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【幕間】会議をする

 シャーロット・ユミリオン男爵令嬢、アルタイル王族疑惑から1週間後。謎の冠に対する実験結果と、彼女の生い立ちの調査結果が出た。

 まず謎の冠の名は、青薔薇の冠。国王が代々引き継いでいる王家の書によると、青薔薇の冠は、アルタイル王の娘に反応すると記されていた。正確には、継承の儀式の際に王の宝剣と青薔薇の冠に血を注ぐ行為をし、そうすると王の娘にしか反応しなくなる、という記述。

 実験してみると、冠はアルタイル王族やその血筋の貴族女性達にも反応しなかった。崩御した先代国王の妹でも無反応。

 シャーロット・ユミリオン男爵令嬢は先代国王の隠し子だろう、という結論を付けるしかない。


 調査した結果、シャーロット・ユミリオン男爵令嬢の生い立ちは、少々複雑だった。

 ユミリオン男爵の養子、という記録から遡ると、病院に辿り着く。彼女は王都の病院で誕生していた。未婚の母の元に生まれている。母親は病院に子供を置き去りにして失踪。偽名で、家族や父親の名前も全部偽り。身寄りのない赤子は孤児院送りになった。


 ユミリオン男爵夫婦は、中々子供が出来ずにシャーロットを養子に迎える。

 自分達の娘は、こんなにも素晴らしいという見栄を張る為に、二度の転居の際に年齢をカサ増し。彼女は戸籍上、17歳だった。

 ユミリオン男爵夫婦は、幼い頃は養子を大事に育てていたけれど、実子が生まれたことで、シャーロットを疎むようになる。

 教育放棄と労働強要。本人達から、証言を取った。


 アルタイル城の国王政務室のソファに腰掛け、テーブルの上に実験結果や調査報告書を読み回し終わった私達は、全員ため息を吐いた。

 窓の外はもう白んでいて、夜明けが近いと告げている。

 

「数々の隠し通路や隠し部屋、地下神殿に奇妙な国宝。アルタイル王族は実に不思議な一族ですね……」


 ディオクの隣に腰掛けるマクシミリアン宰相は、しげしげと王家の書を眺めている。


「父上、街で女性に手を出したのか?」


 ボサボサの髪を掻いて、更にボサボサにしたのは、1人掛けソファに座るリチャード国王。


「と、思うしかないですよね。この結果……」

「しかも、調べて気がついたけれど、シャーロット令嬢、お祖母様の若かりし頃に良く似ている」

「ホールの肖像画だろう? 青い薔薇の冠を身に付けた絵。あの薔薇冠はこれだったのか」


 ディオクとフィラントが、王家の書の青薔薇の冠の絵を見た後、顔を見合わせる。


「で、どうします?」


 私の問いかけに、全員が複雑な表情を浮かべた。


「この間のパーティで、年配者の中にシャーロット令嬢はまるで蘇ったルシル王妃だ。幽霊なんているわけないから、先代国王の隠し子だろうという噂話が出たらしい」

「クラウスの奴、目を離した隙に、シャーロットはお姫様と口にしてしまうらしいんだ……」


 ディオク、フィラントは二人して「隠蔽は無理」と言いたげ。


「ユース、君が彼女を王都へ呼んで、おまけに公の場に出したからだ。もしかして、最初から分かっていたのか?」


 非難の目を向けてきたリチャード国王に、私は首を横に振った。


「まさか。それなら先に報告してます」

「だよな。しかし、どうしたものか。まあ、姫が男だったり、王子が騎士で、騎士が王子だったりした国だ。隠し子くらい発表しても、大したスキャンダルではない。どこの派閥にも影響のない娘だしな」


 リチャード国王はディオクを見て、それから私とフィラントを確認した。


「革命で、色々と暴露されましたからね。姫が王子。そして何より、ユース王子が長年騎士として生きていたなんて、驚きしかなかったです」


 マクシミリアン宰相は、懐かしそうに目を細めた。ユース王子、こと現フィラントは目を瞑って黙っている。私と入れ替わっていた日々を、戦場での怪我でほぼ忘れているのを隠すため。

