08 チートじゃないスキル
私は期待して、女神様の声を待ちます。
しかし、いくら待っても女神様の声は響きません。
「あの、すいません」
私は仕方なく、こちらから女神様に呼びかけてみます。
「うわっ、誰っ?」
女神様の驚いたような声が響きます。
「あの、私もそろそろチートスキルを貰って、異世界に転移させて貰えると助かるんですが」
「へ? あれ、うそ、なんで? もう全員送ったはずなんだけど?」
なにやら、話の雲行きが怪しくなってきました。
「えっと、間違いないわ。用意したチートスキルは全部無くなってる。ちゃんと勇者召喚で要求された人数だけ向こうに送ってるわ」
「あ、そうなんですか」
「え、いや。じゃああんた誰なの? おかしいじゃん!」
何だか、先程までの女神様とまるで口調が違いますね。
人がたくさん居た間は、仕事用の口調で喋っていたのでしょうか。
個人的には、親しみやすくて今の口調の方が好きです。
「えっと、私は乙木雄一という者です。三十五歳の独身で、コンビニでバイトリーダーのような感じの仕事をしております」
「あ、そうなの。これはご丁寧に」
腰の低い感じの声が返ってきます。
「って、そうじゃなくて! コンビニ店員って、なにそれ! おかしいじゃん! 勇者召喚は勇者称号に相応しい四人と、関係の深い人達、つまりクラスメイトや教師だけを召喚したはずよ。コンビニ店員が紛れ込む余地が無いわよ!」
「あー、なるほど。そういう感じでしたか」
なんとなく、流れが読めてきました。
つまり私は本来、召喚されていないはずの人間だったのでしょう。
「なんであんた、じゃないや乙木さんはここに来ちゃったの?」
「それは多分、巻き込まれたからではないかと。おそらく勇者召喚のタイミングで、私は六ツ賀谷高校の生徒四人に絡まれて、胸ぐらを掴まれていたので」
「冷静につらいこと言ってる! なにこの人! ちょっと怖いわよ!」
女神様が興奮しているようです。でも、高校生に囲まれる程度を辛いこととは面白いですね。コンビニ店員はヤクザに囲まれることもありますよ。四人じゃなくて十人ぐらいに囲まれて殴られたこともあります。
四人の高校生に囲まれるぐらい、可愛いものです。
「可愛くないわよ!」
おおっ。なんと、女神様は心が読めるようです。
「手っ取り早く話を済ませたいから、心を読ませてもらってるわ。で、本題に戻るわよ」
はい。話を逸らせてすみません女神様。
「困ったことに、乙木さんは勇者召喚で呼ばれてないからチートスキルは残っていません」
ですよね。在庫管理はしっかりするべきですし、当然です。
「でも元の世界に帰すこともできないし、このまま異世界に飛ばすことも出来ない。召喚に巻き込まれた以上、何かあげないと異世界に飛ばせないのよ」
となると、このまま女神様とずっと一緒ですか。
女性経験が少ないので、声だけでも一つ屋根の下というのは、ちょっと嬉しいですね。
「何この変態! キモいんだけど!」
ああ、やはり嫌われてしまいました。
まあキモいと言われるのは慣れているので平気ですけどね。
「慣れてるってとこがよけいキモいわよ。もうやだ、早く転移してよ変態」
と言われても、私には転移する手段がありませんし。女神様の方でどうにかしてもらうしか。
「こっちだってそんな方法あればやってるわよ! もうチートスキルは売り切れだし、無理なものは無理!」
ですよね。
「あっ。でもないかも!」
そうなんですか。
「チートスキルを作る参考の為に、あらゆる魔物、植物、無機物から集めたどうでもいいクズスキルが大量にあるのよ。私が持ってても仕方ないっていうかスペースを圧迫して困るし、どこかに捨てなきゃいけなかったのよね」
はあ、なるほど。
「そこで乙木さんの出番よ。この廃棄スキル全部あげるわ。そうしたらちゃんとスキルを貰った判定になるから、異世界転移もできる!」
そうですか。でも廃棄スキルなんですよね。大丈夫なんですか? そんなの身体に突っ込んで。
「大丈夫よ、多分。ダメでも乙木さんキモいし別に私は気にならないわ」
酷い言われようですね。
でもキモいのは私のせいなので仕方ありません。
それに廃棄品とはいえ、貰えるのなら貰ったほうがいいでしょう。
「じゃあ決定! ほら廃棄スキルど~ん!」
女神様の言葉と同時に、大量の何かが私の中に入り込む感覚がありました。
これは、ちょっと、苦しいのですが。
「知らないわよ! 死にそうなら勝手に向こうで死んでちょうだい! じゃあさよならど~ん!」
今度は女神様の言葉と同時に、私の身体が光り始めます。どうやら異世界転移が始まったようです。
そして、私は謎の胸の苦しさもあって、あっさり意識を失うのでした。