24 カルキュレイターの性能
ミスリルプレートゴーレムの撃破後。表面のミスリルだけは私が鉄血スキルで回収し、探索を続けます。
ミスリルプレートゴーレムの後は、また魔物との遭遇が無くなりました。運が良いのか、悪いのか。代わりに鉱床が沢山見つかります。
鉱床がこれだけあって、魔物がいない。鉱床はゴーレム生成の副産物ですから、極めて不自然です。
考えられる可能性は二つ。一つはどこか別の場所に、群れで集まっている可能性。もう一つは、鉱床の数にふさわしい巨大で強力な魔物がいる可能性。
どちらにせよ、子供たちや有咲さんでは危険な相手かもしれません。しっかり警戒して置かなければならないでしょう。
「お、おっちゃん」
私が考え事をしていたところで、先頭を歩くジョアン君が声を上げます。それに反応し、私は目を凝らします。
噂をすれば何とやら。進行方向に、大きなスチールプレートゴーレム。そして周囲に数十体ほどのスチールプレートゴーレムが集まっているのが見えます。
どうやら、私の予想は両方正解だったようですね。
「どうやら、強敵出現のようです。私が先頭に立つので、皆さんは安全な後方に控えてください。有咲さんはこのまま殿を。そして魔法攻撃が可能な方は、私に当たらないよう援護射撃をして下さい。相手は足の遅いゴーレムだけですから、私が抑える限り安全に援護射撃の練習ができますよ」
私は指示を出しつつ、冗談めいた言い方で空気を軽くします。恐怖心や緊張を解きほぐす為です。
ちゃんと効果があったのか、子供たちは笑みを浮かべながら頷きます。
そうして陣形を変え、私が先頭に立った所です。不意に有咲さんが口を開きます。
「ちょっと待て、おっさん。なんか変だ」
言って、敵の大将と思われるスチールプレートジャイアントゴーレムを睨みつけます。
「多分、あれ中身も鉄だ」
有咲さんの指摘に、私は目を見開いて驚きます。
「分かるのですか?」
「ああ。なんとなく、動きが違うっぽい。ほら、中身が石の奴も、動きに個体差があったろ? そこから、もしも巨大になったら、ってパターンも想像できるんだ」
「なるほど、そして想定とあの巨大ゴーレムの動きに食い違いがあると」
「そういうこと」
言われて観察してみますが、私にはまるで分かりません。ゴーレム毎の個体差はもちろん、巨大ゴーレムの違和感も。
恐らく、これこそがカルキュレイターというスキルの効果なのでしょう。正確な計算をするには、正確に情報を得なければなりません。数値計算にしても、目測が誤っていては答えが正しく得られません。
そして、観測された僅かな差異を解析し、さらにはシミュレートまで実行。普通の人間が咄嗟に出来ることではありません。ましてや、普通の女子高生であった有咲さんなら尚更。
それを踏まえると、カルキュレイターの効果の一部と考えて間違いないでしょう。
「有咲さん、今後も気付いたことがあれば、遠慮なく言って下さい」
「おっけ、任せろ!」
有咲さんに新たな役割を指示します。これで、戦闘準備は整いました。
「では、スチールゴーレムの群れへと接近しますよ」
私は先頭に立つと、そう言って皆さんを先導します。ある程度近づいたところで、今度は私が一人で接近します。ジョアン君が付いてこようとしていましたが、手で制止します。
ゴーレムの群れの中に飛び込み、まずは自爆スキルを発動させます。ドゴォッ、という音と共に、私の周囲に居たスチールプレートゴーレムが活動停止します。その数、八体。
これが攻撃開始の合図となったのか。ティオ君、ティアナさん、ローサさんの魔法の援護が入ります。
「アイスシュート!」
「エアシュート!」
「えっと、ロックシュート!」
三人が、それぞれの持つ属性通りの魔法で攻撃を放ちます。威力は直撃したゴーレムを吹き飛ばす程度のもの。ゴーレムの耐久力が高い関係で、レベルで優位にある三人の攻撃は耐えられてしまいます。
ですがこの調子で魔法攻撃を繰り返せば、数発でゴーレムは沈黙するでしょう。物理攻撃とは違い、魔法攻撃への耐性はそこまで高くありませんからね。
魔法攻撃の援護もあるので、今のうちに巨大ゴーレムの方へと近づきましょう。
私は距離を詰め、様子見として巨大ゴーレムの胴体を殴ります。すると、中身が石とは思えないほど頑丈で重い手応えがありました。どうやら、本当にこのゴーレムは中身まで鉄でできているようです。
つまり、このゴーレムはスチールジャイアントゴーレムだということになります。
なお、スチールゴーレムとアイアンゴーレムの違いは、鍛えた鉄かそうでないかという点です。その影響か、スチールゴーレムの方が色合いが暗くなっています。
言ってしまえば、素材が鋼か鉄かという違いです。鋼の方が頑丈で、鉄は壊れやすい。その関係で、アイアンゴーレムはスチールゴーレムほどの頑強さはありません。プレートゴーレムの場合も例外ではありません。
そして、逆を言えばスチールゴーレムは全身が鋼。非常に強固であるため、私の自爆だとかなりの威力が必要になります。
ですが、高威力の自爆は周囲を巻き込み、味方まで傷つけてしまいます。なので、自爆はこのゴーレムを倒す上で使用できません。
では、どうするのか?
答えは単純です。
「さて、頂きます」
私は掌に浅い傷を付け、スチールジャイアントゴーレムに触れます。
そして鉄血スキルを発動。全身が完全に金属で出来ている為、このスキルがあれば全身を吸収可能。微粒子レベルまで分解されてしまえば、スチールジャイアントゴーレムと言えども耐えることは出来ません。即死です。
わずか数秒で、巨大ゴーレムの全身を吸収。
完全勝利ですね。
ご指摘があったので、アイアンとスチールの間違いを修正しました。
本気で勘違いしておりました。申し訳ありません。