 こいう話になると、何も喋らないのが一番だというように、フィラントはいつも今のような態度を取り、沈黙する。


「おまけに、王子として育てられた男が単なる捨て子。というか、何故私は未だに王子と呼ばれるのか、甚だ疑問です」


 現ユース、元奴隷のフィラントである私は、肩を竦めた。


「単なる捨て子ではなくて、俺の大事な弟分だ」

「おい、フィラント。その件は私が兄だということでまとまった筈だぞ。エトワールのように、お兄様♡と呼べよ」

「気持ち悪い言い方をするな! エトワールにも止めさせろ。絶対に呼ぶか」

「またまた、恥ずかしがるなよ。ほらっ、言え。お、に、い、さっ痛!」


 隣に腰掛けるフィラントに、背中を殴られた。馬鹿力なので、手加減されても痛い。


「だから、気持ち悪い!」

「私は気持ち悪いのが取り柄だ! 性格まで格好良くなったら、完璧人間ではないか。奴隷から宰相。そして、容姿端麗で頭脳めいせっ……はい、止めます」


 睨み合っていたら、リチャード国王に手で静止されたので、素直に黙る。


「痴話喧嘩するな。ユース、君は宰相になったし、名誉王子だ」

「ドブネズミ王子、ゴマスリ王子、双子王子、子爵王子、偽王子、まあ色々呼ばれてますね。全部王子。兄上まで。私は子爵ですよ」

「私がそう決めたのだから、名誉王子だ。とやかく煩い連中の陰口など無視していろ」

「リチャード兄上、ユース兄上、話が逸れていくので、戻して良いですか?」


 呆れ声のディオクに、軽く睨まれる。


「先代国王の隠し子。ディオクが姫の時の名前に因んで、レティア姫として発表しましょう。隠すだけ無駄でしょうから」

「ディオク、今私の顔を見た?」

「ええ、ユース兄上。血の繋がりはないけれど、お兄様♡と呼ぶので、上手く繕ってください。策略、陰謀はお兄様の得意とするところですから楽勝ですね」


 レティア姫の時の表情で、満面の笑顔をしたディオクを睨む。長年騙されていたから、未だにムカつく。絶世の美女が男なんて、ロマンのロの字もない。

 この面子なら、そうなるよな。私は肩を揺らした。それから、顔を横に振る。


「嫌だ。面倒事なんて拒否する。この国は私を働かせ過ぎだ」

「ユース、頼む」

「はい陛下、畏まりました」


 リチャード国王に頼まれたら仕方がない。立場を入れ替わって命を救ってくれたフィラントと、見過ごすどころかバレないように教養を教えてくれた恩人のリチャード国王には、基本的に従う。


「何でそんなに態度が違うのですか!」

「だって君、懐いてくれないんだもん。おまけに、エトワールに唆されて、大国の権威にも目が眩んで、カール令嬢と私の縁談を後押ししただろう」

「パンがバターを塗ってやってきたのですから、受けるのは当然です! さっさと得意の口説きで、あのカール令嬢を手篭めにしろ」

「やっぱりお前か。フィラントだけで、話を進められるとは思っていなかった。リチャード兄上は、私に結婚強要なんてしない」


 あのよく分からないカールは、ディオクに押し付けてやる。今決めた。絶対にそうする。


「強要すると、婚約者役だか妻役を雇うと思ってな。で、こんな面倒事を持って来て困った男だな」


 リチャード国王に非難の目を向けられて、軽く凹む。確かに、その通りである。


「いえ、クラウスというかエトワールです。そうです。エトワールのせいです。義理の妹が欲しいとか、私が心配だから結婚するべきだ、などと言うから」

「おい、ユース。君はそんな理由でシャーロット令嬢を王都に呼んだのか」

「私はエトワールに弱いからな。君のせいで」

「なら素直に応じろよ。何で、無関係の女性を利用しようとした。婚約者役とか、俺達を騙すつもりじゃないか」

「結婚なんてごめんなんだもん。でもエトワールの可愛い笑顔は見たいんだもん。で、デレデレしたフィラントに愛くるしい姪っ子を作ってもらいたかったんだもん」

「姪⁈ おい、また気持ちの悪いふざけた口調で、話を逸らそうとするな。何もかも変だと思っていたが、君は相当シャーロット令嬢を振り回したんじゃないか⁈」


 フィラントを睨んだ後、ふんっと顔を背ける。世の人間達は誰もが何かに優劣をつける。恩も縁も無い小娘の人生なんて知った事ではない。ちゃんと、見返りも考えていたし、計画も変更してあげた。

