!」

「いやそれは違う。試してない。疲れたりいっぱいいっぱいで、気が回らなくてすまなかった」


 悪いと思うから素直に謝った。ディオクがぶすくれ顔で私から手を離す。


「何で謝るんだよ! ここまでしていきなり謝るとか狡い! それに兄上はいつも手一杯だろう! 俺は、俺は悔しくて……。誰よりも国を支えているのに……兄上が色々言われてて……。役に立つと思って……。まさか気を配れるロクサス・ミラマーレが外交直前にレティアを潰すなんて……」

「だからそこではない。妹に恨まれるような策を練るなってことだ。私の為だけではなく、国外に売り飛ばそうとか、政略結婚させようとか、色々考えていただろう? この国は兄弟が仲良くしていないと荒れる。もう経験済みのことなのに、忘れているようだから怒った」


 ぽんぽん、と頭を撫でた時のディオクは不満げな顔。


「兄弟仲良くって、それなら薬を盛ったり、蜘蛛を食わせようとするな……」

「何でそこまでしたか考えろよ。それにしても君、人参嫌いだったんだな。ミネーヴァから弱点一個ゲットした」

「あいつ……。何でそんな余計な……。まあ、それなら兄上にも新しい弱点が……」

「そう、君の新しい妹! しかし、私の新しい宝物はもう君の手の中だ。後見人だからな。私を生かすも殺すも自由。何故でしょう? 考えろよ」

「嬉しくない。考えろ、考えろって、兄上こそ話せ。いつもいつも……。何だよ……」


 納得したような、していないような、複雑な表情を浮かべながら、ディオクは小さく頷いた。


「3人の兄が仲良しで実は不貞腐れているって知っているからだ。君は弟なのに変な奴。お兄ちゃんの為に動くなんて可愛いから、たまには構おうと思って。で、説教の次は相談だ」


 睨まれたけれど、少し照れが混じっている。可愛い奴。腹を殴られたけど痛くない。しかし、こめかみはまだ痛い。

 本気の喧嘩をした方が、今後のわだかまりが無いと思って挑発し過ぎた。ディオクはどうせ、ミネーヴァから詳細な報告を受けていない。レティアの性格を知って、ダメージを受けるのはディオクだ。この喧嘩をしておけば、一人で悶々とはしない。


「相談? 兄上ならどうせ好きに決めて……」


 フィラントに要求したことを話すと、ディオクはうんざりしたような態度を取った。

 隣に座り、腕を掴んでいるから、ディオクは逃げようにも逃げられない。

 

「結婚するって、あの無垢な天使に手を出すってことだぞ! 慣らさないと死ぬ! 悶え死ぬ! 無理! 結婚とか、まだまだまだ無理! でもその間に浮気したら捨てられる! 見張ってくれ!」

「馬鹿言ってないで自分の部屋に帰れ! 女癖の悪さくらい治せ!」

「無理! 自信がある! 治らない! 寝ないと死ぬだろう? 食べないと死ぬだろう? それと同じだ!」

「同じな訳あるか! そもそも見張れって、兄上は昼も夜も関係ないだろう?」

「ああ、盲点だった。昼の潔白はどうやって証明しよう。よしディオク。一緒に考えてくれ」


 ディオクは「帰れ」と暴れたけど、フィラントと違って非力。私よりも弱い。なので、仲良く一緒に寝た。

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