30 おっさんの新技
「ほう、貴様がこの私を止めてみせるというのか?」
シューベリッヒさんもまた、言いながら戦闘に備えて身構えます。
「我が身体は伝説の金属、オリハルコンで出来ている。大した力も感じない、貴様のような下等な人間にこの守りを突破できるかな?」
どうやら、自分の守りに相当な自信があるようです。見れば、シューベリッヒさんやその周囲のゴーレムはみな同じ色の金属で出来ています。それらが全て、オリハルコンなのでしょう。
オリハルコンは、この世界でも最上位クラスの性能を誇る金属です。非常に頑丈で熱や魔法にも高い耐性があり、生半可な攻撃力では破壊不可能。武器や防具に使われ、Sランク冒険者でさえ装備に使いたがる代物です。
そのオリハルコンで全身を構成しているなら、さぞかし頑丈なことでしょう。
ですが、だからこそ都合がいいと言えます。
「突破できるかどうか、試してみましょうか」
私はそう言ってから、素早くシューベリッヒさんへと向かって駆け寄ります。スピードに関しては、さすがに相手が全身金属だからなのか、こちらの方が上です。シューベリッヒさんが完全に対応できない内に、私は蹴りを放ちます。
そして私の蹴りはシューベリッヒさんの脇腹に直撃して、そのままオリハルコンを切断します。
「なっ、なんだと!」
驚いた様子のシューベリッヒさん。慌てたように後退しつつ、腕を振り回して攻撃してきます。食らうとさすがに危険そうなので、私も後退して回避します。
まさか自分が傷つくとは思っていなかったのか、シューベリッヒさんは脇腹を押さえ、立ち尽くしています。
「貴様、どんな手品を使った?」
「大したことはしていませんよ」
「嘘を言うな! この私の、オリハルコン製の身体をこうもたやすく傷つけるなど、同じオリハルコンであってもありえん!」
怒りに震える声で、シューベリッヒさんは言います。絶対的な防御力があると信じていた分、余計に腹が立つのでしょう。
しかし、私がオリハルコンを蹴りで切り裂いたのは事実。
いえ。正確に言えば、切り裂いたのではありません。
削り落としたのです。
私が数多く持つスキルの中の一つに『貧乏ゆすり』というものがあります。元々、日本に居た頃からの能力が引き継がれて生まれたスキルの一つです。
この貧乏ゆすり、効果は足が細く震えるという一見すると意味の無さそうなもの。
ですが、スキルの効果には成長性があり、また物理や魔法の法則さえ超える超常性があります。
私が貧乏ゆすりに着目したのは、レベルが上がり始めた頃、つまり冒険者活動を開始してからです。
戦闘能力、特に攻撃力を求めていた私は、どうにか威力のある攻撃を編み出そうと試行錯誤していました。その中の一つに自爆スキルも含まれていましたが、当然自爆は所詮自爆。自傷ダメージがある以上、限度があります。
そんなある日、私は貧乏ゆすりというスキルについて、ある発見をしました。
それは、足の震える速度、つまり周波数が固定ではない、という点です。ステータスが高まれば高まるほど、そして練度が上がれば上がるほど。貧乏ゆすりは速くなっていくことに気付いたのです。
超高速で振動する足。これがなにかに使えないか、と考えていました。
そして今日。私は大量の希少金属を手に入れました。そして、鉄血のスキルでこの金属を自在に取り出すことも可能です。
この二つのスキルを組み合わせることで、私は一つの技を編み出しました。
名付けるなら、高周波ブレードキック。足に鉄血で金属の微細な刃を生み出し、貧乏ゆすりで超高速振動させます。この状態で蹴りを放てば、接触面を微細な刃が削り落とすことになります。
その効果のほどは、シューベリッヒさんを相手に実証されました。
オリハルコンはミスリルよりは堅いですが、桁違いに堅いというほどでは無かったようです。お蔭でミスリル製高周波ブレードキックは、オリハルコンを削り落とすことが出来ました。
もっとも、ミスリルはそれ以上に消耗してしまったのですが。
「何にせよ、シューベリッヒさんの耐久力では私の攻撃を止めることは出来ませんよ」
「くっ、信じられんッ!」
狼狽するシューベリッヒさん。きっと、ここまであっさりと耐久力を突破された経験が無かったのでしょうね。混乱するのも頷けます。
ですが、すぐにシューベリッヒさんの混乱は収まります。脇腹を押さえたまま、落ち着きを取り戻します。そして、不敵な声色で語りだします。
「だが、残念だったな人間よ。私は既に、このダンジョンの魔物生成エネルギーを掌握している。この意味が、分かるかな?」
咄嗟に言われても何を言いたいのか意味がわからず、私は首を横に振ります。
「つまり、私はエネルギーの続く限り、このダンジョンで自在に魔物を生み出すことが出来るのだよ。それが例え、私自身であろうともなァッ!」
次の瞬間、シューベリッヒさんの身体に光が集まります。光は特に、脇腹の傷に向かって集まっていきます。
そして光が弱まっていくと、そこには失われたはずのオリハルコンがありました。削られた傷など無かったかのように、綺麗な胴体が覗いています。
「ふふふ、見たか人間よ。ダンジョンのエネルギーが続く限り、私はこうして無限に自分を再生させることが出来る。つまり、貴様には最初から勝ち目など無かったというわけだ!」
シューベリッヒさんは得意げに語りだします。どうやら、私の攻撃は最初から無意味だったようです。削って傷を付けたとしても、すぐに回復してしまう。これでは、いつまで経ってもシューベリッヒさんを倒すことは出来ません。
ですが、これはむしろ好機と言えます。
何しろ、私の攻撃手段は、一つではないのですから。