 フィラントとエトワールの夫婦は、私を振り回す存在。自分でも面倒だけど、大事なのだから仕方がない。

 しかし、結婚なんて断固拒否。カールの件は、国に必要なら考えない事もないけれど、まずはディオクへスライドさせるように努める。


「都合が悪いと、直ぐ黙るよなユース」

「沈黙は金だ」

「雄弁は銀である。おい、古代では金よりも銀に価値があった。だから……」

「もう古代ではない。価値観は変わっていく。揚げ足を取るな」

「兄弟喧嘩はお止め下さい。それよりも、シャーロット令嬢です」


 マクシミリアンが呆れ声を出した。確かに、こんなくだらない言い合いをしている場合ではない。国を背負う私達には、あってもあっても時間が足りない。


「押し付けられる、もとい頼られると思って、幾つか発表計画を考えてあります」


 私は三つの提案をした。その一つに票が集まる。


「それでいくか」


 リチャード国王は、大きく頷いた。


「ロクサス卿との結婚は白紙。まだ未成年だからだ。来年、結婚式典を執り行う事にして、準備を進める」


 リチャード国王に視線を送られたフィラントが頷く。これは、シャーロット令嬢の世話と結婚式典関係は全部フィラントが指揮しろ、という意味だ。

 それにしても、シャーロット令嬢とロクサス卿との結婚をアッサリ認めるとは、リチャード国王の中でロクサス・ミラマーレ伯爵の評価は割と高いらしい。まあ、当然か。私も高評価を付けている。

 ディオクは何か言いたげ。恐らく、私とシャーロット令嬢を結婚させようと提案したいのだろう。渋る理由は、思い浮かばなかった。


「他はユース、ディオク、頼んだ」

「え? 今の流れ、フィラント兄上ですよね?」

「フィラントの何処にそんな時間や能力がある。私とマクシミリアンは政策に集中する。器用にこの件も、政治の方も、両方こなすのはお前達だ」

「流石に激務になるので……」

「街で遊ぶ暇が無くなり、丁度良いなユース。激務、激務といって要領が良いから問題ないだろう? 自分の尻は自ら拭け」


 目を細めたリチャード国王は、私をジッと見て、口をへの字にした。面倒事を持ち込みやがって、とそう顔に描いてある。

 君達の父親の下半身がだらしないからだ、と言い返したい。しかし、お前が言うなと言われるのは火を見るよりも明らか。黙っておこう。


「リチャード兄上! 俺は巻き添えじゃないですか!」

「私の監視役って、大変そうだなディオク。いやあ、なるべく一人で対処するので心配するな」

「諸悪の根源が、何を爽やかに笑っているのですか! こんなに素直で大人しいなんて、何か企ててるだろう!」


 立ち上がったディオクに胸倉を掴まれ、揺すられる。


「まさか。反省しているんだ。シャーロット令嬢の世話係はエトワールで。喜んでするでしょう。公表から、ゴタゴタが終わり、与える部屋などが正式に決まるまで東塔で軟禁」

「おい、無視するな。しれっと話を進めるな」

「ロクサス卿の身辺調査は十分ですので、書類としてまとめて提出します。降嫁の方向で話を進めて、レティア姫に関する王位継承権利を、とっとと剥奪しましょう。上手く進めます」

「無視するなって! 概ね賛成するしかない提案ばっかりするな! 中心になろうとするな!」

「陛下に叱られ、命じられたので、粛々と職務を全うするだけだ」


 引っ込んでいろ、という感情を込めた笑顔を返す。ディオクは頭が切れるし、有能で忠実な部下も沢山いる。

 カールを押し付けるのには、結構手間暇かかるだろう。まずは精神を乱す攻撃からだ。自分が中心でないとやり難いディオクから、主導権を奪っておくのが一番。

 カールは王女側近だったそうなので、レティア姫の教育係を打診。

 で、なるべくアクイラやカールとのやり取りは極力ディオクにさせる。

 孫と、国に優秀な男が欲しいだけなら、私ではなくてディオクでも良いはず。

 珍事件や困り事があっても、くるくる回る自分の頭脳が誇らしい。あとは、運だ。


「まあ、ディオク。ユースの好き勝手は今に始まった事ではない。任せた」

「リチャード兄上! 面倒だから押し付けるって事じゃないですか!」

「私はこういう事の対処や根回しは苦手だ。だから頼む」


 ぶすくれるディオクの両手を、リチャード国王が握る。ディオクはしぶしぶというように「分かっています」と答えた。


「ユース兄上、私に従って……」

「さあ行くぞ、ディオク。まずはアルタイル大聖堂だ。フィラントは何食わぬ顔で東塔に戻って、いつも通りにしてて」

「俺に従わないなら、その前に打ち合わせ……」

「時は金なり可愛い弟よ。行くぞ」


 ディオクの頭に手を乗せ、ぐちゃぐちゃにする。それから、素早く部屋を出た。夜が明け、すっかり朝である。寝ないで会議なんて疲れた。


 先手必勝。世界は自分中心に回す。


 私は常に、好きに、自由に生きるのだ。

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