28 おっさん、護る
子供たちが寝静まったところで、私はゆっくりと抜け出します。そして自分のローブを子供たちに被せてから離れます。
「さて、有咲さん。お願いしたいことがあるのですが」
「何だよ?」
「子供たちの面倒を見ていてほしいのです」
「おっさん、どっか行くのか?」
「はい。敵を退治しに」
私が言うと、有咲さんは緊張した表情になります。
「やっぱ、マズいのか?」
「ええ、マズいですね」
有咲さんの問いに、私は頷きます。
ここまで撤退する間、私たちは沢山のゴーレムを撃退してきました。もしも今回の異常事態が何者かの人為的なものであった場合、私たちの行動は既に敵に察知されていると考えたほうが良いでしょう。
そして、敵は私たちを探してダンジョン内を移動しているはずです。一晩の間、ダンジョンに籠もるというのはリスクが高いのです。
もちろん、これは徹夜でダンジョンを抜けようとしても話は同じです。眠気と疲れでボロボロになった子供たちを連れて、まだ見ぬ敵から逃げ続けるのは得策ではありません。
「ですので、私がここから離れて囮になります。可能ならば、敵を撃退してきます」
私が囮になり、単独で敵と接触します。撃退できたなら、安全は確保されます。撃退できなくても、皆さんは私と距離があり、姿を隠してもらいますので、目が覚めてから有咲さんの引率でダンジョンから抜け出すことが出来ます。
敵も私と接触することで、今回の侵入者が私だけだと勘違いするでしょう。
つまり、子供たちが安全に撤退するなら、ここで有咲さんに子供たちを任せるのが一番なのです。
ダンジョン内の異常についても、確実にギルドへ伝えなければなりません。二手に別れるのは、そうした面でも効果的です。
有咲さんは、そうした理由をなんとなく察しているのでしょう。緊張した様子で頷きます。
「アタシが、責任持ってコイツらを守る。だからおっさんは、安心して行ってこいよ」
「はい、お任せします」
こうして、私は行動を開始しました。
まずは、子供たちと有咲さんが隠れる安全な場所を作らなければなりません。ミスリルゴーレムを撃退して入手した、大量のミスリルを使います。
鉄血スキルは、金属を取り出す時、自由な形で取り出すことが出来ます。元々、魔物のスキルです。取り込んだ金属を刃のようにして取り出す魔物のスキルなので、こうした効果があるのでしょう。
で、私はこの力でミスリルをゴツゴツといびつに湾曲した板状に生成します。このミスリルの板で、子供たちの眠る岩陰を覆います。
そして、次に粘着液をミスリルの表面に吐き出します。
「おっさん、汚い」
有咲さんが嫌そうな顔をしますが、これは必要なことです。止めるわけにはいきません。ミスリルの板の表面に、周囲の地面から砂を集め、まぶしていきます。粘着液のお蔭で表面に砂が付着し、まるで岩のような質感になります。
こうして、岩に擬態するミスリル製の仮拠点が完成しました。
きちんと探索しなければ、岩に擬態していることは分からないでしょう。そして、ミスリル製なので魔物の攻撃にもかなり耐えられます。
ここに籠もっていれば、少なくとも朝までは安全です。
「では、後はお願いします」
「ああ。帰ってこいよ、おっさん。待ってるから」
「はい」
有咲さんのためにも、他のたくさんの人達のためにも、こんなところで命を落とすわけにはいきません。
心してかかります。そして、危なそうなら即座に撤退しましょう。





