32 おっさんの帰還
戦闘が終わり、子供たちと有咲さんが待つ場所へと戻ります。
戦闘後にミスリルゴーレムの群れの処理もしていたので、帰還は早朝頃になってしまいました。もしかしたら、子供たちが起き出しているかもしれません。あるいは、有咲さんの判断で脱出に向けて動き出しているのかもしれません。
等と考えていましたが、それらは杞憂だったようです。子供たちはミスリル製の岩に擬態したプレートの下で眠ったままです。そして、有咲さんはじっと私の帰りを待っていたようです。
私が姿を見せるなり、こちらへと素早く身を寄せてきます。
「おっさんっ!」
そして、有咲さんは私に抱きついてきました。
「無事で、良かった」
少しだけ、震えるような声でした。
かなりの不安を感じさせてしまったようです。姪っ子を悲しませるとは、叔父さん失格ですね。
「すみません、有咲さん。遅くなりました」
「うっせ、ばーか。そんなの、いいんだよ」
有咲さんは、腕の力を強めて私にぎゅっとしがみつきます。きっと、こうして安全が戻ってきたことを実感しているのでしょう。
「異常事態は、解決しました。犯人も倒しました。なので、もう安全ですよ」
私は、安全を示すように語ります。そして震える有咲さんを慰めるように、頭を撫でます。少々子供扱いが過ぎるかな、とも思いましたが。有咲さんは拒否せず、受け入れてくれます。
「安全とか、そういうのじゃねーだろ。分かれよ、ばか」
有咲さんはそう言って、私の方を睨んできます。
どうやら、私の言葉は不適切だったようですね。
理由は、もちろん分かりませんが。
「すみません、有咲さん」
「いいよ」
言って、有咲さんはずずっ、と鼻をすすります。そして私から身体を離すと、手で目の周辺をゴシゴシと強く拭きます。
そしてニコリ、と笑ってこちらに向き直ります。
「んじゃ、そろそろこいつら起こした方がいいんじゃねーか? 危なく無いんだっつっても、早く帰るに越したことはねーだろ?」
確かに、有咲さんの言う通り。シューベリッヒさんが生み出したゴーレムを全て撃退したわけでもありません。子供たちを早めに王都へ帰還させるのは良い選択と言えるでしょう。
時間的にも、十分な睡眠時間は取れているはずです。そろそろ起床し、行動を開始してもいいでしょう。
「そうですね。では、子供たちを起こしましょうか」
「おう」
その後。私たちは子供たちと共に、難なくダンジョンを脱出しました。道中は強力なゴーレムと遭遇することもありませんでした。
子供たちをそれぞれの帰るべき場所に送り届けた後は、ギルドへと報告に向かいました。ダンジョン内で、ゴーレムの発生に異常があった、と。
魔王軍の四天王によるものであったことは言いません。これは、今後の動きを考えると私だけの知る情報としていた方が有意義でしょうから。
しかし、今回のような異常が今後も起こるかもしれない、という話はしておきました。人為的なものかもしれない、ということも指摘しておきました。
これで、王国は魔王軍のテロという可能性を考え、マルチダンジョンの警備、警戒を強化するはずです。第二、第三の異常事態は防げるでしょう。
とまあ、なんだかんだとありましたが、結果的に見れば良いことばかりです。子供たちのレベルは急上昇。有咲さんのカルキュレイターにも期待が持てると判明。普通なら入手困難な、膨大な量のオリハルコンをこっそりと入手。魔王軍の動きについても、私だけの握る情報が増え、王国に対し一つ有利になりました。
危険こそありましたが、それ以上の成果があったと言えるでしょう。