27 添い寝するおっさん
スープを食べ終わったら、後は寝るだけです。大した荷物は持ち込んで居ないので、岩場の陰になるような場所に集まり、ローブに身を包んで眠ります。快適とは言えませんが、寝袋などに身を包むと緊急時に動けません。冒険者の野営は、こうしていつでも動けるような状態で眠るのが基本です。
しばらくは、私と有咲さんで見張りをします。子供たち四人が眠ろうと寝転がったまま、時間が過ぎていきます。
が、ちゃんと眠れなかったのでしょう。子供たちは、もぞもぞと動きっぱなしです。
やがて、我慢できなくなったのかジョアン君が起き出してきます。そして私の方に歩いてきて、肩を預けるような格好で隣りに座ってきます。
「どうしたんですか、ジョアン君」
「岩が硬くて寝れないよ、おっちゃん」
「そうですか。しかし、今回は仕方ありませんからね。どうにか眠りやすい姿勢を見つけるなりして下さい」
「じゃあ、おっちゃんが添い寝してくれよ!」
ジョアン君が、思わぬことを言い出します。
「おっちゃんが近くに居てくれたら、安心して眠れる気がするんだ」
「そうですか、なるほど」
確かに、安心感は眠る上で重要かもしれません。緊張していては、眠気も遠のくというものです。
「分かりました。一緒に寝ましょうか」
「うん!」
私はジョアン君と一緒に、他の子供たちが眠っているところへ寄っていきます。そして、適当なスペースにジョアン君と一緒に寝転がります。
「へへ、やっぱおっちゃんと一緒にいると落ち着くなぁ」
「そうなのですか?」
正直、そこまで私の存在が影響するとは思っていませんでした。
「ほら、今日の最初の戦いでさ、俺が危なかった時におっちゃんが助けてくれただろ?」
「ええ、そうですね」
「その時に気付いたんだけどさ。おっちゃんが側にいると、すごく安心するっていうか、落ち着くっていうかさ。とにかく、なんかよくわかんないけど幸せなんだよな。だから、おっちゃんと一緒なら岩が硬くても眠れるかなって思って」
ふむ。原因はよく分かりませんが、きっかけは今日の戦闘でしたか。戦闘時の恐怖心が、私が助けに入ることで反転し、私を頼りに思うようになった、といったところでしょうか。
何にせよ、私がいるだけで落ち着くというなら、一緒に居てあげましょう。
「ジョアンだけ、ずるいですっ」
ローサさんが起き上がって、こちらに寄ってきます。
「私も、乙木のおじちゃんと一緒に寝たいです!」
「ローサさんもですか」
思っていたより、子供たちに好かれているようです。ローサさんはジョアン君とは反対側の隣にするりと入り込んできます。そして、私の身体に抱きつき、ほっぺたをくっつけてきます。
「おじちゃん、やっぱり可愛いです」
「可愛いのですか?」
「はい。洞窟ドワーフみたいで、私、おじちゃんのこと好きです」
なるほど。おとぎ話に出てくるキャラクターそっくり、というのがここで効いてくるわけですか。
ローサさんからしてみれば、愛玩動物を愛でるような感覚なのでしょう。
「二人が良いなら、僕たちも」
「おじさまと添い寝したいです」
そして、ティオ君とティアナさんも起き上がり、こちらに寄ってきます。ジョアン君とローサさんの二人で左右が埋まっているからなのか、覆いかぶさるようにのしかかって来ます。
「お二人も、よく寝れないのですか?」
「うん。でも、ママにも言われたから」
「おじさまはロリコンかもしれないから、ちゃんと誘惑しておきなさいって」
なんと、下心ありきでしたか。しかし、誘惑の意味をちゃんと理解しているのでしょうか?
「誘惑と言いますが、何をするのか分かっていますか?」
「ううん。ママは、おじさまに任せておけば大丈夫だって言ってた」
「わたしも分からないけど、おじさまのしたいようにして下さい」
困りましたね。さすがに、この年齢の子供に手を出すつもりはありません。それに、二人以外もいますし。誘惑に乗るわけにはいきません。
しかし、蔑ろにするのもかわいそうですね。
「では、こうしましょうか」
私は、四人の子供たちをまとめて両腕で抱き寄せます。身を寄せ合って一緒に眠りましょう、というわけです。
「おやすみなさい、皆さん」
私の腕の中で、子供たちは安心したような顔をして、目を閉じました。