25 緊急事態発覚
スチールジャイアントゴーレムを瞬殺したので、後は楽な戦闘でした。私が小規模な自爆で次々とゴーレムをまとめて撃破。後衛三人による魔法射撃で各個撃破。
そして数が少なくなってきたところで、演習です。せっかくなので、前衛をジョアン君と有咲さんに代わってもらい、後衛との連携訓練を行うことにしました。
二人は次々とゴーレムを棍棒で殴り、横転させていきます。そして横転したゴーレムには後衛組が魔法を集中砲火。その頃には前衛の二人が次のゴーレムを転倒させにかかっています。以下、無限ループです。
そうした作業的な戦闘の中で、一つ気付いたことがあります。有咲さんのスキル、カルキュレイターについてです。
どうやら高い演算能力が数式以外に使えることは間違いないようです。というのも、有咲さんはまるで未来予知でもしたかのような正確さでゴーレムの攻撃を回避し、合理的な手順でゴーレムを転倒させていきます。
目についた順、というわけではありません。逃げるゴーレム、攻め込むゴーレム。攻撃を振りかぶったゴーレム。そうした動きも含めて、次に最も転倒させやすく、かつ魔法射撃で狙いやすい個体を導き出しています。
元々戦闘経験の無かった有咲さんが、これだけの戦闘能力を発揮する。これは間違いなく、スキルの効果と言っていいでしょう。
そして、それはつまりカルキュレイターには観察力の強化という効果も含まれることを意味します。単なる女子高生が、何の補助も無しに戦闘中の敵の情報を冷静に取得できるはずがありません。スキルによる補助があって、初めて有咲さんは情報を得て、その情報を元に最適解を導き出しているわけです。
その証左とも言える現象も見受けられます。
ローサさんが魔法の発動に失敗し、ゴーレムを仕留めきるのに失敗するパターンがあります。この時、ゴーレムは立ち上がるか、あるいはそうでなくとも這いずって近距離の敵、つまり有咲さんを攻撃します。
有咲さんはゴーレムがある程度確実に撃破されることを信頼しているのでしょう。その関係で、後ろから不意打ちを食らうことが稀に見かけられます。
もちろん不意打ちの可能性も気付いているのでしょうが、その予兆を目で観測できていない以上、正確なタイミングは分かりません。
なので、有咲さんは背後を気にしながら戦っています。そして、時折ゴーレムが背後から襲撃してきた時は、驚きながら対応しています。
そうした様子から察するに、やはりカルキュレイターは観測した情報を元に正確な演算をするスキル。そして観測されていない情報は演算不可能。その為、背後の攻撃は読み切れず、前方の攻撃は未来予知同然の動きで読み切っているのでしょう。
つまりカルキュレイターとは、得た情報を解析し、正解を導く能力。その範囲は、数字や単純な計算処理に留まらない。
そう考えるのが妥当でしょう。
となれば、今後が楽しみですね。カルキュレイターの能力は、理想に限りなく近いものと言えます。これなら、計画していた様々なことが実現可能になるかもしれません。
等と考えていると、戦闘が終わってしまいました。すべてのスチールプレートゴーレムが活動を停止しています。その数、なんと六十八体。
既に鋼はかなりの量を確保していますが、あって損するものではありません。私のステータスが高いおかげか、鉄血スキルの容量もまだまだ余裕があります。すべてのスチールプレートを回収してしまいましょう。
「おい、おっさん」
有咲さんが、私に近寄ってきて小さな声で言います。
「ちょっとおかしいことに気付いた」
「ふむ、聞かせて下さい」
「見た感じ、アタシらが今まで見つけた鉱床の数と、生まれたゴーレムの数が釣り合わないんだよ」
言われて、私はなんとなく意図を察します。
鉱床はゴーレム生成の副産物。それはつまり、鉱床が多いほどゴーレムは沢山、あるいは強力に生まれるということにもなります。そして、私たちが見つけた鉱床はあまりにも数が多かった。
私たちが偶然、鉱床を発見できたと考えるのは少し不自然です。なので、このダンジョン全体で私たちが発見したのと同程度の頻度で鉱床が発生していると考えられます。
となると、今度はゴーレムの数や質が不自然です。このダンジョン全体で膨大な鉱床が発生しているのであれば、スチールジャイアントゴーレム一体とスチールプレートゴーレム六十八体はあまりにも数が少なすぎます。
だとすれば、全体でゴーレムが大量発生、異常発達しているはずです。しかし、それにしては遭遇する頻度があまりにも少ない。
不自然な状況が重なり過ぎています。そしてこの不自然な状況を説明できる陰謀論を、私はたやすく想像出来てしまいます。
例えば、魔王軍の工作員の仕業とすればどうでしょうか。人類に打撃を与えるため、資源の源であるダンジョンに破壊工作を敢行。ダンジョンそのものを破壊するのは難しい為、使用不可能な状況を生み出す方針に話は進みます。ダンジョンの魔物を集め、管理し、過剰に成長させ、深部の人目のつかない場所に集め続ける。そして時が来れば、集めた魔物を開放する。
ダンジョンに鉱床が多すぎること。魔物が少なすぎること。ミスリルプレートゴーレムやスチールジャイアントゴーレムと遭遇したこと。すべてに説明がついてしまいます。
もちろん、安易な陰謀を想像通りに存在するのだと信じるわけではありません。ですが、現在の状況はそれだけおかしい何かがなければあり得ない程度には不自然なのです。
警戒をするに越したことはありません。
「念のために、これから帰還することにしましょう」
私が言うと、有咲さんは頷きます。さすがに子供たちをこれ以上、ダンジョン内で連れ回すわけにはいきません。