01 土地を買うおっさん
ダンジョンで一騒動を乗り越え、数日後。私はオリハルコンという交渉材料を得たので、マルクリーヌさんとシュリ君を呼び出しました。
以前から考えていた、十分な資金が得られたら付与魔法による魔道具の工場についてです。今回、カルキュレイターによって付与魔法が効率化され、より小規模な工場でも採算が取れそうだ、という目処が立ちました。
なので、早めに土地を確保してしまいましょう、という算段に至ったわけです。
そうした経緯でマルクリーヌさんとシュリ君を呼び出し、今はお店の事務所の方で三人顔を合わせて座っています。
「で、乙木殿。今回の要件は何かな?」
マルクリーヌさんが話を切り出します。
「はい。実は、こんなものを手に入れたのですが」
そう言って、私はテーブルの上にゴトリ、とオリハルコンを置きます。途端、驚いた様子でマルクリーヌさんが飛び上がります。
「おっ、オリハルコン! そんなものを、どうして乙木殿がっ?」
「経緯については秘密です。しかし、こうしてここにオリハルコンが存在するのは事実です」
言って、私はシュリ君の方に視線を向けます。
「ふむふむ。確かに、これは間違いなくオリハルコンだよ」
シュリ君の目利きでも、オリハルコンであることは保証されました。これで、マルクリーヌさんもオリハルコンがここにある事実を受け入れてくれるでしょう。
「しかし、そのような貴重な金属を私達に見せて、乙木殿は何をしたいのです?」
「ええ、実は欲しいものがありまして。このオリハルコンと交換でどうでしょうか、という話なのですが」
オリハルコンを換金しようにも、大量過ぎると買い手がありません。なので、こうしてオリハルコンの実物を、需要がありそうな相手と直接交渉に出すのです。
具体的には、軍の人間と宮廷魔術師。どちらも、オリハルコンのような貴重で優秀な金属があれば、様々な場面で有効活用出来るでしょう。
「なるほど。オリハルコンで鎧でも作れば、前線での将兵の損耗を抑えることができるでしょう。剣であっても、今まで撃退困難であった魔物を屠るのが容易くなります」
「宮廷魔術師としては、研究材料としていくらでも欲しいところだね」
二人共、今回の交渉について前向きに検討してくれるようです。
「で、乙木殿はこのオリハルコンをどの程度用意できるのですか? ここにあるだけで全部というなら、さほど魅力的な報酬は約束できませんが」
「そうですね。では、とりあえず十トンほど用意できますが、それだけあれば十分でしょうか?」
「オリハルコンを、十トンもっ?」
また、マルクリーヌさんは驚きの声を上げます。今度はシュリ君まで、表情を変えて驚いています。
オリハルコンは、重量に関しては鉄より軽く、一トンで一辺が六十センチメートル程度の立方体になります。
十トンですから、これが十個。縦に積めば六メートル。聳え立ちます。希少金属がこれだけの量、まとめて手に入るのです。驚くのも無理は無いでしょう。
まあ、私の鉄血スキルは、それより遥かに多い量のオリハルコンを吸収してあるのですが。重量に換算すれば、数百トンにはなるでしょう。
一気に出してしまわないのは、交渉の為です。個人的にも、オリハルコンは抱えておきたい希少金属です。可能なら、支払うオリハルコンは少ない方がいい。ですので、相手の出方を見て、こちらから提供するオリハルコンの量を変えます。
「十トンのオリハルコンと引き換えに、オトギンは何が欲しいのかな?」
シュリ君が、肝心な部分を訊いてきます。これに、私は予め用意してあった答えを返します。
「土地が欲しいですね。それも、ちょうど王都のスラム方面の、さらに向こう。外壁の外にある土地を頂きたいと思っています」